第23話「頼もしき仲間(半分奴隷)」
「ふんっだ!! い、一応礼は言っとくけどね──変な事したらただじゃ置かないわよ!」
「しねーっつってんだろ! お前、自分を一回客観的に見ろ──」
ぺったんこのクソチビが。
……色気も何もあったもんじゃない。
顔はまぁ、かわいいけど──ほとんど子供と変わんねーぞ?
そりゃ、そーいうのが好きな奴もいるのかもしれんが、マイトさんまだ10代!! 割とノーマルなの!
「ったく……。ほらっ、装備一式──」
ガチャ。
「な! こ、こんなものまで──」
ギルドの受付の前で、返してもらったそれをレイラに押し付ける。
それにはさすがに度肝を抜かれたのか、訝しむ目──。
まぁそうだろうな。
一度それで痛めつけられた本人があっさり返すのだ──なにか裏があると思うだろう。
「……ま、あるけどな」
「なんか言った?」
いや、なーんも。
「──で、お二人さんはどうするかにゃ? とりあえず、自由の身になったけど、宿にしっぽりいくかにゃ!」
「「いかねーよ!」」
ったく!!
どいつもこいつも……。
「…………あ、行くわ」
「いくんかーい、にゃ」「いくのぉ!? や、やっぱりあんた──」
あーもう、うっせーな!!
「荷物持ってウロウロ出来るかよ! いいから黙ってついて来い──書類取り下げるぞ、保釈金も」
「な!……くっ、わ、わかったわよ────い、痛くしないでよ」
しねーよ!!
しつけーな、おい!!
そうしてこうして、レイラを牢屋から出してやったマイト。
とりあえず静かに話せず場所を求めて、そこそこのグレードの宿に泊まるのだった。
※ ※ ※
「……ねぇ、あんた金持ちのボンボンなの?」
「は?」
レイラに案内させて入った宿は、なるほど──そこそこのグレードだ。
高過ぎず、安過ぎず──目立たぬくらいの、『中の上』と言ったところ。
いいね。
なにより素晴らしいのは風呂と、セキュリティがしっかりしているところ──いいね~!
「……で? なんだって? ボンボン?? どこかだよ、どっからどうみても、普通の冒険者だよ」
「普通の冒険者はEランクじゃないし、そもEランクはこんなとこ泊まれないわよ」
はぁ、ため息をついてベッドに腰掛けるレイラ。
……まぁ。一泊で銀貨2枚は高いっちゃ高い──マイトさんの資金もそろそろ限界。
だから、稼がないとね。
「……で? お風呂は先に入った方がいい?」
「はぁ? お前まだ言ってんの?!」
マジしつけーよ!!
「……だって、痛めつけた相手よ──アタシは。それを牢屋から出して、風呂付を特に希望して防音の効いた宿ってアンタそれはもう──」
もじもじ。
「だーもう。めんどくせぇな……。風呂は俺が入りたいの!! つーか、この世界の人間はすーぐ入浴をさぼる。いいか? 入浴は趣味じゃない、義務だ。衛生面をおろそかにするんじゃないよ──」
まったく。
「そんで、防音は当然だろ?……お前には色々確認しないといけないからな」
……具体的にはギルドにどこまで話したか──とか、銃のこととか、スキルか魔法かその辺のこと分かってんのか、とね。
「へ? そ、それだけのためにこんな高いとこに? アタシだって滅多に泊まらないとこよよ!! だ、だいたい、保釈金──どうやったのよ!」
──そう。
保釈金はさすがにマイトさんがポンッと出せるような金額ではなかった。
なにせ、色々やらかしてるっぽいレイラの保釈金だ。
当然、べらぼ~な値段だった──。それをマイトの被害届の取下げと嘆願書で、さらに身柄の保証と金を払うという事で、一次的に自由の身にしてもらっただけだ。
もっとも──すでにマイトが被害届を取り下げたので、これから立件されることはないだろうとの見通しだ。
