表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
電子書籍化決定《連載版》ドアマット幼女は屋根裏部屋から虐待を叫ぶ  作者: はなまる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/23

第14話 ドアマット幼女と蒸気船の旅 その弍

《お知らせ》謝恩SSゲリラ投稿の第一弾『謝恩SS 僕はピート』投稿済みです。第二弾は、10/20〜10/22のどこかで投稿します。両方とも完全に独立したお話なので、本編を続けて読みたい方は飛ばして下さいね! でも……後からでも読んでくれると嬉しいです。



《ダグラス視点》


 昼寝から起きたエルシャは、いそいそと身支度をはじめた。


 ハンカチを2枚繋げ、それをカチューシャ代わりにして頭のてっぺんでリボン結びにする。


 そしてもう1枚ハンカチを取り出すと、くるくると折り重ねて花を作り、俺のベストの胸ポケットへと突っ込んで、満足そうに笑った。


 女児は、こんなことで喜ぶんだな。


 リボンのひとつも買ってやれば良かったと後悔する。気が利かない自覚はあるが、野郎ばかりの職場に入り浸るような生活だ。女性の着飾ることを楽しむ心理などは、別の世界の話のようだ。


 連れ立って、2階のホールへと向かう。マジックショーを観てから夕食で大丈夫か? おやつに何か食べさせた方が良いだろうか。


 まだ人影がまばらなホールに足を踏み入れた途端、エルシャが立ち止まった。


 ふらりと揺れたと思ったら、そのまま糸の切れた操り人形のように、ぺしゃりと潰れてうずくまってしまった。顔色が真っ白だ。


 どうしたと声をかけて顔を覗き込むと、どこか(うつろ)な瞳で「ごめんなさい、わたしが悪いです」と呟いた。


 抱き上げようとした俺の手に、ビクリと怯えて身を硬くする。目を見開き、視線がユラユラと揺れている。


 あの日、屋根裏部屋で見たエルシャだった。


 エルシャが見ていた方向には、派手なドレスを着た貴族の二人連れがいた。若い女性と成人前の少女だ。


 おそらくは、あの二人が原因なのだろう。


 そう思って見れば、グリーンウッド家の奥方と令嬢に似ている部分があるかも知れない。


 ようやく少し、子供らしく笑うようになったのに。


 エルシャは大人の女性や自分より年上の少女が怖いらしく、相手が庶民であってもすれ違う時には緊張していることが多い。


 心の傷は、今も塞がってはいないのだろう。


 夜にはうなされて涙を流す。仮眠室のハンモックで小さく丸まって嗚咽を漏らすエルシャに、見ている者の胸も掻きむしられる。


 幸い警ら隊の詰所は男ばかりだし、父親を連想させるような品の良いタイプはひとりもいない。皆がエルシャに食べ物や物を与えて甘やかしている。俺を含めて。


 ハドソン医師は早急に里子に出して、親とは縁を切ってしまえと言っていた。『何ならわしがもらう』とも。


 平民ならばそれも可能だが、エルシャの父親は高位貴族だ。そう簡単にはいかない。


 ゆっくりと背中を撫でながら、大丈夫だと言って聞かせると、少しずつ頬に赤みが戻って来た。そっと抱き上げると、今度は俺に身を委ねてくれた。早く部屋に戻って休ませなければ。


 あんなにマジックショーを、楽しみにしていたのに……。


 ところが立ち去ろうとした俺に、当の貴族女性が声をかけて来た。


「ねぇ、そこのあなた。平民よね? この荷物を部屋まで運んでくださらない? 3階の客室なの」


 扇子で口元を隠しての貴族らしい口調だ。


「今は急いでいますから。船のポーターを呼んで下さい」


 俺は彼女の使用人ではない。命令される謂れなどはないのだ。女性がエルシャの目に入らないよう、背中を向けて応える。


「じゃあ、ポーターを呼んで来て……あら……」


 あからさまな視線で眺められた。これだからヒゲを剃るのは嫌なんだ。狩りの標的にされるのは御免だ。


「へぇ……。あなた、お名前は? どこまで行かれるの?」


 自分も子供連れで、子連れの男に粉をかけるなんて、どうかしているだろう! だが旅先でのアバンチュールを求める貴族女性は案外と少なくないのだ。……面倒だな。


「ねぇ! お姉様が聞いているのよ! どうして返事をしないの? 平民のくせに失礼だわ!」


 無言でいたら少女の方が、ヒステリックに言った。エルシャの肩がビクリと揺れる。


「連れの具合が悪いのです。早く、休ませてやりたい」


「じゃあ、そのあとでいいわ。その子を置いてから部屋にいらっしゃいな。珍しい外国のお菓子があるのよ」


「甘い物は好みませんので」


「あなたが一生口に出来ないような、上等のワインもあるわ」


 しつこい。だが舌打ちを耐える。このての貴族連中はほんの少しの無礼でも、イヤらしい根回しや仕返しをする。


「その子供……あなたの娘なの?」


「……いいえ」


「じゃあ、妹?」


「違います」


 質問を重ねながら距離を詰めて来る。甘ったるい香水が鼻をつく。そういえばグリーンウッド家の奥方も、こんな風に強い香水をつけている人だった。


「ねぇ、平民ごときが私の誘いを断るの? ふふっ、私の相手を出来るなんて光栄でしょう? 貴族に恥をかかせるつもり?」


 顔を寄せて、ゾッとするような甘い声で囁いて来る。なんて女だ! 子供が二人もいるこの場面で……! 『恥』が聞いて呆れる。


 もう、放っておいて立ち去るつもりだった。


 ところが……。




「まだ恥をかいていない、おつもりですか?」


 急に、腕の中のエルシャがしっかりした声で言った。


 さっきまでカタカタと震えていたエルシャは、意外なほどに強い瞳で女性を見つめていた。





読んで頂きありがとうございます。ここへ来て、ダグラスさん実はイケメン疑惑が!? 真相は作者も知りません(笑)。電子書籍のイラストを待ちましょう。

さて、久しぶりに正論ぶちかましエルシャが目覚めましたよ! 続きが楽しみだと思った方は、ブクマや☆での評価・応援、よろしくお願いします!

『第15話 ドアマット幼女はダグラスさんを守りたい』は10/23の19:10に投稿です。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
 体調不良の子の看病で手一杯の人に、どこまでしつこく絡むのやら……。  エルシャがハンカチでの手作り花飾りやマジックショーなどの楽しみすら忘れかねないほどのトラウマから、一周回って妙なスイッチ入り始め…
この世界の貴族ってこんなんばっか?
守るものが存在すると人は強くなるといいますが、エルシャは賢いので身分差の強さも知っているのでしょうね。転生前の記憶もあるようですし。  どうなるのか、次回の更新を楽しみにしております。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