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華ちゃん先生!?いきなりは無茶だって!!

訓練初日。

なのに唐突に放たれた“模擬ノクター体”という理不尽。


鳴り響く警報、迫る異形、吹き飛ぶ生徒たち。

そして迎え撃つは、刀、銃、薙刀を手にした3人の新入生──。

初陣にして地獄。


先生? あなた、出てくるのおっそすぎです!!

教室に朝の光が差し込む。

外では風がざわめき、学校のチャイムが鳴った。


「はーい、みなさーん。おっはよ〜ございま〜す」


変わらずゆるっとした空気の中、華が教室に入ってくる。

手にはカフェラテ、肩には猫のトートバッグ。


「眠たい朝は、カフェラテに限るね〜」


生徒たちはまだまばらに着席していて、後ろの席では男子組がじゃれ合い、前の方では琳が静かに小説を読んでいた。


「先生、そのカフェラテ!ストボの最新作でしょ?いいな〜!みなも飲みたい〜!一口ちょうだい!」


「ふふん、いいですよ〜。でも全部飲んじゃダメですからね? 朝のカフェラテは先生の癒しなんです」


「一口だけならくれるのかよ……」

真一がぼそっとツッコむ。

だが華は気にした様子もなく、みなにカフェラテを渡しながら教壇へ向かう。


「では、今日の予定いきましょうか〜。午前中は、かる〜く実践訓練。午後は、特四でも実際に使用されてる簡易アストラ調整プログラムをやってみましょ〜!」


「軽くって……先生が言うと、ちょっと怖いです……」

琳が静かに華を見つめる。


「ううん、大丈夫! たぶん!」


「たぶんって……」


ざわつく教室。

けれど華はあくまで、いつものマイペースだった。



「はーい、ではでは〜、準備できたら訓練場へ移動しましょっか〜」


華がぱん、と手を叩くと、生徒たちは一斉に立ち上がる。


「訓練って、本当に実践形式なんですか……」

「もう実践!? 制服しか持ってきてないんだけど……!」


ざわめく声をよそに、華はマイペースに猫のトートバッグを肩にかけ、雫からカフェラテを返してもらう。


「だいじょーぶだいじょーぶ。命までは取られませんよ〜、たぶん!」


(たぶん、って……)


