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パニック作品

食料


地下200メートルの所にある大陸間弾道ミサイル管制室。


戦略司令部に繋がるホットラインのベルの音が鳴り響き、管制室で勤務する2人の男の耳を打った。


2人のうちの階級が上の男が受話器を取り命令を受領する。


受話器を戻した男は命令に従い鍵の掛かった金庫を開け、中にあった2通の封筒を取り出して1通を同僚に渡す。


封筒の中には鍵と暗証番号が書かれた紙がそれぞれ入っている。


男たちは暗証番号をそれぞれのデスクの上のキーボードに打ち込む。


それからキーボードの脇にある鍵穴に鍵を差し込み声を揃えて数を数え始めた。


「「3、2、1、0」」


0で鍵が回される。


2ツの鍵が同時に回された数秒後、管制室がカタカタと振動した。


鍵が同時に回された事で、男たちが管理していた十数発の大陸間弾道ミサイルが敵国に向けて解き放たれたのだ。


管理していた全ての大陸間弾道ミサイルが敵国に向けて飛び去って行くのをモニター越しに見届ける男たち、そのうちの1人が首からぶら下げている十字架を握り呟く。


「神よ、許したまえ」


そう呟いた男は腰のホルスターから拳銃を抜くと顎の下に当て引き金を引いた。


大陸間弾道ミサイルが敵国に向けて解き放たれてから約30分後、管制室やサイロが点在する上空で敵の大陸間弾道ミサイルが炸裂し地上を焼け野原に変える。


1人管制室に残された男は、頭を撃ち抜き事切れた同僚の遺体を眺めながら戦争が終わるのを待ち続けた。


もっとも男には終結を知る術を持っていなかったのだが。






出産する女の呻き声とその出産する女を介護している女たちの声が小屋の中から聞こえて来る。


『今度こそマトモな子供が生まれてくると良いのだが』


集落の長を務めている老人は、小屋の中から聞こえて来る呻き声や介護している者たちの声を聞きながら思っていた。


老人の思いを断ち切るように小屋の中から赤ん坊の泣き声が響く。


「入るぞ」


赤ん坊の泣き声を聞き老人は小屋の中に声をかけると、小屋の中と外を隔てる布を捲り中に入る。


中に入り生まれたばかりの赤ん坊の身体を眺めた。


赤ん坊は女の子で、耳が左右に1ツずつ目が2ツに鼻と口が1ツずつ手足の指は10本ずつ揃っている。


だが、指は……、本来腕や足が胴体から伸びる場所に直接生えていて、そこにある筈の腕と足が無い。


また奇形児が生まれてしまった。


戦争が多分だが終結して40年以上の年月が経つのに、生まれてくる子供の殆ど全員が奇形児。


身体のパーツが無かったり多かったり場所が違ったり、外見は五体満足に見えても身体の中がおかしいらしく白痴だったり短命だったりする。


それは集落の中だけでは無い。


周辺に生息する動物も植物も戦争前の物と何処かしら違っているし、敵対する者たちもまた奇形の者が大半を占めていた。


狩りに出かけていた集落の者たちが獲物を引きずり戻ってくる。


今日は獲物が大量に捕れたようだ。


奇形だが新しい命が生まれた事を祝うには十分な量だろう。


獲物が助けを求め騒ぎ立てている。


「助けてくれー!」


「喰わないでー!」


「殺さないでくれー!」


「死にたくないよー!」


集落の者たちを付け狙っていたグループの1ツを一網打尽にしたらしい。


女や子供を含む10数人の人が罠で捕らえられて袋に詰め込まれているヘビやトカゲやネズミなどと共に、集落の共同調理場に引きずられて行く。


喰われる事を嫌がるあいつらも自分が生きて行く為に人間を喰っていた筈。


集落の者たちも他のグループの奴らに捕らえられ喰われているのだからお互いさまだ。


夜、焚き火を囲み子供の誕生を祝う宴が行われる。


宴には敵対グループの襲撃を警戒して待機している当番の者たちを除いた、集落の殆ど全ての者が参加していた。


生まれた子供の父親で戦前生まれの50前後の男が老人に声をかける。


「なあ長よ。


昔は生まれてくる子供の大半が奇形では無かったように思うのだが、記憶違いだろうか?」


「ああ……、奇形で生まれてくる子供も少数はいたが、五体満足で生まれてくる子供の方が多かったな」


「あの戦争で撒き散らされた放射能が原因なのか?」


「多分そうだろうな」


「畜生! 畜生! 戦争を起こした奴らを殺してやりたい。


パパ、ママを奪っただけでなく子供まで奇形にするなんて……、何で! ……俺たちがこんな目に合わなくてはならないんだ!」


父親が泣きながら叫ぶ。


泣いている男の背中をさすりながら老人は昔の事を思い起こしていた。






大陸間弾道ミサイルを発射してから約半年、備蓄食料が乏しくなって彼は管制室から出る。


管制室の頭上200メートルの地上にあった倉庫、森林の向こうに見えていた民間人の住居やそのまた先にあった町など全てが無くなり焼け野原になっていた。


管制室から出た彼は最初に両親や兄弟が住む生まれ故郷の街に向かう。


だが世界有数の大都市だった故郷の街も首都も、敵の潜水艦発射弾道ミサイルの直撃を食らったらしく大西洋の一部になっていた。


彼は大陸を当ても無く彷徨(ほうこう)


当てもなく彷徨いている途中、複数の武装した男女に襲撃されている子供が大多数を占める数百人のグループと遭遇、襲撃者を皆殺しにする。


襲撃者たちを皆殺しにして襲撃者たちが所持していた所持品や武器を襲撃されていたグループに渡した結果、諸手を上げて歓迎されグループに迎えられる。


彼らは学校の地下に造られていた核シェルターに逃げ込んだお陰で生き延びる事が出来た、生徒と教職員のグループだった。


彼らと行動を共にして安全に暮らせる場所を求めて放浪していたら、手付かずの食料を含む大量の物資が納められた軍の地下倉庫を見つける。


グループを率いていた校長や教職員と協議して見つけた地下倉庫の上に集落を構築した。


地下倉庫を見つけてから20数年程経った頃、グループを率いていた校長が亡くなり彼がその跡を継いだ。


彼は自分の事を陸軍の州兵部隊から離脱した脱走兵だと集落の者たちに説明している。


戦争の引き金を最初に引いたのは自分では無い、だけど命令を忠実に守り大陸間弾道ミサイルを敵国に向けて発射して地上を放射能塗れにした1人であることは紛れもない事実。


その事が集落の者たちにバレたらリンチされ殺されるだろう。


だからこの事は墓場まで持って行かなくては。


もっともこの集落には墓なんて物は無い、死んだ者の遺体は食料にする、それがこの放射能塗れで食料が乏しい世界のルールだからだ。







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