第42話 翻弄する幻影
アイギスは跳躍して躱すと、半身は、僅かに反応が遅れる。
「もらったぜ!」
ロイの攻撃が、半身を捉えた瞬間、半身の身体は、空気のように、捉えどころなくすり抜けた。
「何だって!」
「……」
半身はそのまま、右足を振り上げ、踵落としを放つと、
「へっ、そんな、こけおどし、引っかかるかよ」
半身には、攻撃判定がないと踏んだロイは、その攻撃を無視して、本体であるアイギスに反撃の狼煙を上げる。
瞬間、半身の踵落としが、強かにロイの頭頂部を襲った。
「がぁっ!」
頭から、火花が出るような衝撃に、思わず、ロイは後ずさり、グラつく身体を支えるのに精一杯だった。
「予測が外れましたね、クラウド殿」
「な、何?」
アイギスは距離を取り、次のモーションに備え、万全な構えを取りながら、納得がいかない様子のロイに、
「このスキルは、攻撃する時は実体化し、それ以外は文字通り『幻影』、捉えることは出来ないのです」
「ったく、厄介なスキルじゃねぇか、反則技にも程があるぜ」
「リザインするなら、今のうちですよ」
オーバースキルと、自身の力を、余すことなく発揮すると誓った、アイギスは、ロイの戦意を鼓舞するように、敢えて挑発する。
「へっ、タネが分かりゃ、対策の一つや二つ、考えつくってもんだせ」
「ええ、楽しみにしてますよ」
ロイは、すぐに、打開策を考え付いていた。
幻影の保持には、相当量のタオを消費するはず、大本の本体に的を絞り、攻略すれば、アイギスは、大技を繰り出すことはないと、ロイは戦術予想すると、
「幻影なんざ無視して、オメーを、真っ先にぶっ潰すぜ!」
「その戦略は正解です。ですが、そう簡単には行きませんよ」
「へへっ、やってみなくちゃ、分からねぇぜ!」
ロイは、自分が発した言葉が、簡単に行くとは思っていなかった。
一人でも、厄介な相手なのに、当たり判定がなく、こちら側には、有効である反則的な幻影を、一度に、相手にしなければ行けない、状況下に於いて、時間を掛けて攻略することは、自身の体力と、タオが持たないと悟り、短時間で勝負を付けるしかないと、覚悟を決めた。
「今度は俺から行くぜ!」
ロイは、アイギスを見据えて、深く息吹きをして精神を鎮める。
先程までの激痛は、そのメディテーションによって、嘘のように消えて行った。
達人にしか出来ない境地、明鏡止水を体現すると、その目は、一切の邪念が消え、清流のように澄んだ瞳は、迷いなく、アイギスを捉えた。
「……」
そのプレッシャーを肌で感じると、アイギスも、同じように呼吸を整えていく。
再び、静寂した空気がその場を支配する。
ロイが、前屈立ちで拳を中段に構えると、大きく呼吸をする。そして、意表を突く速さで、アイギスに攻撃を放った。
「!」
日本の古武術の奥義『縮地』を駆使して、一瞬で距離を縮めると、ロイは、掌底を、アイギスの顎に目掛け、凄まじい速さで繰り出した。
反応することが出来なかったアイギスは、回避することが出来ず、その攻撃は、見事なまでにアイギスを捉え、後方に吹っ飛ばした。
「……さっきのお返しだぜ」
半身が、ロイの後方に構えていたが、不思議と、何をするでもなく、その場で直立不動していた。
すぐ、半身の動きに注意を払ったロイは、そのアクションを不審に思ったが、直感で、この幻影の仕様を理解する。
「ぐっ、はぁ……」
その場で悶絶するように、アイギスは、噎せるように、その場で蹲っていた。
追撃するチャンスだが、ロイは、アイギスが立ち上がるのを待っている。
「早く立ちな、勝負はこれからだぜ」
「……はぁはぁ」
人体の急所である箇所を、強かに攻撃され、すぐに立て、という言葉に、アイギスは恐怖すら覚えた。
現実世界で、南雲との稽古に於いても、その実践的な組み手は、常に、生傷が絶えないものであり、柏木一樹にとって、トラウマになるほど熾烈なものであった。
「何時までも、寝てるんじゃねぇ。立つんだ、一樹!」




