大富豪
最初はともかく、最後はぐだぐだです。読むときは注意してください。
配られたカードに目を通す。うん、悪くない。
俺の持ち札はこうだ。
クローバのA、4、5、6、K
スペードの6,8,10
ハートの3,Q
ダイヤの2,7,J
順番は2番目だが、この持ち札なら大丈夫だろう。問題は出す順番だ…。
選手は俺、松翔と、市原大、藤川郷、斉藤京介の4人だ。
まずは、市原だ。市原は額に汗を滲ませながら、7のダブルを出してきた。しかし、俺はそれに勝てるカードを持っていない。やむなくパスをした。
藤川は、落ち着いた様子で8のダブルを出す。そして間髪入れずに斉藤がパスを申し出た。それにビビッたのか、市原は考え込んでしまった。
俺も順番を待つ間、必死に作戦を練った。
思えば3年前コレは始まった。人生を、ジョーカーを一枚除く53枚のカードで決めるゲーム。コレに負けたものは、刑務所に行くことになる。コレは、裏社会のボスが、警察の追っ手から逃げるために行うもので、俺たちはいわば「影武者」。このゲームで負けたものは、暴力団のボスとして、刑務所に行くのだ。
ターゲットは、暴力団つながりの金融業、いわば「闇金」関係で金を借り、返済できなくなっている人。もしこのゲームに勝ったら、チャラにしてやるというルールの下、同時に影武者が決められているのだ。
俺も最初は軽い気持ちだった。すぐに返せるだろう。そう思って、10万円だけ借りた。すると、1週間も経たないうちに、15万円になっていた。とりあえず、最初に借りた10万円だけは返したが、そこからは利子に利子が重なって、とても返せるような金額ではなくなっていた。
「おい!早く出せよ!」
藤川が市原を怒鳴った。
「わ、分かってる…」
市原は、恐怖から声が震えている。
それから、少し待ったが、市原はなんとここでAのダブルを出してきた。コイツは馬鹿か?!こんなカードを最初から惜しげもなく出しちまうなんて…。俺はそう思いながら、内心ほくそえんでいた。この調子なら、コイツの負けで決定だ。
「パス」
俺は当然出せるカードがないので、パスを選んだ。しかし、俺はまたも驚かされた。
「おらよ」
藤川が2のダブルを出したのだ。こいつまで何やってんだよ。まさか、持ち札がかなりいいのか?俺はだんだん不安になってきた。
当然、斉藤もパスで、順番は、藤川からとなった。
「そういえば、あんたら二人、まだ何にも出してねぇな?かわいそうだから出させてやるよ」
この言葉に、俺はむっとして藤川を睨みつけた。俺とお前とじゃ背負ってるモンが違うんだよ!その感情を口には出さず、目で精一杯伝えた。
藤川は、そんな視線は関係ないといった様子で3を出した。
なめているのか…。だがこれで出せるかもしれない。
次の斉藤は、10を出した。市原はすぐにJを出した。俺もすかさずQを出した。藤川は、カードを取り、ひらひらさせながら話し始めた。
「俺は、結構運は強くてな…トランプなんてのは、毎回いいカードが手札に来るんだよ…お前たちと違ってな…」
そして、Aを出した。
まただ…2といいAといい、こいつは確かに強運を持っているかもしれない。
俺には、もうすぐ小学4年生になる娘がいる。妻もいる。家は金に困っているわけでもないし、俺がギャンブルにはまったわけでもない。俺は会社にはめられたんだ。
『新製品の製作に、あと20万足りない』、そう社長に言われ、俺は自腹で10万円は準備した。残りの10万円は、会社の名前で借りる、そう社長は言っていた。しかし、後に会社は倒産し、残った借金は、俺のところに舞い込んできたんだ。土壇場で社長が俺の名義にすり替え、本人はとっとと逃げやがったんだ。
そこで、その借金を払うために、闇金に手を出してしまった。すぐ返せると思っていたんだ…。顔写真も撮られ、住所もばれている。もう逃げることはできなかった。
暫く、カードを見つめていた斉藤だったが、俯いたまま小さく「パス」と言った。すると、市原が震えながら2を出したのだ。
「何?!」
声を出したのは藤川だ。
「てめぇ…正気か?」
藤川が市原の顔を覗き込む。
「僕だって、家族の命がかかってるんですよ」
市原は目を合わさずに、早口で答えた。まあいいといった風に、藤川は俺の顔を見た。出せるカードはあるか?つまり、ジョーカーを持ってるか?ということだ。俺は目を逸らし、場のカードを手で流した。
それを確認して、市川はAのダブルを出した。俺のカードを持つ手に力が入る。隣を見れば、藤川も同じだった。何故コイツにばかりこんなカードが?
