第51話 集結の時、呼び醒まされし、十二の聖剣
それもそのはずだ。
以前、カナンが久遠のニル・ヴァーナに於ける、知覚感度を通常の標準レベルより高く設定していることを知っていたからだ。
なぜそのようなことをするのかと聞いた時、久遠ははにかむように微笑み、
「この世界が大好きだからですよ」
と言って、それ以上語ることはなかったが、その理由を知った今、久遠がこの世界に賭ける純粋なまでの意志が、下手をすれば現実の肉体に悪影響を与える危険性を、カナンは心配せずにはいられなかった。
「……まだ立つか。だが、もう打つ手はあるまい」
光龍はその不屈の意志に敬意を払うが、無謀とも言える久遠の姿を見て、その意識を断つように、ノルンが制御していた力を解放する。
途端、光龍の身体からは大量のタオが充満していく。
右手にそのタオが収束すると、眩いまでの輝く大剣が出現した。
「聖剣エクスカリバー。お主を屠るには、この上ない一撃であろうよ」
光龍は剣を構えて、その強大なタオを、一点集中させて久遠を見据えると、
「さらばだ、強き者よ!」
エネルギーが集約し、その一撃を放つ瞬間、久遠のインカムにルチルの声が響く、
「久遠、スキルステータスを確認してください!」
「ル、ルチル?」
戦闘中にルチルが声を掛けることは、今まで一度もなかったのに、そのルチルの鬼気迫る声を聞いて、
「急いで下さい!」
「……」
途絶え行く意識の中で、久遠は自分のスキルステータスを確認すると、見たことのないスキルの名前が表示されていた。
「こ、これは!」
スキル名には『十二聖剣(終焉を呼ぶ神々の慟哭)』と書かれた技名が書かれていた。
その使用スキルを使用するに必要なタオは、本来なら使い切っていたはずだが、不思議なことにグレー表示でなく、使用可能な状態で点滅していた。
久遠はスキルを一切の逡巡なく発動した。
すると、久遠を囲むように大小様々な刀剣、十二振りが悠然と現れた。
「な、なに!」
その一撃を放つ瞬間、光龍はその言い知れぬ威圧感に、思わず後ずさった。
久遠が召喚した剣は円形上に広がり、持ち主を取り囲むように螺旋を描き回転する。
そして、
(暫しだが、貴公の力となろう)
一振りの刀剣が、久遠の思考に直接呼び掛けると、
「あ、貴方は……」
(私の名はラグナロク、神を滅ぼす者)
「……ラグナロク」
久遠の手に、ラグナロクが自分から寄り添うように近づくと、全ての存在を滅せんとする、強大な力が久遠に流れ込む。
(さぁ行くぞ!)
「……」
その圧倒的なまでの力に戸惑いながらも、その剣から伝わる、高潔な感情に触れた久遠は、
「わかった!行くよ、ラグナロク!」
久遠は立ち上がると、剣を構えて光龍と相対し、その力を解放する。
全身の血液が沸き上がるような激流を制して、光龍目掛けて乾坤一擲の一撃を放った。
それに呼応するように、残りの十一振りも、共鳴するように眩く光ると、追尾式のファンネルのように、一斉に光龍の肉体に狙いを定めて襲い掛かる。
「まだだ!」
光龍は自身のタオを総動員して、その攻撃に立ち向かおうとする。
久遠がラグナロクを光龍の心臓目掛けて剣を突き立てる。
光龍は回りの剣などまるで無視して、久遠を倒すことだけに全意識を集中させた。
互いの剣撃が激突する瞬間、
*** Server Emergency !! ***
けたたましい警告音と共に、バトルステージに赤い文字が浮かび上がると、強制的にブラックアウトする。
久遠はロビーに強制転移すると、直ぐさま、ニル・ヴァーナの運営からのアナウンスが発表される。
「本日、予期せぬ大量の情報量の負荷により、緊急のメンテナンスを実施致します。ご利用の皆様には、ご不便とご迷惑をお掛けしますがご了承ください。また、通常レベルでの運用は可能ですので、ご安心ください」
ロビーに戻された久遠は、唐突な出来事に目が点になっていた。
そして、何気なくスキルステータスを確認すると、先程まで使用していたスキルは文字化けし、暫くすると何もなかったように消滅していった。
「え?なんで……」
意味が解らず困惑していた久遠に、近くにいたカナンが心配そうに見つめていた。
涙がこぼれ落ちると、久遠に抱きつき、声にならない感情を抑えられず、
「よ、よかった、……く、久遠君」
「カナンさん」
「よっ、生きてるな、久遠」
シオンは久遠とカナンの頭をクシャクシャすると、久遠の安否を確認してホッとし、胸をなで下ろした。
近くには、まだ眠っていたロイが、大いびきをして横たわっていた。




