SS 詰所の掟十ヶ条
ピート君視点のSSです。大人の事情で更新できなくてすみません。加筆は順調に進めています。今は第2巻の山場を執筆中です。皆さんに読んでもらいたくて、辛抱たまらんです笑
エルシャが詰所で寝泊まりするようになって、十日くらい経った頃のことだ。
「ピート、これ目を通しておけよ。お前で最後だから。読んだら隊長に戻しといて」
手渡されたのは、『西区ダイハチ隊員 各位』という回覧板。他の隊員全員の『閲覧しました』のサインがずらりと表紙に並んでいる。
「会議の議事録とかかな? アレ難しくてよくわかんないんだよなぁ」
うんざりしながらページを捲ると『詰所の掟十ヶ条』の文字。うへぇ、と声が漏れてしまう。規則とか堅苦しいやつだ。
『第一条』
飴は一日三粒まで(予約制)。食事と寝る一時間以内は禁止
えっ、なにこれ。こんな細かい決まりがあるの? 飴くらい好きに舐めて良くない?
注)但し、泣きそうな時は臨機応変に。
「は?」
誰が泣くの? 先輩たち? それとも僕が泣かされるの?
『第二条』
話しかける時は極力しゃがんで。目の高さを合わせることを心がける(怖がらせない)
注)離れていれば、そこまで気を使わなくても良い。
猛獣との付き合い方……?
『第三条』
おやつは一日二回、十時と三時(予約制)。
注)幼児の胃の大きさを考慮するように。おおよそ手のひら一杯分程度(山盛らない)
幼児……? あー、わかった。エルシャのことだ! よく見たら一番最初に書いてある。『詰所に保護している、エルシャ嬢について』だった。あー、色々、びっくりした。
それで? あと七つもあるの? 隊長、過保護だなぁ。
『第四条』
詰所の外に連れ出す場合は、前日までに申請すること。
注)出かける前と戻った時に要報告。
これは仕方ないかな。エルシャ、まだちっちゃいからね。でも前日申請かぁー。今度、市場に連れて行こうと思ってたんだよな。申請、通るかな?
『第五条』
抱っこは本人から要請があった場合のみ。
注)落とさないように注意、抱きしめるのは不可。
あっ! これ、僕かも……。ぐるぐる回って落としそうになったこと、あった……!
『第六条』
生き物を持ち込まない。
注)子猫や子犬を、喜びそうだからと拾って来ない。
あー、先週、子猫拾って来た人いたもんな。貰い手探し、僕がやったし。
『第七条』
食事の差し入れはなるべく温かいものを。
注)好き嫌いはないが、栄養バランスは考慮すること。
うへぇ、隊長、口うるさい! なんか母ちゃんみたいになってるよ!
『第八条』
連れて帰ろうとしない。
注)身の振り方が決まるまで、勝手な振る舞い禁止。
あはは! 連れて帰ろうとした人、いたんだ。ハドソン先生かな?
『第九条』
指人形などの出し物を披露する際は、事前に隊長が確認する。
注)下品なネタ禁止。
指人形、出来る人いるんだ。指人形で下品なネタってどんなだよ! くっ、腹いてぇ……!
『第十条』
夜勤時や昼寝の際、頬をつついたりしない。
注)添い寝厳禁。但し、本人から要請があった場合は可。
あー、ほっぺ、つつきたくなるの、わかる! 実は僕、つついたこと、あるんだよな。……内緒にしとこう。
※以上、違反した者は腕立て伏せ五十回の上、接近禁止とする。
西区ダイハチ隊長 ダグラス・リード
腕立て伏せ五十回……。結構みんなは、余裕なんじゃないかな? 僕はまだ連続だと最高で三十二回だけど。
とりあえず全部に目を通したので、表紙にサインして、隊長の執務室へ向かった。
「隊長、ピートです」
ノックして、声を掛ける。
「入れ」
入室して、ピッと敬礼。これに子供の頃、憧れたんだよ! 入隊した当初は、敬礼するたびにニヤニヤしちゃったんだよなぁ。もちろん今は、キリッと決めている。
「これ、全員回ったみたいです。僕で最後です」
「そうか」
隊長の、この『そうか』。堪らなく格好いいんだよな。なんか、こう、“大人の男”って感じで!
「隊長、これ、エルシャには内緒なんですか?」
「内緒というほどではないが、わざわざ知らせるつもりはないな」
「でも、エルシャのサインもありますよ。ほら、ここ」
表紙の、エルシャのサインを指して、隊長に見せる。
「誰が見せたんだ? 全く……!」
あ、ちょっと動揺してる。隊長の動揺した顔なんて、初めて見たよ!
「それで……。エルシャは怒っていたか? 余計なことをしたと……」
「聞いてませんけど……。えっと、ここ……」
今度は最後のページを見せる。
『西区ダイハチの皆さんへ』
突然、お邪魔して、お世話になっています。ダグラス隊長がこんなものを回したりしていますが、わたしのことはあまり気にせず、お仕事がんばって下さい。
いつも皆さんが気にかけて下さって、とても嬉しく感じています。ありがとうございます。
『ダグラス隊長へ』
ダグラスさん、わたし、こんなに子供じゃないわ。これじゃあ、三歳の子供みたいです!
今度は、わたしが“ダグラス隊長への接し方 十ヶ条”を作っちゃいますからね!
エルシャ・グリーンウッド
読み終わった隊長が、飴の大袋を持って立ち上がった。
「怒ってるじゃないか……!」
僕は執務室を出て行く隊長の背中に向かって、声を掛けた。
「隊長、“飴は一日三粒まで”ですよ!」
その後、隊長がどうやってエルシャと仲直りしたのか、僕は知らない。でも、“ダグラス隊長への接し方 十ヶ条”は、回って来ることはなかった。
ただ、例の十ヶ条は、詰所の男子更衣室に貼られている。そして、だんだんと落書きが増えている。
『隊長は、エルシャちゃんを独り占めしてズルイ』
『エルたん、可愛い。抱っこしたい』
『“エルたん”呼びはやめろ!」
『ピート、お嬢に懐かれてて羨ましい』
今日もエルシャは、僕らダイハチのアイドルだ。
読んで頂きありがとうございます。このSSは電子書籍の第1巻には入らないものなので、いわば『なろう読者様限定特典SS』です。更新できない、せめてもの投稿です。なろうで読んで下さる全ての読者様へ、感謝を込めて。
楽しく読んで頂けると幸いです。