そのとき、藤川がカードを叩きつけ、向かい側に座っている市原の胸倉を掴み、ずいと引き寄せた。「イカサマしてんじゃねえのか?あぁ?」
喧嘩口調で詰め寄る藤川の手を、市原が払い除ける。
「配ったのは組の人だ。僕がイカサマできるわけないだろ?!」
確かに、ゲームが始まる前にカードを配ったのは、この組織の人間だった。ちっと舌打ちをして不満そうに座る藤川から目を逸らし、さっとカードを流す。それを見て斉藤が急に声を出した。
「お前、ジョーカー持ってるだろ?」
3人が斉藤を見た。斉藤の目は市原を捕えていた。
「何で急に?!」
本当に急だ。先ほどまで、一言も口を利かなかったのに…。
「ただ…なんとなく、だ」
そう言いながら、斉藤は俺の方を見てきた。いや、確かにありえる。今の俺の手札は
クラブのA、4、5、6、K
スペードの6、8、10
ハートの3
ダイヤの2、7、J
既に、3まいの2が流れている。そして、最後の2は俺の手元にある。ということは、あいつは、他の誰が2を持っていようとも、Aのダブルに勝てる形では出せない。つまり、2とジョーカーを一緒に持っていないと確信していたわけだ。なるほど、そういうことか…。
市原は、またびくびくしながら3を出した。しめたとばかりに、俺は4を出した。ここで雑魚いカードを使えるチャンスだ。
続けて、藤川も5を出した。斉藤も6を出す。一巡して、市原まで戻ってきた。市原は8を出す。俺も、10を出した。
藤川を見ると、額に汗が並んでいる。最初にペースをあげすぎて、手札が寂しくなってきたのだろう。しかし、行動は至って落ち着いており、今回もさらっとJを出した。斉藤も落ち着いてQを出す。
こうして、また順番は市原に回ってきた。市原の手は、小刻みに震えている。
「おいどうした?ジョーカー出しちまえよ」
藤川が挑発する。それを無視して、市原はKを出した。
よし。俺はすかさずAを出した。当然、最後の2は俺が持っているのだから、誰も勝てるのは出せないはず…。市原がアレを出さない限りは…。
藤川と斉藤はパスをした。そして市原は…
「パス…です」
・・?!何だコイツ…出さないのか?
そして順番は俺に回る。俺は3を出した。そこからは、流れに乗って藤川が4、斉藤が5を出す。市原も6を出し、順番は俺まで回り、俺は8を出した。沈黙が続いていたが、藤川がそれを破った。
「いい加減ジョーカー出しちゃいなよ…くたびれるぜ」
誰一人として相手をしない。
「俺はさ、ギャンブルで負けちまってこうなったんだわ…これに負けてちゃギャンブラーの名折れぜ?」
既に負けてるんだろ?とは声に出さなかった。ただ、早く出せ、というように藤川に目をやった。藤川は10を出した。これで藤川の残り枚数は3枚…
斉藤もQを出す。市原はKを出し、カードを持ち替えた。
さぁ、そろそろクライマックスか?俺は自分の胸の鼓動が速くなるのを感じた。ここで2を出すか出さないかが勝敗を決めるか…。
「パス」
俺はパスを選んだ。藤川は無言で手を振った。「パス」ということなのだろう。斉藤も同じくパズだった。
市原は、少し落ち着いた様子で4を出した。俺は少し震えながら5を出した。すると藤川が笑いながら6を出してきた。これで手札は2枚…
斉藤も8を出す。市原はさらに10を出した。俺もKを出して対抗する。そのとき、藤川が渋い顔をした。
「パスだ」
なるほど、やはり最初に張り切りすぎたか。斉藤もパスをし、市原の順番。俺は驚いた。知らない間に市原の手札は3枚。しかし…
「パスです」
俺はほっとして、ここぞという時のためにとっておいた6のダブルを出した。ここに来てダブルがくるとは思っていなかったのか、みんなが俺を見た。順番は俺…かに思えたが、パスする二人を差し置いて、市原が10とジョーカーでダブルを作り出してきた。
「何?!」
俺と藤川は声をそろえて言った。まさか…
もうダブルを出せるやつはいない。呆然とする俺たちを尻目に、市原はカードを流し、最後に5を置いて席を立った。
「上がり」
俺は声が出なかった。しかし順番は俺。ここで中断するわけにもいかない。
もう出せるカードが殆どない二人に対して、俺にはまだ2がある。俺は3を出した。すると藤川がまた笑いながら4を出す。残りは1枚…
斉藤も、7を出す。俺は迷った。ここで下手に出せば、藤川に上がられてしまう。2を出しても、俺のカードは3枚。藤川とは差があった…
だが!ビリにならなければいいんだ。だったらここで邪魔な藤川をのけておいて、斉藤に負けてもらえばいい。俺は2を出した。
藤川は笑うのを止め、俺を睨む。だがこれで、こいつはいなくなる。俺はカードを流し、7を出した。これに藤川は、にやりと笑い
「あばよ」
そう言ってKを出した。だがこれで、あいつがパスを宣言すれば、俺の勝利は間違いない。頼む…パスと、そう宣言してくれ…!
