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電書第2巻 2/25コミックシーモア配信《連載再開しました》ドアマット幼女は屋根裏部屋から虐待を叫ぶ  作者: はなまる


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第21話 ドアマット幼女と挿絵の悪夢

 皆さまこんにちは。


 エルシャ・グリーンウッド六歳です。


 なだらかな登りの山道を、乗り合い馬車で進んでいます。パコパコと馬さんの平和な足音が木立に響きます。馬車の中は窓からの日差しで暖かく、乗客の皆さんも居眠りをしている方が多いです。


 峠を越えたらふもとの街で一泊して、そこから三つの街を越えておばあ様の家へと辿り着く予定です。


 おばあ様の家は、山と湖に囲まれた大きな森の入り口にあります。その地で小さな牧場と果樹園を経営しながら、ほとんど自給自足のような生活をしているのです。


 でもこれは『陽だまりのエルシャ』の知識なので、実際はどうなのかは、行ってみないとわかりません。ただ、遠くに見えている景色には見覚えがあります。本の表紙や挿絵の背景に描かれていた、特徴のある双子の山脈……。


 今更ながら、ここが本の中の世界なのだと思い知ります。


 それは不思議な感覚でした。


 初めておばあ様に会う期待と不安以外に、心が湧き立つような高揚感があるのです。走馬灯の知識と照らし合わせると、どうやら『聖地巡礼』をする人々と似通った感覚です。


 あの山のふもとまで行ったら、エルシャに逢えるような気がするのです。陽だまりと呼ばれた、明るく幸せなエルシャに。


 変ですよね。エルシャはわたしだし、あの日屋根裏部屋で『わたしはエルシャじゃなくていい』と、決別したのもわたし自身なのに。


 複雑な感情を持て余しているうちに、眠くなってしまいました。隣を見るとダグラスさんも、こっくりこっくりとしています。



   * * *



 気がつくと、わたしは知らない部屋にいました。とても可愛らしい部屋です。


 お花の刺繍のクッション、手作りの素朴なテーブル。窓にはレースのカーテンが揺れています。


 いいえ……、知っています。


 ここはエルシャの部屋。おじい様とおばあ様が、エルシャのために用意してくれた部屋です。


 わたしではない、『陽だまり』の十五歳のエルシャの部屋。


『ようやく迎えられたわ! 私とヘンリーで毎年少しずつ揃えたのよ。気に入ってもらえたかしら?』


 おばあ様が笑い、おじい様が少し涙ぐむ。そんなシーンがありました。


 ベッドの上に、ウサギのぬいぐるみがあります。手に取ると柔らかく、細かい部分まで丁寧に作られています。


「手縫い……?」


「そうよ。可愛いでしょう?」


 おばあ様です。部屋の入り口に立っています。


「はい、とても」


 ぬいぐるみをギュッと抱きしめると、幸せな気持ちになりました。わたしのために作ったと言ってもらえた気がしたのです。抱きしめたら、離したくなくなってしまいました。


「……わたしがもらっても、いいですか?」


 おばあ様は、ふふっと笑ってくれました。……でも、お顔が見えないのです。首から上に濃い影がさしていて。


「やっぱりあなたが奪ったのね。そうやって、わたしのエルシャから、全てを」


 声は優しいのに……怒らせてしまったでしょうか。


「おばあ様……、あの、ぬいぐるみ、かわいくて、欲しくなってしまって……ごめんなさい」


 わたしが近寄ろうとすると、冷たい声が響きました。


「違うわ。私はあなたの、おばあ様じゃない」


「えっ、」


「だって、あなたはエルシャじゃないもの」


 おばあ様は、一冊の本を抱えています。表紙絵とタイトルが見えます。


『陽だまりのエルシャ』。


 わたしは何か言おうとしますが、喉が詰まって声が出ません。


「ヘンリーがね、死んでしまったの……。私ももうじき死ぬ。……あなたのせいよね?」


 抱いていたぬいぐるみの縫い目が、ほどけて中の綿がボロボロと手からこぼれてゆきます。


「あなたが、物語を壊してしまったから」


 おばあ様の持っている本が開き、バタバタと風に煽られて千切れてゆきます。


「あなたが、世界を壊してしまったから」


 おばあ様の身体が、色をなくして、灰のように崩れてゆきます。


「壊れた世界では、誰も幸せになれないわ」


 部屋全体が、色をなくして、どんどん暗く、暗くなり……。


「ごめんなさい! ごめんなさい! おばあ様! おじい様!」


 叫びは声になりません。


 わたしは、うずくまって目を閉じました。



   * * *



「ル……シャ……ルシャ、エルシャ!」


 目を開けると、馬車の中でした。ダグラスさんが心配そうに、わたしの顔を覗き込んでいます。


「ダグ……ラス、さん……」


「うなされていた。大丈夫か?」


「こ、怖い夢、を……」


 夢、だったのでしょうか。本当に? ただの夢だったの?


「どんな夢だったんだ? 人に話せば正夢にはならないと言うぞ。ほら、言ってみろ」


 ……言えません。ダグラスさんをこれ以上、わたしの事情に巻き込むことは出来ない。


『陽だまりのエルシャ』に、ダグラス・リードという登場人物はいないのです。警ら隊の皆さんも、ピートくんも、ハドソン先生も、エバンスさんも出て来ない。


 夢の中のおばあ様が言った通り、わたしのせいで『誰も幸せになれない』のだとしたら……。


 離れなければ……! ダグラスさんを……みんなを、物語に関係のない、『ただの通りすがりの人』に戻さないと……!


 わたしのせいで、みんなが不幸になってしまう。



読んで頂きありがとうございます。


電子書籍『屋根裏のエルシャ第1巻』もどーぞよろしく! コミックシーモア等で絶賛配信中です。

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― 新着の感想 ―
なんとも不吉で良心を抉る夢とif展開ですねぇ。  しかし、世の中には二次創作やリメイク版というものがありますから、アメリカ版マ○チ売りの少女みたいな大胆な変化されたうえで、あくまでハッピーエンドを迎え…
わたしが物語を歪めたせいで、不幸を招いているのでは…。 おばあ様の元へ近付くにつれて、不安を募らせてしまうエルシャの様子に胸が痛みます。 けれど、あの家で九年間も虐待され続けていたら、多分死んでいた…
もう手遅れじゃね?
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