透明な鎖
「ついてこい」
黒髪の徴収官・玖条澪の言葉は冷たく簡潔だった。透は無言で、けれど身体が勝手に反応するかのように澪の後ろをついていく。薄暗い廊下を抜け、鉄の階段を降りる。足音が鉄の壁に反響し、心臓の鼓動が早まっていくのを感じた。
やがて、澪は重い鉄製の扉を押し開けた。冷たい外気が一気に流れ込み、透の目の前には広大な刑務作業場が広がっていた。そこには無数の囚人たちが重い鉄製の台車を押し、資材を運び、黙々と汗を流している。顔には疲労と絶望が刻まれ、目は虚ろだった。
「ここがお前のこれからの居場所だ」澪は言葉を放ったが、その声には冷徹さの奥に微かな寂しさも含まれていた。
透は視線を落としたまま尋ねた。
「ここで、借金を返せということですか?」
澪は無感情に答える。
「そうだ。無申告の能力使用分、そして滞納分。お前は現在、1億を超える課税超過だ。三年以内に返済できなければ、死刑が執行される。」
透の胸を冷たい何かが押し潰す。絶望と焦燥が交錯する中、澪はさらに続けた。
「だが、まだ時間はある。能力は使え。ただし無断使用はさらに重い追徴課税だ。注意しろ。」
透は大きく息を吸い込み、体の奥底から湧き上がる葛藤を押し込めた。透明化の能力を持つ自分が、能力の使用によって借金を背負い、それを返すためにここで働く……理不尽な現実が重くのしかかる。
「どうして、こんなことが……」透は呟く。
「制度は能力者の秩序を守るためにある」澪は一瞬視線を逸らし、やがて厳しい表情で続ける。
「だが、お前のような者を見ていると、俺も疑問を感じることがある。」
作業開始の合図が鳴り響いた。透は鉄の台車を割り当てられ、重たい資材を押し始める。能力を使って逃げることもできるはずなのに、それが許されない。使えば追徴課税が膨れ上がり、さらに厳しい罰が待つからだ。
――今の俺には何もできない。
けど、透は決意した。この制度を変える。
冷たい風が刑務作業場を吹き抜け、砂利の軋む音が響く。