第43話 禁忌のスキル
ロイは、檄を飛ばすように、アイギスに発破をかける。
「ぐ、うっ……」
その言葉を受け、アイギスは、よろめきながらも、何とか、身体を起こすと、
「実践じゃ、その隙が命取りだぜ」
「は、はい」
アイギスは、荒い息を整え、構えを取り直すと、ロイと再び対峙する。
先程までの余裕は露と消え、弱腰となった、アイギスの目を見て、ロイが、
「そんな弱気でどうすんだ!お前は強い、自信を持ちやがれ!」
「え?」
思いも寄らない、ロイの言葉に、アイギスは、その場で硬直する。
普段は冗談を言っては、その場を、楽しませることが大好きな南雲であったが、こと、格闘技に於いては、滅多に、相手を褒めることはない。
その、鬼のような厳しさを持ち合わせた人が、自分を褒めるなど、信じられなかった。
言い知れない感情が、一樹の心を震わせた。
「この世界じゃ、リアルなんざ、関係ねぇのさ、そうだろ?」
「……」
ロイの言葉を受け止めると、アイギスの心の奥底に沈殿していた、南雲に対する、畏怖の感情が、その言葉によって、静かに氷解していった。
「そうですね。今はアイギスとして、クラウド殿、貴方と戦っているのでしたね」
「そう言うこった。まだ、全力を出さねぇのに負けたんじゃ、寝覚めが悪いだろ、ええ?」
「ふふっ」
アイギスは、心の底から、沸き上がった喜びに、身体を震わせ、自分でも、知ることのなかった感情を抑えられず、その場で大笑いをしていた。
「最高ですよ、クラウド殿」
その目には、先程まで、弱気に駆られていた自分を、笑い飛ばすほど晴れやかに、ロイのいる、高みを越えんとする、気概に満ち溢れていた。
アイギスは、スキルを解除すると、幻影は、跡形もなく消えて行く。
「おいおい、どうした?」
ロイは、幻影が消えるのを見て、思わず、アイギスに問い掛ける。
「これ、結構、神経を使うんですよ」
そう言って、アイギスは、困った表情を浮かべる。
その顔は、イタズラっ子のように、どこか、憎めない可愛さがあり、ロイも釣られるように、口を緩ませた。
「使いにくいスキルを、よく試そうとするわな」
「テストも楽じゃありませんよ、ほんと」
アイギスは、サムスからの依頼を、さも、迷惑そうな口振りでボヤくが、本当に迷惑をしていないのは、その言葉尻で見て取れた。
それほど、ニル・ヴァーナの創始者である、サムス・ギルバードは、一見、自由気まま、思い付きだけで行動する人間であった。
だが、その天真爛漫な、子供のような人柄は、一度でも関係を持てば、誰もが、その魅力に引き込まれる、カリスマ性を持ち合わせていた。
「あの馬鹿の相手は、クセになるモンがあるわな」
「ええ、不思議ですよね」
互いに納得して、意見を確かめ合うと、二人は、サムスの、寝ぼけたような顔を思い出して、笑い合った。
一頻りすると、ロイが、
「さぁ、次は、どう出るんだい?」
先程までの和気藹々とした、空気はそのままに、ロイが構えを取り、アイギスの出方を楽しそうに窺う。
「まだ、試したことのない、スキルを使ってみましょうか」
そう言うと、アイギスは、スキル発動の準備をする。
「終わるまで待ってやるよ」
「ふふっ」
アイギスは、オーバースキルを、再び発動した。
「スキル発動、ベルセルク」
アイギスは、楽しそうに、スキル名を呼称する。
途端、異変が起きた。
「ぐ、がぁ……」
アイギスの目は、血管が浮き出て、深紅に染まると、身体が一回りも二回りも、大きく膨張した。
アイギスを覆っていた装身具は、音を立てて軋むと、凄まじい圧力と共に砕け散った。
「だ、大丈夫か!」
その変貌振りに、思わず、ロイが不安げに、アイギスを気遣うように近づくが、
「ガァアア!」
何気なく振り上げた、左腕が空を切ると、周囲に、途轍もない衝撃波を発生させ、ロイの身体は、風圧によって、枯れ葉のように吹き飛ばされた。
「!」




