第1話「パーティからの追放」
久しぶりの新作です!
どうぞ楽しんでいただければ幸いです。よろしくお願いします!
「おい、マイト。悪いが、今日をもってお前をパーティから除籍する」
「は?」
え?
……は? え?
突然のパーティリーダーの宣言に、思わず絶句する俺ことマイト。
まともな反応もできずに、ポケーと口を開けた様はさぞ間抜けに見えたのだろう。
リーダーである『双剣使い』のゲンキの他、出っ歯の『盗賊』ゴート君と、エッチな格好をした『魔法使い』のエグチさんの2人のメンバーもこらえきれずにゲラゲラと笑いだす。
「ぶははははは! いきなり、そりゃねーっすよ、元気のアニキ」
「うぷぷ! 唐突過ぎて硬直してるぅ! スマホの電源生きてたら撮って待ち受けにしたい顔ー!」
ぎゃっははははははは!
3人そろって笑い声をあげるものだから、つられてマイトも追笑する。
「は、ははは。なんだよ、おどろかせないでくれよ──ジョークかよー」
あははは! びっくりしたー。
そりゃ、数年もの付き合いがあるのに、まさかこんな急に──。
ピタッ。
突然凍り付いたように表情と態度を凍り付かせた3人。
「……はぁ?」
「何言ってんのコイツ?」「バッカじゃないの?」
え?
「いや、え? じょ、ジョークでしょ?」
「はぁぁぁ?! お前は何を聞いていたんだ?」
ダンッ!
ふんぞり返ったゲンキくんが、ギルド併設の酒場のテーブルに足を投げ出すと、マイトをねめつけると、
「う……」
背に担った双剣が彼をますます強大にみせ、思わず一歩下がってしまうマイト。
アタッカーを務めるゲンキ君と、荷物持ちしかしていないマイトでは格が違い過ぎる。
「もっかいだけ言ってやる──クビ!! 解雇!! リーストーラー!!……ようするに」
「「──出ていけってことだよ、役立たず~!」」
……え?
えええええええええええ?!
「な、なんでだよ? きゅ、急にやめてくれよ」
こう見えて長い付き合いだろ?
意味も解らず「異世界召喚」させられてさー。
底辺同士で、勇者だの賢者だのと持てはやされたクラスのカースト上位のアイツらと違って──。
「お、俺たちは仲間だったじゃん!!」
「は(笑)!」
「仲間だってよ」「笑っちゃうわねー」
マイトの必死の訴えを鼻で笑って流す仲間……いや、元仲間の3人。
つまり、ゴート君にエグチさんは当然、ゲンキ君サイドらしい。
「な~にが急だよ、前々からちょいちょい言ってただろ!」
「そーそー、察しが悪いんだからよー」「空気読みなよねー」
元仲間ふたりもとっくに知っていた様子で、マイトに味方してくれるものは誰一人いない。
それどころか、無関係のギルド内の冒険者すら、耳を傾けているが、こちらに視線を合わせるものは誰一人いなかった。
「こちとら、Cランクになったんだよ! わかるか? Cランク! この銅色の認識票がみえねーのか!!」
「そうそう、ゲンキ君が晴れてCランクになったおかげで、俺達のパーティもCランク相当ってわけ!」
「つーまーりぃ! 新生『神の目』はCランクのパーティとして生まれ変わらうわけでぇ──」
くすくすくす。
「「「役立たずは、ここでお役御免でーす!!」」」
ぎゃーっはははははははははは!!
「な、な、な、な──」
なんてことを!!
ずっと、ずっと、ずっと仲間だと思ってきたのに!!
「はぁ~? そりゃお前だけだろうが。こちとら、スキル「未来視」持ちの剣士様だぞ。それに比べてロクなスキルも持ってねぇお前はただの荷物持ちしかできないだろうが!」
くっ!
ゲンキ君の言うことはもっともで、たしかにマイトはパーティではただの荷物持ちとしか貢献できていない。
「で、でも! それ以外にも色々やってるだろ?! 冒険中の見張りや、雑用全般は俺が──」
「なにが雑用だよ。そんなの誰でもできるよ。ちなみに、僕はスキルのおかげで盗賊職として有能だし」
「私は当然、強いしー。スキルのおかげで魔法使いとして大成するわよー」
あははは!
