第52話 温かな空間
メンテナンスのため、アトラスのフィールドを中心に閉鎖されると、相手側のノルンとの通信が取れない状況。
久遠は仲間の顔を見て安心したと思った瞬間、糸の切れた凧のように意識を失う。
「久遠君!」
「おい、大丈夫かよ!」
二人が心配そうに久遠を覗き込む。
「お二人とも、心配ありませんよ」
久遠の身体を温かく受け止めるように、ノルンが現れると、
「ルー」
「ルチルさん」
二人はルチルを見て、その全てを包みこむような慈愛に満ちた眼差しを見て、先程までの不安が嘘のように消えていく。
久遠は安らかな寝息を立て、小さな子供のようにスヤスヤと、ルチルの胸の中で眠っていた。
「ははっ、呑気なもんだな」
「ええ、とても可愛いらしいです」
シオンはその寝顔を見て、先程までの死闘が嘘のように、一気に緊張が溶けると、カナンを見て微笑む。
カナンも顔を綻ばせると、
「お二人とも、この後はどうしますか?」
ルチルが尋ねると、
「こんな気持ち良さそうに寝てるのに、邪魔するのも、な」
「ええ、そうですね」
二人は身支度を整えると、ログアウトの準備をする。
そんな中、ロビーで熟睡していたロイを見て、シオンがキランと目を輝かせる。ロイの鼻を指で塞ぐと、
「ぐ、ごぉ!」
ロイは溺れるように、その場でジタバタすると、もの凄い勢いで飛び上がった。
「起きたか、ロイ」
「た、闘いは!」
気絶していたロイは、まだ戦闘が終わっていないと勘違いし、その場でファイティング・ポーズを取る。
その頭をシオンが容赦なくツッコむと、
「もう終わりましたよ」
「え?」
カナンが事の顛末を端的に説明すると、ロイは驚いたように、
「……マジかよ」
と言って、久遠が最後に繰り出したスキルをカナンから聞いて、何やら物思いに耽っていた。
「久遠がこんな状態なんだ、早く引き上げようぜ」
「ええ」
二人は右手のリングを操作すると、
「あのー、俺だって頑張ったんだぞー」
労いの言葉を期待したロイを、
「うっさい、いい大人が甘えるな」
「お先に失礼しますね」
シオンが煙たがるようにロイを一喝し、カナンは我関せずといった様子で、手際よくログアウトする。
「そりゃ、ねーぜ」
涙目になるロイを見てシオンは微笑み、
「またな、ロイ」
手を挙げ親指を立てると、得意げな表情を浮かべるシオンを見て、
「おう、またな」
ロイは何時もの剽軽な笑顔で見送ると、二人の姿は消えていった。
残されたロイは、久遠の顔を見て、
「よく頑張ったな、大将」
久遠の額に、その大きな手を当てると、誇らしげに見つめる。
「ロイさん」
ルチルがロイを見て、その瞳に映る父親のような力強さと温かさに、安心したように微笑むと、
「俺もそろそろ落ちるわ」
ルチルの顔を見て、後は任せたと言って、二人の姿をしばらく見つめると、
「ええ、お疲れ様です」
「ああ、お疲れさん」
ロイもログアウトすると、ロビーは二人だけの空間になった。
ルチルはそっと久遠の唇に軽くキスをして、
「よく頑張りましたね」
そう言って、ギュッと抱きしめると、ロビーからプライベートルームに転移して、ベッドに寝かし、
「お休みなさい、久遠」
と言って、もう一度キスをした。
▼PM0:30 総理大臣公邸 南雲 寝室
南雲は機器を取ると、部屋のカーテンを開ける。
そして、電話を取ろうとするよりも早く、着信音が鳴った。




