第39話 師弟対決
「この闘い、負けるワケにはいかねぇ!」
両手に、タオを集中させ、闘気を纏った拳を構える。
ロイの無駄のない構えを見て、アイギスも、同じように、タオを拳に纏って構えた。
空手の組み手のように、ロイは中段、アイギスも同じ構えを取り、相手の出方を窺う。
現実世界では、互いに空手の有段者である二人、その無駄のない動きは、静寂の中でも、ピリピリとした緊張感を放っていた。
ロイが、息吹きをし、精神を集中させると、僅かに構えを変えた瞬間、
「はあっ!」
前屈立ちから、中段突きを放つ。
モーションに、一切の無駄なく放たれた攻撃は、警戒をしていたアイギスでも、目で追えないほど、高速で、正確無比な一撃だった。
「くッ!」
人中線を狙った一撃を、何とか中段受けで躱すと、アイギスも反撃した。
腰を低く構え、捻りを加えた下段蹴りを、ロイの右足目掛けて放つ。
ロイの拳よりも速く、繰り出された蹴りは、ロイの左前足を捉えた瞬間、ロイは足を上げて躱す。
その動きを読んでいたアイギスは、そのまま下段蹴りの軌道を、上段に変えると、タオを込めた一撃を、頭部目掛けて放った。
「!」
突き刺すような、鋭利な蹴りを、ロイは紙一重で躱す。
その反射神経は、もはや、常人を越えた、達人の域であった。
しかし、アイギスの攻撃は、まだ終わらなかった。
躱された、回し蹴りの弧の軌道を返すように、蹴りを戻すと、三段蹴りを繰り出す。
目にも止まらない猛攻に、流石のロイも、反応が遅れ、その攻撃を、強かに食らってしまった。
「ぐっ……」
凄まじい衝撃が、ロイの側頭部を襲い、思わず仰け反り、後方に後ずさる。
「どうですか、クラウド殿?」
一連の動きを確認し、手応えを感じたアイギスは、満足そうに、ロイに語り掛ける。
「へへっ、まいった、まいった」
ロイは、耳鳴りがする頭を擦りながら、身体がグラつくのを必死で耐えながら、それでも、不敵な笑みをアイギスに返した。
「流石ですね、あの三段蹴りを、二手まで読まれるとは」
「普通は二発で終わるんだよ、サービスでもう一発かますなんざ、いい根性してるな、ええ?」
茶化すような口調だが、ロイは感心したように、アイギスの攻撃を讃えた。
「貴方から学んだことを、実践しただけですよ」
「へへっ、そりゃ、どうもってか」
現実世界では、アイギスはロイの弟弟子で、師範代であったロイに、闘いのいろはを叩き込まれていた。
リアルでは、全く敵わない相手であるロイに、ニル・ヴァーナでのステータスと、持ち前のバトル・スキルの相乗効果によって、兄弟子であるロイも驚くほど、卓越したソルジャーとしての才覚を、アイギスに与えていた。
「現実では、全く歯が立たない貴方に、今は互角で戦える。素晴らしい世界ですね、この、ニル・ヴァーナという世界は!」
興奮を抑えられず、猛る気持ちを隠しきれない様子のアイギスに、ロイが、
「だろ?クセになるよな」
と言って、普段、余り感情を表に出さないアイギスの、嬉々とした表情を見ながら、同じように、テンションが上がったロイは、
「だからよ、徹底的にボコしてやんよ!」
構えを取り、先程のお返しをせんと、臨戦態勢に入ったロイは、アイギスの顔を見て、不敵な笑みを浮かべる。
それは、ただ、喧嘩を買って出るだけの、野蛮なモノではなく、純粋に、目の前の好敵手を、己の持つ、全ての技を以て、闘いに挑まんとする、戦士の眼差しであった。
「私も、貴方との闘い、存分に楽しみましょうぞ」
シンクロするように、アイギスも、顔を綻ばせ、ロイを見て笑う。
その闘いは、あと、数刻もすれば、決着が付く死闘を前に、その時間を惜しむかのように、二人は、互いの拳を相手に向けると、視線を外さず、見つめ合っていた。
一方、その戦いを、少し離れた場所にいた、久遠とノルンは、
「お二人とも、楽しんでますね」
ノルンは、感心したように、ロイ達の戦闘を見ていた。
「す、すごい」
それまで見たことがない、ロイの戦闘スタイルに驚くと同時に、それ以上に、鉄壁の防御力を持つロイが、これほど迄に、インファイトを、寧ろ得意としていることに、久遠は衝撃を覚えていた。