心の中でツッコミを入れる生徒達だった。


不穏な言葉を残しつつも、楽しそうに教室のドアを開ける華。

チャイムが鳴ると同時に、生徒たちがざわざわと立ち上がり、高専から急遽支給されたジャージを手に廊下へと歩き出す。


その中で、自然と並んだ三つの背中。


「昨日入学式だったよな。……早すぎるだろ、訓練」


真一がぼそりと呟く。


「わかる〜。せめて一週間くらい“高専ライフ”満喫したかったな〜。今日はゆっくり校舎巡りしたかったよ〜」


雫は嘆きながらストレッチを始める。体を左右にひねりながら、軽い口調は変わらない。


「……アストラ調整なしで訓練って、普通はもっと後よ。初日でカフェラテ飲みながら“実践やりましょ〜”とか、あの先生くらい」

琳も小声で言いながら、まっすぐ前を見据える。


「“大丈夫、命までは取られませんよ〜”って笑ってたしな」

真一が無表情で返すと、琳が小さく鼻で笑った。


「笑いながらとんでもないこと言うのが一番こわいんだけど」


「え、でもちょっとワクワクしない?先生、“ハニービー”って呼ばれてるんだよ?どんな戦い方するのか、私めっちゃ気になるんだけど!」


「……そのあだ名って、自称だろ..?」


「自称でもいいじゃ〜ん。てか、昨日の自己紹介、華先生“授業は実戦で〜す”って言ってたよね。....あれ、冗談じゃなかったんだ」


三人の会話が途切れた瞬間、廊下の先から風が吹き抜け、華の羽織がふわりと揺れるのが見えた。


「……ま、何があっても、今日の主役は私たちでしょ」


雫がニヤッと笑い、先頭を歩く華の背中を追うように足を速めた。

琳と真一も、わずかに頷いて後に続く。




廊下を抜けた先、重厚な扉の前で足を止めた華が、くるりと振り返る。


「はい、それじゃあ、いきますよ〜」


彼女が両手で扉を押し開けると、冷たい空気が一気に吹き抜けた。


コンクリートの地面。高さ数十メートルはある防音壁。とても“訓練場”とは思えない景色だった。


「はーい、というわけで着きました〜。ここが今日からみなさんの庭となる!アスター訓練場で〜す」


下ろした髪をゆるくまとめながら、華が笑う。


生徒たちは一歩、また一歩と中へ足を踏み入れ――思わず息をのんだ。


無数の焦げ跡。歪んだ壁。漂うアストラの残穢。

そこには「使い込まれた訓練場」というより、「戦場の残り香」があった。


「ここ、本当に“訓練場”……?」


琳がぽつりとつぶやく。

華はにっこり微笑んで、さらりと答えた。


「うん。でも壊したの、だいたい私で〜す」


「自慢になりませんって、先生……」


「うふふ〜」


ほんのり緩んだ空気の中、華の声がふっと低くなる。


「それじゃ、整列お願いしまーす」


その一言だけで、生徒たちの背筋が自然と伸びた。

羽織が風に揺れ、彼女の瞳がほんの一瞬だけ鋭さを帯びる。


――“この人は、本物だ”。


誰もがそう思った瞬間、嫌な予感がした。


ジャージに着替え終えた生徒達。

各々が訓練用武器ラックに向かい、それぞれ装備する。

そして軽い準備体操をする者も数名。



「は〜い、それじゃあ〜……準備運動もそこそこに〜……いきなりですが、模擬ノクター体、出しますね〜。はいポチッとな」


華がリモコンのボタンを押すと、訓練場の奥の鉄扉がガタンと音を立てて開き、薄暗い奥から、禍々しい影が姿を現す。


四足で地面をひっかくように進む異形。唸るような機械音と共に、それは現れた。


嫌な予感は的中した。


「ちょっと待って!先生!あれ本物!?」

生徒達は華に視線を向け、少しのパニック。


「模擬ですから模擬〜。特四でも使ってるやつですけど、ちゃんと調整済みですから安心してください〜」


「安心できるわけないってば!」


アストラを帯びた赤い目が光る。


「見た目、全然模擬っぽくないんだけど!?」


「“模擬ノクター体”って、アストラ注入型の実戦訓練ユニットよ。制御されてるけど、攻撃性は本物と同じって聞いた……!」


琳が冷静に説明しながら、鞘から刀を抜く。

雫は拳銃を構え、真一は薙刀を肩に担ぐ。


本来は中〜上級者向け、実戦に準じた訓練用に使われる特殊装置。


「びっくりですよね〜。でもこれ、特四の基礎訓練コースでは基本中の基本で〜す」


「いやいやいや!!」


「ちょっと待って先生!特四と俺らは違うでしょ!?」



その混乱の中で、華は笑顔のまま軽く手を振る。


「大丈夫大丈夫〜。命までは取られませんよ〜、たぶん!」


(“たぶん”ってなんだよ!!)


そんな叫びも届かぬまま、模擬ノクター体が突撃を始める――


多くの生徒たちは模擬ノクター体の咆哮にすくみ、数人が一撃で吹き飛ばされた。


「うわっ!」「速っ……!」


「このアストラの力、異常だろ!」


爆音と衝撃波が響く中、琳が前に出た。

カチャリと鞘に刀身を納め、目を瞑る。


一閃、素早い一太刀を決める琳。


だが、琳の表情は曇った。


「……斬った手応えがない……。装甲、軽く軍用クラス……!」


通常弾の速射を撃ち込む雫。


「ちょっとぉ!頭撃ったのに効いてないんだけど!?これ本当に訓練用!?」


真一が冷静に呟く。


「……あの反応速度に装甲、完全に実戦向けだ。動作学習パターンも入っているのか!これ……訓練用ってレベルじゃねぇぞ……」


「えっ、もしかして先生、現役仕様のデータ入れてない!?」


琳が華に向かって叫ぶ。


「えへへ〜、だってそっちのほうがリアルじゃないですか〜? ちゃんと“出力制限モード”にはしてますよ?」


「それ、今言う!?」


そして通常の攻撃では太刀打ちできないと悟った雫と琳は、連携して技を繰り出す。



朧流おぼろりゅう...かすみ斬りッ」


鋭い琳の斬撃が模擬ノクターに向けられるも、ダメージは浅い。


「アストラ収束完了、グリムショット!」


雫のアストラが銃口から火花を散らす。

精密で確かに模擬ノクター体の頭を捉えたが、まるで効いていない。


「嘘でしょ!?あいつ硬すぎるってば!!」


雫の悲鳴が響く。


アストラを最大限に込めた一撃をいとも容易く弾かれてしまう現実に、琳と雫は己の無力感に苛立ちを見せる。

そんな中、冷静に模擬ノクター体の動きを読み、淡々と攻撃を仕掛ける真一。彼の声が訓練場に響き渡る。


「どけ!お前ら!」


すかさず身を引く雫と琳。


月下げっか...雷鳴らいめい!」


一直線に突き出された鋭い突きが模擬ノクター体の肩口に食い込む。鈍い音が鳴り、装甲にヒビが入った。


 


