エドガーに仕返し!
「エマ、ちょっとこい」
放課後、エドガーに呼び出された。
ろうそくに火がついたことをすぐにでもおばあちゃんに報告したかったのに、入り口を通せんぼされたら従うしかない。
連れていかれたのは中庭の噴水前。エドガーと数人の男の子がいる。
開口一番、エドガーが叫んだ。
「きょうの魔法の授業、いったいどんな手品を使ったんだよ」
わたしは肩をすくめた。
「手品? あれは魔法よ。正真正銘、わたしの魔法」
「うそつけ。エマがあんなに大きな火を生み出せるもんか」
「失礼ね。自分の火が小さかったから文句言うなんて恥ずかしくないの」
「うるさい!」
エドガーは顔を真っ赤にしている。案外気にしていたのかしら。
「だいたい昨日言ってたとびっきりの魔法はどうなったんだよ。道具は持ってきたのか? ちゃんと一日待ってやったんだぞ」
う、うやむやにしようと思ったのにしっかり覚えていたのね。
ろうそくの火がついたものの、まだ魔法を使えるようになった実感はないのよね。
あの後も授業中やトイレに行ったとき色々試したけどダメだったし。
たまたま、偶然、まぐれだったんじゃないかしら。
「おい、なに考える」
エドガーがずい、と迫ってくる。
「魔法が使えるって言うなら、見せてみろよ。いま、ここで、すぐに!」
どうしよう。絶体絶命。
左腕のリングが視界に入ったので、本の中の世界のことを話そうと思ったけれど、アレンは『だれにも言うな』と手紙をくれた。きっとなにか理由があるはず。勝手に話すわけにはいかない。
「さぁ、さぁ、さぁ!」
エドガーがぐいぐい迫ってくる。
あぁもう、こうなったら奥の手だわ。
「見て! 噴水の水が大変なことに!」
「なに!?」
エドガーたちが気を取られた瞬間に走り出した。
こうなったら逃げるが勝ちよ。わたしの足の速さにはだれもついてこられないんだから。
「逃げたぞ!」
すぐに気づいたエドガーが叫ぶと、目の前に手下の男子があらわれた。しまった、この展開は予想できなかったわ。
逃げ場をなくして慌てているうちにエドガーが近づいてくる。
ニヤニヤ笑って、いやな顔。
「逃げたってことは、やましいことがあるんだろう。やっぱりウソじゃないか。ウソつきエマ」
「ウソじゃないわ。ろうそく火をつけたのはわたしよ。でももし違ったとしても、エドガーみたいに魔法が使えない人間をいじめるなんて最低だわ」
「なんとでも言えよ。明日からおまえは『魔法ナシ』決定だ。はははー」
悔しくて涙が出そうだった。
でもエドガーの前で泣いたりするもんか。
ぎゅっと唇を噛んでエドガーをにらみつけていると、その後ろで、ゆらりと影が立ち上がった。
「え?」
なにかしらと思って目をこらすと噴水の水が地面じゃなくて空にのぼっていく。
まるで水の巨人みたいに。
「……アレン?」
まちがいない。昨日見たアレンの魔法だわ。
噴き上げる水にあわせてどんどん大きくなっていく。なんて迫力。
「お、おい、エドガー」
巨人に気づいた手下の男子たちが青ざめる。
でもエドガーは気づかず高笑いしてる。
手と足と頭ができた巨人は、その大きな手をエドガーの頭上に伸ばす。
これは相当強いシャワーになりそうね。
「ねぇエドガー。風邪を引かないように気をつけてね、これは親切心で言ってるの」
「はぁ? なに言ってんだエマ?」
まだ気づかないのね。かわいそうに。
「予言してあげる。あと数秒で、あなたはずぶ濡れになるわ」
「こいつ魔法が使えなくておかしくなったぞあははは…………は?」
ようやく顔を上げた。
「目と耳もふさいでね。お先にっ!」
一足先に耳をふさいでぎゅっと目を閉じた。