「それに比べてお前の『スキル』ときたらなんだぁ?」
「え~っと、たしかなんでしたっけぇ──あの『スキル』」
くっくっく。
「そーそー、え~っと確かあれよ、あれ──」
くすくすくす。
わかっているくせにケラケラ笑う3人の顔が醜悪に歪む。
今がいわゆる追放の真っ最中だというのに、それでもマイトがこのパーティにしがみつこうとする。
……いや、しがみつかねばならないのだ。
だって、俺たち異世界召喚者は、全部で約100人。
数年前のある日突如として、学校の一学年丸ごと召喚され、わけもわからぬままこの世界の戦いの中に放り込まれたのだ。
その際に、全員が『転生ボーナス』を貰ったのはいいけど、それが役に立つか立たないかなんて、この世界に召喚したやつの気まぐれでしかなかったのだろう。
しかも、その言語化がザルで最初は読めなかったしな! どこのAIだよってくらいに文字化けもあったほどだ。のちのちレベル上昇などで多少は改善されたものの、それでもほとんど平仮名まじりで読みにくし……!
……第一、役に立つスキルを貰った奴はいいさ。
『せいけん』とか『けんじゃ』とか『りゅうつかい』とかさー!!
──そいつらみたいに、ガチャであたりを引いた奴は最初っから成功が約束された上位プレイヤーってわけで、そうでもない残りのクラスメイトは、クソみその扱いだ。
そりゃ、最初のころは同じ召喚者どうしということで、上位の連中も気を使ってくれたが、
数カ月もたてば、勇者だ英雄だなんて持て囃されて、調子に乗り出し──ついには魔王討伐だなんて言って、勝手にどこかに行ってしまった。
もう、今はどこで何をしているかもわからない。
そうして残されたのは、彼らほど強力なスキルでもない──後衛スキルやら生産系スキル。あるいは、いわゆる『ネタスキル』やら『外れスキル』やらというわけ。
ふふふ。それでも後衛スキルや、生産系はまだいいさ。
それはそれで重要なスキルだしこんな世界でも役に立つとされて国の要職についている。
『じょうか』とか『ふくせい』とかさー!
使いようによっちゃチートスキルだよな。
さらには、召喚されて1年が過ぎれば、状況はますます悪化していく。
100人も召喚された影響か、
ただ飯食らいは必要ないといわんばかりに、召喚した連中の態度があからさまに冷たくなったのだ。
おかげで、最後まで生徒を庇ってくれていた同時に召喚されてしまった教師陣も、元の世界に戻る術がないと理解するや否や、地球でのしがらみを捨てて、好きに勝手にふるまい始めた。
あとはもう語るまでもない。
──……そうして、残るネタスキルとハズレスキル持ちはと言えば、
こうして底辺は底辺らしく、結託して在野に飛び出し生計を立てることにしたというわけ。
……もっとも、あれから数年。
ネタスキルだのなんだのも、使いようによっては化けるということが最近わかって来たのか、
こうして、スキル「みらいし」をもつゲンキ君も、最初はコンマ数秒先の未来が見えるだけというネタ枠だったはずがいつの間にかそのスキルを伸ばし、成長させたことで剣士として大成してしまった。
今では1秒から数秒先の未来が見えるとかなんとか──マジで使いようによってはチートじゃね?
まー。いわゆる晩成型スキルというやつだ。
そして、ゴート君とエグチさんも同じ感じ。
ちなみに……マイトはといえばぶっちぎりの『外れスキル』だ。
いや、ハズレかどうかすらわからないレベルのそれ──。だって、使い方もよくわからないし、名前からしてネタどころの話ではない────。
そう、
Cランクに昇格したてのパーティ『神の目』の荷物持ちとして冴えない冒険者をしていたマイトのスキルの名は──。
「ぎゃははは! おいおい、二人ともひでぇなー。もう忘れたのかー。元仲間のスキルをよー」
ゲンキくんは上機嫌に笑う。
もう、元と強調するくらいに、マイトのことは仲間として認識していないのだろう。
いや、それもそうか……。
むしろ、これまでずっと仲間でいてくれたことに感謝────。
「あーあーあー、思い出しました、思い出しました! い~ま思い出したよぉ!」
「私もー! じゃ~、みんなでいっせーのーで、言おっかー!」
くすくすくす!!
ぎゃはははははははは!
せーのー!!
「「「スキル『はっぱ』持ちのマイトくん。バイバーイ!!」」」
ッッ!!!
それを聞いた瞬間、マイトはもう何も考えずにその場を去った!!
目に悔し涙を浮かべて、脱兎のごとく──────!!
だって、
だって、
だって!
「ひゃははははははは! 退職金はねーぞー」
「お金の代わりに、はっぱが一枚あればいいんじゃないですかー」
ぎゃーはははははははははは!!
それを皆まで聞かず、マイトはいたたまれなくなりその場を飛び出し、夜の街へと逃げるように走り去っていった。
こうして、異世界召喚3年目にして、元柏原高校の普通科生徒──『舞人』は、パーティを追放されることとなった。