「……いけるか!?」


 


その瞬間、模擬ノクター体が咆哮し、反撃の一撃。


琳と雫が即座に駆け寄ろうとするも、逆に吹き飛ばされる。二人の身体が地面に転がり、意識を失ったように動かない。


「くっそ...バケモノめ.....」


真一は一人で立ち上がる。

だが模擬ノクター体の猛攻は止まらない。

強力な薙ぎ払いに真一は防御の構えを取るが、それは間違いであった。


「.....っ!」


――バキィッ!


薙刀が折れた。


そのまま吹き飛ばされ、真一は頭から流れ落ちた血を袖で拭う。


「初訓練でこれかよ...」


模擬ノクター体が大きく振りかぶる。


その時だった。

さっきまで離れた場所にいた華が突然真一の前に現れる。


「そろそろ私の出番かなぁ」


のんびりとした声、いつからそこにいたのかと戸惑うレベルの移動速度。風が吹き抜け、華の羽織がふわりと揺れた。


そして一歩前へ踏み出し。強力な蹴りを繰り出す。

衝撃波が走り、模擬ノクター体は防音壁まで吹き飛ばされ、深くめり込み、微動だにしなくなった。


訓練場が、静寂に包まれる。


 


「……刀すらいらねぇってかよ……」


真一が笑い、ニヤリと口元を歪める。


そのまま、バタン、と倒れた。


「あちゃちゃ、ちょっとやりすぎたかな〜」


華は口元をポリポリしながら呟く。




真一が倒れたその数時間後。


校舎裏手に設けられた、簡易の〈回復処置スペース〉。

仮設のベンチと折りたたみ机、そしてその中心に、落ち着いた雰囲気の人物がいた。


「あーもう……またアンタでしょ、華」


呆れ混じりの声と同時に、**パコン!**と乾いた音が鳴る。

華の頭に、分厚いバインダーが振り下ろされた。


「いったぁぁ!ちょっとぉ〜、扱い雑すぎません〜?!」


「そっちが雑なんだよ。訓練初日で半数負傷とか、どういう神経してんのさ」


そう言ったのは、時雨しぐれ ともり

治癒系アストラ〈癒写”ゆうしゃ”〉の使い手で、戦闘には加わらないが高専の医療班を任されている。

冷静沈着な性格と的確な処置で信頼は厚い。華とは学生時代からの友人らしい。


燈の手元には光を帯びたアストラの粒子が舞い、地面に横たわる生徒たちの額に手を当てると、淡い光がゆっくりと傷を癒していく。


「ふぅ、琳は軽い打撲とアストラ枯渇。雫は……念のため休ませたほうがいいね」


「はーい、お任せしまぁす!」


「...いいかげんにしろ」


再びバインダーが振るわれた。


「そもそも“模擬ノクター体”は特四の初期訓練で使われる個体でしょ、なんでそれを生徒にぶつけるんだよ」


「えぇ〜、だってみんな、キラキラしてたじゃないですか〜。“やってやるぞ”って」


「あのねぇ、あんたがやってるのは教育じゃなくて無謀な試練なの。特に真一くん、あれ、骨折寸前だったからね」


「セーフってことですね!」


「アウトだよ」


燈は溜息をつきながらも、次の生徒の前に膝をつく。華は近くのベンチでバインダーを抱えてちょこんと座り込んでいた。


やがて、治療を終えた生徒たちの呼吸が落ち着きはじめる。


燈がちらと視線をやると、真一はまだ地面に倒れたまま、薄く目を開けていた。


「……ったく。あんたがもうちょっと常識人なら、こっちも楽なんだけどね……特四の中じゃ、まだ“まともな方”ってのが、ほんと呆れるわ……」


「でもでも〜、みんな、ちゃんと“前に出た”じゃないですか〜?それって大事なことだと思いません〜?」


燈は口をつぐみ、少しだけ肩の力を抜いた。


「……ま、あの程度で心折れてちゃ、ここじゃやっていけないのも事実だけどね」


「だよねだよね〜!」


「だからって、無謀な訓練させんなっての」


また一発、バインダーが落ちた。

はい!というわけで都るるるです!

今回はちょっぴりゆるさもありつつ、バトルシーンを書いてみました!


次回も引き続きよろしくお願いします!☕️

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