第54話 技能集団『テト』
公邸のある千代田区から、目と鼻の先にある港区、赤坂に建つ『赤坂インターシティAIR』に向かう。
本来は再開発によって、国際都市の拠点として竣工された施設だが、ニル・ヴァーナを日本国が一括管理する手前、その維持には、膨大なまでの設備投資と、有能な人員を確保しなくてはならず、超法規的にこの施設を、国有化し運用する事となった。
約5,000平方メートルの広大なエリアを緑地化し、ビジネス街らしからぬ、自然豊かな空間を実現させていた。
「着いたぜ」
又吉が通常口とは異なる、政府関係者のみが通れるゲートに入ると、オートドアを開ける。
入口には先回りしていた警護の人間が、インカムで連絡し合い、周囲を警戒する。
手には拳銃を持ち、何時でも不審者を撃退する準備を怠らない。
「相変わらず、物々しいねぇ」
又吉は呆れたように苦笑いすると、
「全くだぜ。おやっさんがいれば十分なのにな」
南雲の言葉は冗談ではなかった。
又吉がいれば、この場で待機している警護の人間など、一瞬で鎮圧するほどの猛者だった。
その南雲を警備する人間は自衛隊、警察、その他、国家公務員の中から、厳しい審査と実技試験を掻い潜った、一握りのエリートであったが、
「……」
「……」
南雲の横にいた二人は、その言葉を聞いて、僅かに眉を顰めたが、直ぐにポジションに着く。
それは文字通り、客観的な事実であったからだ。
「若造達も頑張ってんだ。そんなこと言いなさんな」
と言うと、警護の二人をジッと見て、
「……英坊を頼むぜ」
それ以上の言葉は介さず、前を向く。その一言はさり気ないが、力強く、二人の士気を高めると、
「勿論です!」
「了解しました」
二人の目は猛々しく、勇敢な眼差しで又吉を見ると声を上げた。
「ったく、敵わねぇな」
南雲は微笑むと、二人に、
「さぁ、行こうか」
「嬢ちゃんに宜しくな」
又吉が南雲にそう言うと、二人は首相専用車から颯爽と出て、隙のない動きで、南雲を警備しながら施設に入っていく。
南雲は技能集団、テトの本拠地でもある、赤坂インターシティAIRの地下フロアに向かった。
エレベーターに乗り、高速で降下すると、ポンと音が鳴りドアが開く。
途端、
「パパー!」
小柄な子供、いや、女性が勢いよく南雲に抱きついた。
「おおっ、楪葉、元気か?」
「あったり前じゃん!」
と言って、楪葉は英一郎を抱きしめながら、ジッと見ると、
「……でも」
「でも?」
それまでの笑顔が一瞬で消えると、みるみる間に般若のような顔になると、
「あのクソ親父の野郎!」
「あん?」
楪葉が怒る原因は一つしかなく、直ぐにサムスの顔を思い浮かべると、
「サムスがまたやらかしたか」
「あんにゃろう、実装テスト前のプログラムを勝手に走らせやがって!」
何となく心当たりがあった英一郎は、『あれか』といった表情を浮かべる。
「昨日といい、今日もシステムダウンするなんて、ボクのプライドが、プライドがー!」
頭をヘッドバンキングしながら、悶絶する楪葉を見て、
「それ込みで、今後のニル・ヴァーナの運用に関する会議をするんだろ、楪葉」
「そーだけどさぁ」
全然納得が行かず、幼児のように駄々を捏ねると、すぐ後ろで、琴音と夏希が笑いを堪えるように楪葉を見ると、
「可愛いですわ」
「まるでじゃりン子やな」
二人は英一郎に会釈をすると、
「よぉ!琴音ちゃん、夏希、元気そうだな!」
二人を見て、英一郎は満面な笑顔になると、楪葉はブスッとして、不機嫌そうに父親を見る。
大好きなお父さんを取られまいとする、健気な反応に夏希が、
「ご馳走さんっと」
涎が垂れそうなリアクションを取ると、琴音が関西人のツッコミよりも、強烈な一撃を放った。
「ぐふぉっ!」
胸を押さえて仰け反る夏希を見ると、楪葉がアッカンベーをすると、英一郎を見て、
「めぐみお姉ちゃん達も来てるよ」
「おお、そうか」
楪葉がお姉ちゃんと慕う、星野めぐみは、公安局の官僚で、ニル・ヴァーナに関連した犯罪を取り締まる、専門機関『ケルベロス』の中枢を担う人物であった。




