第40話 龍人化
「あの戦闘スタイルが、本来のクラウドさんなんです」
「え?」
ノルンの言葉に、久遠は、不思議な感覚に襲われる。
ロイと、多くの時間を共有していた自分が、この戦闘スタイルを見るのは、初めてなのに、相手である、ノルンが知っていることに、久遠は直感で悟ると、
「貴女は……」
「ふふ」
その視線を感じたノルンは、微笑むと、
「さぁ、続きを致しましょう」
剣を構え、ノルンは、
「そう言えば、神聖位クラスの龍は、召喚して共に戦う、それだけではないのですよ」
「え?」
久遠は、ノルンの言っていることが分からなかった。
疑問を隠せない様子の久遠を見て、ノルンは、剣を胸の前に出して、刀身を、指で擦るように撫でる。
ルーン文字が浮き上がると、ノルンの周囲に、眩い光が沸き起こった。
それは、神々しく、神聖なオーラで、見る者を圧倒するものだった。
「クラウドさんが使った盾のように、自身の武器を媒介する事で、初めて、仕様することが出来るスキル、お見せしましょう」
ノルンの持っている剣が砕け、光の渦が、天高く突き抜けると、天上から黄金色の龍が出現した。
「!」
久遠が驚き、その場に立ち竦んでいると、龍は、悠然とシオンの後ろに滑空すると、ホバリングをするように、大きな翼を羽ばたかせ、その巨体は大地に降り立った。
「我がマスターよ、何用か?」
「ヴォーティガン、貴方の力を、お貸し頂けますか?」
「面白いことを、戯れ言は聞かぬぞ」
「……」
微笑むノルンであったが、その目は、真剣そのものであった。
「光龍を相手に、ふざけて、召喚など致しませんわ」
「ふふっ、お主をからかっただけじゃ」
「力を貸して頂けますね?」
「承知」
「光龍?」
四大属性しか存在しないはずの、ニル・ヴァーナの世界に於いて、光の属性など、聞いたことがなかった。
あり得ない。
久遠は、目の前に起きている事象に、夢でも見ているかのような、浮遊感を覚えていた。
「久遠さんが、驚くのも無理はありませんよ。これは、ね」
炎龍を召喚することでさえ、他のプレイヤーからは、チートと呼ばれてるのに、ノルンの召喚獣は、冗談抜きのモノであった。
「そんな、馬鹿な!」
ノルンの剣術と、龍のコンビネーションを、脳裏でイメージするだけで、背筋が凍る思いだった。
「先程も言いましたが、神聖位クラスの龍には、こんな使い方もあるんですよ」
ノルンは、得意げに久遠を見ると、フウッと息を吸い、詠唱を唱えた。
その呪文は、澄んだ歌声のように、ノルンと、光龍を包み込んでいくと、その姿は一つとなっていく。
凄まじい熱量が辺りを覆い、光のオーラが、周囲の構造物や、木々に触れると、枯れた木々は青々しく息づき、朽ちた建物は、在りし日の面影を蘇らせていった。
「龍人化、完了」
そう言うと、シオンの身体は、人と龍が一体となり、その姿は大きく変貌していた。
背中には大きな翼が生え、全身を覆う硬い鱗は、下手な剣など、触れるだけで折れて仕舞うほど、強固な防御力を有していた。
ノルンの顔には、ボディ・ペインティングのように、幾つもの筋が走り、その表情は、男性的な雄々しさを醸し出していた。
「う、嘘だ……」
ノルンが放つ、圧倒的なプレッシャーに、剣を持つ久遠の手は、いや、全身が、言い知れない恐怖で震えていた。
「さあ、始めましょう、久遠さん」
ノルンは、ロイ達と同じように、拳を構え、久遠の出方を悠然と待っていた。
「……」
剣を失ったとしても、それ以上のアドバンテージを得たノルンと、そこから繰り出される攻撃は、全く未知数であるため、どのような戦術を組み立てるか、シミュレーションを立てるなど不可能であった。
しかし、覚悟を決めるしかない久遠は、パンと、自分の頬を叩き、無理矢理にでも気合いを入れる。




