第37話 盾使いの兵法
「なるほどな。アバターで、上手く誤魔化しちゃいるが、その物言いに佇まい、お前、柏木だな」
その一言に、アイギスは驚いたように、
「まったく、南雲さんには、隠し通せませんね」
と、降参のポーズを取る。
「直属の部下の性格ぐらい、分からぁな」
ロイは、アイギスこと、柏木の正体を言い当てると、
「ケルベロスを引っ張り出すなんざ、サムスの気紛れにも、困ったもんだな」
「全くですよ、ホント」
先程までの、武骨なイメージとは若干違う、柔らかな物腰になったアイギスに、
「一樹も大変だな」
下の名前を呼ばれ、一樹は、昔のアメリカ映画の俳優のように、大袈裟に手を上げるリアクションを取った。
「私の正体が分かった今、まだ、戦闘を続ける気ですか?」
「ああ?あったりめぇだろ、なに言ってやがる」
「ですが、私達には、管理者権限で、既存のS+のレベルより、二段階うえ、S+++のステータスが付与されています。その私に挑むのは、無謀過ぎませんか?」
「馬鹿言ってんなって、負けたら、資産ゼロになるじゃねぇかよ。意地でも勝ってやるぜ!」
フンと、鼻を鳴らして、戦意のボルテージを上げている、ロイに対して、
「南雲さん。前にも言いましたが、これは、あくまでサンプリングに過ぎなく、例え負けたとしても、クランの資産は、一旦、形だけ接収して、後日、返還する手筈だったんですよ」
事を荒立てたくなかった柏木は、南雲に種明かしをすることで、無用な戦いを避け、リザインする事を薦めた。
既に、十分な迄の、戦闘データを収集し、サムスの依頼を完遂した今、柏木が戦う理由はなかった。
しかし、南雲は、小剣を取ると、
「な、南雲さん?」
「今は、その名前を呼ぶのは、野暮ってモンだぜ、アイギス」
プレイヤーネームを呼び、南雲、いや、ロイが、真剣な顔で対峙する。
「大将が諦めてねぇ状況で、はい、そうですかって、引けるかよ!」
「ですが!」
「二度は言わねぇぜ」
「……」
柏木は、南雲を見据えると、小剣を構える。
先程までの、緩やかな表情は消え、ラグナロクのリフレクター、アイギスとしての顔に戻っていく。
「ならば、我が力、存分に味わうがよかろう、クラウド殿」
凄まじいまでのプレッシャーに、ロイが、
「いいねぇ、掛かってきな!」
楽しそうに肩慣らしをして、息を深く吸うと、アイギス目掛け、先制の攻撃を放った。
双璧を展開し、一つ目の盾を、牽制でアイギスに放り投げた。
「……そのような手など」
臆することなく、突進するアイギスを見て、ロイの表情が僅かに緩む。
「!」
その表情を捉え、アイギスの背筋が寒くなる。
直感的に、危険な匂いを感じると、
「パージ!」
盾の中央が分離して、鋭い両刃が、アイギスの首を刈るように襲い掛かった。
「くっ!」
アイギスは、自らの盾を、瞬時に、頭部全面を覆おうように突き出し、その攻撃を受け止めた。
「いい反応だ、けどな」
ロイは、自信に満ちた声で、アイギスに、
「俺の盾は、甘くはねぇぜ!」
自身のタオを、パージした盾に注ぎ込むと、刃の噛み切る力が強くなる。
ギリギリと、アイギスの盾の耐久力が低下していく。
「……」
アイギスは、リフレクターの命とも言える盾を、瞬時の判断で手放した。
瞬間、盾は音を立てて砕け散る。
あと数秒、その選択を躊躇していたら、アイギスの首は、地面に落ちていただろう。
「いい判断だが、盾のないリフレクターほど、頼りないモノはねぇよな、ええ?」
「そうではありませんよ、クラウド殿」
小剣を構え、ロイに対峙すると、
「その盾の力に、頼ってばかりでは、ね」
先刻、ロイがしたように、今度は、アイギスが、左手で手招きして挑発する。




