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VR&RW Online  作者: 田島 康裕
49/60

第49話 光龍の眼差し、久遠の、進むべく道を推し量る。

 ノルンは慌てて起き上がり、即座に距離を取った。


 久遠は自然体で構えを取ると、


 「……」


 面食らった様子のノルンは、平静を装うように、自分の髪を無意識に触るが、その手は、冷や汗でグッショリとしていた。


 「ロイさんに教えて貰った格闘術が役に立つなんて。何事も、真面目に打ち込むものですね」


 そう言って、自分の立ち合いを確認すると、久遠は自信ありげに拳を見て微笑む。


 「くっ」


 対照的に、ノルンの焦りようは尋常ではなかった。


 ソーディアンの命ともいえる、刀剣を破壊することで、圧倒的なアドバンテージを獲得したと思った矢先。


 ロイ以上の格闘センスを持ち合わせている、久遠の天性の才能に、僅かに芽生えた油断は、脆くも刈り取られてしまったからだ。


 久遠と対峙すると解る。


 余計な感情や、筋肉の緊張が一切無く、それ故に、相対するノルンにとって、そのモーションを読むことは困難極まりなかった。


 「……ど、どうすれば」


 嫌な汗が頬を伝う。


 そんなノルンの心情を、鈍感なまでに気付かない久遠は、我関さずといった様子で、再び拳を構える。


 ノルンの焦りを感じ取ると、体内で傍観していたヴォーティガンは、


 (何を弱気になっておるのだ、マスター)


 「……ヴォーティガン」


 光龍の声を聞いて、ノルンは黙り込む。


 それほど、今の彼女には余裕などなかった。


 その焦りを感じ取ると、光龍は、呆れたように欠伸をすると、


 (まだ、我が真の力を解放しておらぬではないか、何を躊躇しておる)


 確かに、龍人化を果たしたとはいえ、ノルンのスキルは、まだ真の姿を発揮していなかった。


 しかし、その力を解放することは、先の、ロイとアイギスの一戦と同じような危険性を孕んでいることを、身に染みて痛感していた。


 それ故に、ノルンが、二の足を踏むのも無理はなかった。


 この戦いは、あくまで、次に行われる大型アップデートの為のサンプリング。


 なにも相手の久遠に、危険を伴う死闘を課す必要などなかった。


 データは十分に取れている。


 ここは、自分がリザインすれば済む話だった。


 そう思った瞬間、


 (情けない!見ておれぬわ)


 光龍は大声を上げて、ノルンを一喝した。


 「ヴォーティガン、……何を?」


 ノルンは光龍の言葉の真意を確認するように、心の中で尋ねるが、それよりも先に、身体に異変が起きた。


 眩い光がノルンを包み込むと、龍人化で変化した身体は、元の姿に戻ったと思った瞬間、その姿は、通常の肉体を神々しいまでに成長させていった。


 着ている服装は黄金色の、スタイリッシュな装身具となって、全身を包み込み、頭髪は地面に付くかと思うほど、美しく伸びていた。


 「す、すごい」


 余りの変化に、思わず久遠が見惚れるように、その姿を見ると、ノルンが口を開く。


 「お主の真の力、儂が見聞しようぞ」


 その声はノルンの声を介しているが、明らかに、彼女のパーソナルではないことは明白であった。


 「あ、貴方は?」

 「儂はヴォーティガン、主が不甲斐ない故、この身体の所有権を、強引だが我がモノとした」


 そう言うと、光龍は久遠の瞳を見て、


 「うむ、よい目をしておる」


 久遠の全てを感じとると、光龍は満足げに微笑む。


 そして、


 「お主がこの世界で生きる意義を、この戦いで存分に示すがよい。さすれば、お主の行く末に、これまでにない、光明が照らされるであろう」


 光龍は構えを取ると、久遠をジッと見て、自身に流れ込む、無尽蔵のタオを御するように、フウッと深呼吸をした。


 「……」


 それまでのノルンとは一線を画す、圧倒的な気配を感じ取ると、久遠の目は、それ以上に、充溢した戦意で満ち溢れていた。


 「では、行くぞ」


 光龍は自身の特権である、ニル・ヴァーナ・アトラスの、サーバー上で蓄積された、無数の戦闘データを独自解析する。


 人工知能ならではの、ディープラーニングを行うと、それまでの常識に囚われない、独自の戦闘スタイルを、瞬時に構築していった。


 その反則的なまでのプログラミングと、一つの個としての人格を有した、光龍のパーソナルは、もはや、神に等しいまでの存在を、極限まで昇華していった。

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