「松といったか?」
俺のことだろうか?
「パスだ」
?!
勝った…俺のカードは残り2枚。あいつは5枚もある。俺は勝利を確信し、10を出した。
頭の中に、心から笑う家族の姿が浮かぶ。緊張していたからなのか、涙がこぼれてきた。涙で滲んでいたせいか、斉藤の手札が6枚に見えた。
「俺の勝ちだ」
ん?コイツは今なんと言った?場を見るとKが置かれてあった。ちっ、Kには勝てねぇ。やむなく一度パスをした。するとすぐに斉藤は9を4枚場に出した。
「革命だ…」
「な…に?!!」
ここに来て…なんで?何故小分けにして9を出さなかったんだ?何で…
混乱する俺の前に、斉藤は3をひらりと落とした。
「上がりだ」
そんな…。頭の中に描いていた娘と妻の顔が醜くゆがみ、そして消えた。何で…今になって、そんな、嘘だ。滲んで6枚に見えたのではない。アイツは本当に6枚持っていた。まるで、俺を倒すためだけに、蓄えていたかのように…。
がらりと扉が開き、組織の男が入ってきた。
「決まったようだな」
そう言って、俺のほうに歩み寄り、俺の腕を掴む。俺は無意識に払い除けた。
「触るな!」
鋭く睨まれたが、俺は怯まず、扉のほうに走り出した。扉を出た先には明るい光が見えていた。早く出ないと…。俺は凄い勢いで細い道を突き抜けた。ドアノブに手をかけ、太陽のある世界へ飛び出した。
しかしそこには、数名の警察官が待ち構えていた。
「お前だな、4年前から窃盗、暴行を繰り返していた組の頭は!」
そんなわけないだろ!俺は事情を話そうとした。しかし…
「顔写真だってあるんだよ!」
警察官が持つ紙には、俺の顔が写っていた。すぐに分かった。闇金にお金を借りる際に撮った写真だ。俺は絶望した。もう無理だ…
取り押さえられた俺は、ポケットに何か堅いものが入っていることに気が付いた。警察官はそれを取り上げ、叫んだ。
「拳銃だ!拳銃を持っているぞ!」
入れられたんだ…。前からじゃない。『たった今』、この警官の手で。
そうして、俺は連行された。
先ほどの部屋では、市原と藤川、そして斉藤の3人がくつろいでいた。
「あいつ凄かったな」
市原があざ笑うように言う。
「必死だったんだろ」
藤川はもう笑いっぱなしだった。
「まぁ、今までの中では、なかなか頭のキレるやつだったぜ」
斉藤はトランプを集めながら言う。
「『僕だって家族の命がかかってるんですよ』」
藤川が市原の声まねをしながら言う。
「迫真の演技だなありゃ」
藤川はまた笑う。
「はぁ…また来るってよ。次はジジィだ」
斉藤がダルそうに言う。
「俺たち3人グルに1人で挑むなんて…皆さん勇者なことで…」
藤川がそういいながら、机の下を見る。そこにはモニターがあった。そして、そのモニターを見ながら、部屋の天井の角のカメラに手を振る。ちょうど松が座っていた椅子の後ろだった…。
クソ!何もかも仕組まれていたんだ…言っても信用してもらえない。俺は車の中で、下を向いたまま考えていた。
言ったって全てもみ消される。俺にはそれがわかっていた。なぜなら、この警察官3人のうち2人は、組の連中だからだ。
こうなったら…もう…
俺は、左右に座っている警官のみぞおちに、手錠をかけられた手で打撃を突っ込んだ。
「てめぇ…」
そして、怯んでいるすきに前の席に座っている警官から素早く拳銃を取り、左右の男の頭に向けて発砲した。しかし、拳銃は空砲だった。
絶望し、同時に目の前が真っ赤になった。そのとき、急にハンドルを切られ、俺はバランスを崩した。
起き上がった左右の男は、俺を羽交い絞めにした。そして、1人は俺の後頭部に拳銃を向けた。俺は必死でもがいた。異変に気付いた本物の警官が、車を停めて振り向いた。その額にはすかさず拳銃が突きつけられる。
間もなく、乾いた2発の銃声が響いた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
指摘するところは多いでしょうが、今回は今まで書いたことのないジャンルのものだったので、やはりグダグダは拭えませんでした。これからも精進していくつもりですので、アドバイス、感想等お願いします。