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電書第2巻 2/25コミックシーモア配信《連載再開しました》ドアマット幼女は屋根裏部屋から虐待を叫ぶ  作者: はなまる


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第23話 ドアマット幼女と大きな犬

 ダグラスさんがお仕事なので、その間牧場を見学することになりました。案内してくれるのは、ソフィアさんの旦那さまのベックさんです。おじい様亡き後、家業の牧場と果樹園を取り仕切ってくれている方です。


 小さい牧場と聞いていましたが、乳牛と羊毛用の羊、養鶏も手がけているそうです。馬に関しては、完全におじい様の趣味。そういえば、『陽だまりのエルシャ』の中のおじい様は、馬と釣りをこよなく愛する人でした。


 おじい様のことを考えると、馬車で見た悪夢を思い出して胸がチクチクと痛みます。この気持ちを、心のどこに置いたら良いのかわからないのです。おばあ様に全てを告白したら、置き場所が決まるのでしょうか。


 仔馬は思ったよりもずっと小さくて、まだ産毛が抜けていないので、ふわふわです。母馬から片時も離れず、トテトテと着いて歩いています。歩くリズムに合わせて、(たてがみ)が頭のてっぺんでほよほよと揺れています。


 少しだけ触らせてもらいましたが、母馬にムヒヒーンと歯を剥いて怒られてしまいました。


「あの子は人間でいうと何歳くらいなんですか?」


「馬は生まれて1年が過ぎるとだいたい六歳と言われておりますから、ええと、今は1歳半くらいですね」


「まだ赤ちゃんなのね。わたしの方が、だいぶお姉さんだわ」


「ふふ、そうですね」


 わたしの周囲は大人ばかりなので嬉しくなって、ついつい子供っぽいことを言ってしまいました。微笑ましいという視線を向けられて、ちょっと恥ずかしいです。


 馬場は広く、風通しが良いです。森の向こうに見える山脈の上の方は白く色づいています。


「お山はもう、雪が降っているのですね」


「そろそろ紅葉も終わりです。動物たちも冬支度(ふゆじたく)に忙しいでしょう」


「動物も冬支度をするのですか?」


「ええ、冬眠の準備ですよ。秋の実りをたくさん食べて春まで眠るのです。山も森も湖も雪に閉ざされます」


 あたたかい巣穴で身を寄せながら、家族で丸くなるのでしょうか。それはとても幸せな光景に思えます。


「さ、あちらには、生まれたばかりのヒヨコもおりますよ」


 ベックさんに促されて、ニワトリ小屋へと移動しました。


 小屋の前でベックさんが立ち止まり、「おやおや」と言いました。


「お前、また来ているのか」


 誰かが小屋にいるようです。近所の人でしょうか?


 ひょいとベックさんの脇からのぞいてみると、そこにはびっくりするほど大きな、ムクムクした動物が寝そべっていました。


「えっ、オオカミ? ベックさん! ヒヨコさんが食べられちゃう!」


「はは! 大丈夫ですよ。こいつは犬だし、ヒヨコは食べません」


 よく見ると、頭に2匹、背中に4匹、ヒヨコを乗せています。


「大きなナリをしていますが、とても優しいやつです。小さくて可愛いものが好きなんですよ」


 頭から黒い毛皮を被ったみたいな毛色です。顔とお腹は白く、尻尾はフサフサです。


「め、目の周りが黒くて、すごく凛々しいお顔ですね」


 凛々しいを通り越して、ちょっと怖いです。こんな大きな犬は、見たことがありません。


「オオカミと近いとも言われとりますが、雪国ではソリを引く、力持ちで賢い犬種です」


 ピヨピヨと鳴くヒヨコが落ちないように、頭を低く下げてじっとしています。ずっと見ていたら、何だか可笑しくなって笑ってしまいました。


「ふふふ! あんなに怖い顔なのに、ヒヨコをたくさん乗せて……! ふふ!」


「はい、絵本みたいな光景ですよね」


「何という名前ですか?」


「……ヘンリーですよ」


「ヘンリー……。おじい様の……」


 おじい様の名前……。また胸がズキリと痛みました。


「こいつは旦那様が、命で守った犬です。だからこんなにも優しいんでしょうね」


「……いのち、で?」


「二年前……北の湖の氷がまだ薄い、冬のはじめの頃でした。旦那様と散歩に出かけた、まだ子犬だったこいつが……はしゃいでしまったんでしょうなぁ。湖の上へと駆け出してしまって……。案の定、氷が割れてしまい、湖に落ちたそうです。旦那様は助けようとして一緒に落ちたらしく……。村人たちと私が駆けつけた時、旦那様はこいつ抱えたまま、氷の上で倒れていました」


 ヘンリーが小さく、クゥーンと鳴きました。まるでその時のことを思い出しているようです。


「おじい様は……?」


「元々、心臓が弱っておられましたから……。痛ましい事故でしたが、旦那様は『ヘマをしたなぁ。だが子犬は助かったなら半分は成功だろう?』と笑っていらしたとか。奥様も今ではこいつをとても可愛がっていますよ」


 ベックさんの語るおじい様は、わたしの知っている『陽だまりのエルシャ』のおじい様、そのものです。


 お人好しで、涙もろくて、エルシャを甘やかしてばかりの人……。


 ヘンリーがパタパタと尻尾を振りました。ヒヨコが慌てて飛び降りましたが、すぐにまたよじ登っていきます。


 おじい様がこの光景を守った。なんだか誇らしいような……世界中の全てが愛おしいような、訳のわからない……大きな気持ちになりました。


「おじい様に、お会いしたかったです……」


「……ええ。明日にでも、墓参りに行きましょう。ヘンリーも連れて。きっと喜びますよ」




読んで頂きありがとうございます。

ヘンリー(犬)は、ハスキー犬のイメージで書いてます。実際のハスキー犬よりもひとまわり大きく、身体能力も高い感じだと思って読んで頂けるとありがたいです。


明日も二話投稿します。よろしくお願いしますね。




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― 新着の感想 ―
ハスキーよりでっかい犬種だとアラスカンマラミュートですかねぇ。 何度か遭遇してモフらせてもらいましたが、迫力ありました。可愛いけど!
この節も素敵な節でした。 ホロっとしてしまう表現がいくつもあって、でも、読み終わるとやさしい気持ちになれました。小説って素敵ですよね。
 ヘンリーさんが命がけで氷で冷えた水域に飛び込み、後悔せずに助けた犬、ですか……。  エルシャちゃんの物語改変の前後問わず優しい方だったんですね。これは、改変した自分のせいでと言うのは余計になりそうで…
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