つまり、永遠に立件されないケースとして保釈金が返って来ることはないってこと。日本じゃどーか知らんがこの世界ではそういうルールらしい。
……ま、被害自体はあったのは事実だし、しっかり記録されているので、レイラは容疑者状態なのは変わらないけどね。
つまり、レイラの今の状態は宙ぶらりんというわけだ。
なにせ、被害届も下げたし、嘆願書が効いてはいるものの、やったことの事実は残っているわけで、マイトが改めて被害を申し出た場合は、すぐにでも立件される可能性があると──レイラもそれをわかっているのだろう。
ようするに、合法的な手段でレイラは半分マイトの手の内に落ちたと言うことだ。
いわゆる法律の裏をついた非常にグレーな手段ってやつだ。
それもこれも、この世界の中途半端な法律のせいでこんな芸当が出来るらしい。
……もっとも、大昔はお金次第で奴隷落ちにできたのだから、それに比べればマシなのだろう。
──いや、結局同じことなので、むしろよけいな手段ともいえるかもしれない。
ちなみにその奴隷制だが──結構昔に召喚された誰かが、よくわからん倫理観を振りかざしてぶっ壊したらしい。
なので、表向きにはなくなっているそうだ……表向きはね。
つーか、その召喚者って奴は、よくもまぁ当時に現行法制を捻じ曲げたもんだよ、
そいつってば、よ~~~っぽど強かったんだろうーなー。
……『主張を押し通せる強さ』、マジうらやましいわ。
「で、なんだっけ? あの金のことか?……金貨250枚か。たしかにべらぼうだよな」
「そ、そーよ! そんな大金をポンッと出すなんて……絶対ボンボンよ! なんとなくわかってたけどさー」
誰がボンボンだ。
「そんなの借りたに決まってんだろ──」
「は、はっぁあ? 借りたって……Eランクに誰がお金なんて──って、これは」
ぽいっ、
マイトが指で弾いて渡したものは、一枚のカード。
そう。例のあれ──。
「こ、これ……?! う、うっそ、アンタって魔塔の研究者なの?! しかも、主任研究者扱いって……マジで?!」
──いつぞや魔塔主に貰ったカードがこんなところで役に立ったわけだ、
なんとまぁ、ギルドの融資窓口というのがあるのだが、そこでカードを見せるだけでいくらでも引き出してオッケーとのこと。
いや、ビックリだわ。ほんと魔塔の資金どうなってんだよ?!
(まぁ、あとが怖いから必要分だけしか借りてないけどね)
そうして、虎の威を借る狐ではないが、『魔塔主』の御威光でお金を借りて、このガキを保釈したわけだ。
まー保釈金とかいいつつも、半分は賄賂みたいなもんだろう。
立件もされず、裁判の可能性もない。
つまり、保釈金はずっと預かりのまま──ま、そういうことだ。
どっかの召喚者が適当な知識せ作り上げた似非日本の法律はこうして異世界の人間によって都合よく形を変えて作り替えられているわけだ。召喚者だって不死身じゃないしね、システムを作ってもそれを見張るやつが異世界の人間じゃそりゃこうなるわな──という事例だ。
そして、当然、書類も保釈金もすべて『魔塔主』のアイデア。
なんと、例のスマホを通じて書面のひな形まで送ってくれる始末──有能か!!……あ、有能だわ。
「っと、その辺はおいおいな──さて、」
ギシッ。
ベッドに腰掛けるマイトにビクリ。
……こうしてみると、コイツほんと華奢だな──マジでBランクか?
「な、なによ!」
「……ふんっ。言っただろ? 聞きたいことがあるってな。──で? どこまで知ってる? そして、ギルドにどこまで話した?」
「へ? ど、どこまで──って??」
ちっ、
すっとぼけようたってそうはいかねーぞ、
こうして、マイトによる、状況確認が始まった──。




