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VR&RW Online  作者: 田島 康裕
38/60

第38話 特殊条件

 小剣を構え、距離を縮めた。


 互いの間合いは、ギリギリまで近づくと、双方の剣が静かに動く。


 端から見ると、剣舞のような動きでしかないが、これは、達人達による、見えない攻防であった。


 幾重にも放たれる攻撃を、頭の中でシミュレーションして、相手の僅かな隙を見切る、高度な戦闘であった。


 「……」


 アイギスは感心していた。


 圧倒的不利な状況下でも、ロイの構えと呼吸には、一切の乱れもなく、清流のように澄んだ瞳。


 自分との戦いを楽しむように、その剣を、迷い無く向けている。


 「!」


 先に動いたのは、アイギスだった。


 小剣を突き上げるように、急所である喉元に、素速い剣撃を繰り出した。


 「へっ、狙い過ぎだぜ!」


 ロイは、急所を覆うように、盾を構えると、アイギスが詠唱を唱えた。


 小剣は、その形を変え、槍に変化すると、ロイが構えた、盾目掛けて、渾身の一撃を放った。


 「なっ!」


 盾は融解するように熱を帯び、耐久値が、瞬時にゼロになると、粉々に飛び散った。


 「……終わりです」


 槍を構え、タオを集中すると、凄まじいオーラが、アイギスの槍に注入され、


 「クソッタレが!」


 盾が蒸発し、丸腰になったロイは、小剣を構えて応戦する。


 アイギスは、腰を低く構え、槍を持った腕に、ありったけの力を込めて、下半身に重心を置くと、勢いよく、その槍を投擲した。


 「グングニル!」


 赤く纏ったオーラは、槍を覆うと、烈火の如く、灼熱の炎を帯びて、ロイに襲い掛かった。


 「……」


 その眩い光が、周囲を包み込むように膨張すると、ロイの姿は、霞むように消えて行った。


 轟音が鳴り響くと、地面は、地震が起きたかのように揺れていた。


 「終わりましたね」


 アイギスは、前方を見据え、勝敗が決したのを確認すると、踵を返し、その場を後にした。


 だが、言い知れない気配を感じ、振り返ると、土煙に映る、人影を確認すると、


 「……ば、馬鹿な」


 そこには、ロイの姿があった。


 「へへ、そう簡単に死ねるかよ」


 視界が良好になり、ロイの姿が現れると、ロイの前には、光学式の盾が、今にも消えそうに頼りなく、その姿を晒していた。


 「た、盾が、もう一つ!」


 アイギスが、驚くのも無理はない。


 事前の入念なリサーチに於いて、ロイのステータスは確認済であった。


 それなのに、このタイミングで、双璧の盾以外の盾が出現したことは、アイギスに取って、全くの想定外だった。


 「まさか、コイツを使う羽目になるなんてな、参ったもんだぜ、ホント」


 盾は、アイギスのスペシャル・スキル『グングニル』を耐え抜くと、その役目を終えて消滅した。


 続けて、ロイが、


 「コイツの出現条件は、特殊でな。自分の武器を媒介にしなけりゃ、現れねぇって、偏屈な野郎なんだ」


 確かに、ロイの手元には、小剣がなかった。


 「だからよ。武器がないと、最悪、拳で相手を倒さなくちゃならねぇけど、今の状況なら、相子ってわけだよなぁ」


 近くに落ちていた、アイギスの槍が、スキルの発動によって、耐久値の限界を超え、消滅すると、ロイが得意げに、


 「久々の殴り合いの喧嘩、楽しいよなぁ、オイ!」

 「くっ……」


 必勝の策を講じて放った一撃を、思いも寄らない戦術で打開され、五分五分の条件まで押し返されたことに、アイギスの表情は強張っていた。


 互角の条件とは言ったが、純粋な格闘術の腕前は、ロイに分があった。


 アイギスは、自身の、圧倒的なアドバンテージに依存し、目の前の相手を、真摯に見定めなかった己を後悔した。


 相手は、あの、南雲英一郎なのだ。


 何事も粘り強く、決して、諦めることのない、彼の生き様を、誰よりも、近くで見ていた自分が、忘れるはずも無かったのに。


 己の傲慢な態度を恥じたアイギスは、心を入れ替え、ロイに改めて対峙する。

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