第4話 集中治療室
「俺みたいな、低ランカーを仲間にするなんて、お前も酔狂だよな、ほんと」
「同じS プラスじゃないですか」
「最初の頃だよ、最初。野良で掛け出しだった時に、久遠とパーティを組んだ一戦は、マジで鳥肌モンだったぜ!」
「マッチングの不具合で、僕のランクに、ロイさんが組み込まれた試合ですね」
「俺以外の全員がS プラスとか、運営のイジメかと思ったぜ」
「でも、勝てたじゃないですか」
「イモるしかなかったけどな」
「そんなことないですよ。自分の役割を、しっかりと把握して行動していました」
「久遠だけだったぜ、俺の援護と、敵の攻撃を同時に処理してたのは」
「他の二人はちょっと……」
「敵に煽られるのは分かるけどよ、味方まで煽られるのはムカついたぜ」
「マナーが悪いプレイヤーは、上位ランクに行けば、少なくなるはずなんですが」
「まぁ、気持ちは分からんでもねーけど」
「僕は嫌いです」
珍しく怒りの感情を露わにした久遠に、
「久遠はジェントルマンだな」
ロイは、感心したように笑顔で頷く。
「そんなことないですよ。ただ、オンライン上で、匿名性が保証されているからと言って。礼節に欠ける行為をすることに、我慢が出来ないだけです」
「固いなぁ、俺の盾並の強度だな」
「三発の連続照射にも耐えますよ」
「おっ、乗ってくるじゃないの、成長したなぁ、久遠、はっはっはっは」
「ロイさんと一緒に居れば、嫌でもそうなりますよ」
「お、俺様、いま、褒められてるの、の?」
「もちろんですよ」
「知ってた」
チャットルームに、そのアクションが描かれたスタンプが表示される。
いい具合に、イラッとくる表情に、ジワジワと、笑いがこみ上げて来る。
「そのスタンプ、何処で買ったんですか?」
「これか?公式じゃなくて、クリエーターズショップで買ったんだ」
「面白いアニメーションですね」
「だろ?普通の絵と違って、動かすとなると、一手間も二手間も掛かるからな、ちなみに、作ったユーザー、俺の学校のダチだったのには吹いたわ」
「それ、すごい確率ですね」
「スタンプも、有名になれば、公式ショップに上がることも出来るし、結構な印税が手に入るからな。このスタンプも、ランク百位に、たまに入ることもあるらしいから、アイツ、本腰を入れるって言ってたな」
「僕も欲しいです、後で購入しますから、リンクお願いします」
「りょ!」
可愛い猫が、ビシッと敬礼するスタンプが張られる。
「何時までも、駄弁っててもキリがないし、先に落ちるわ、乙ー」
ポンという音がして、エントランスルームから、ロイが退出する。
「う~ん、僕も寝るかな」
プライベートルームに戻ると、ルチルが気を利かせて、就寝の準備を整えていた。
「久遠、お疲れ様です。ゆっくり、お休みくださいね」
「何時もありがと、ルチル。おやすみ」
部屋の照明が徐々に落ちていくと、フンワリとした、ベッドの中で眠りに落ちていく。
▼五木病院 集中治療室 V I P ルーム
様々な最新の医療機器が、所狭しと整然と配置された部屋の中央に、久遠の肉体が横たわっていた。
巡回に来ていた看護師が、久遠に接続されている、機器のチェックをしていた。
「問題なし、と」
「何か、楽しいことでもあったのかしら」
「あちらで、お友達とお喋りでもしていたんでしょうね」
「ええ」
看護師の言葉に答えたのは、久遠の母親である楓であった。
黒髪のショートヘアと、キリリとした瞳は、宝塚の男役にも負けないほど凜々しく、それでいて、真っ直ぐに通る低めの声も相まって、女性の看護師には、密かに憧れて、ファンになる人が後を絶たなかった。
今日の担当であった、新人看護師の大槻美雪は、先輩から、その噂を聞いて、今日が初めての対面であったが、胸の高鳴りを抑えるのに必死になるほど、脈拍が自然と上がっていった。
正直、久遠の処置をするより、自身に起きている体調の変化に、注意を向けるのに必死でしかたがなかった。




