第36話 明かされる思わく
「……スキル発動」
久遠の背中に、銀色の翼が生えた。
大きく、翼を羽ばたかせ、アイドリング状態で、ホバリングすると、
「ふふっ、そのスキルを見たかったんですよ、私は」
久遠を見据え、ノルンは、手にした剣を構えると、ジリジリと距離を縮める。
「行きます」
久遠は、垂直に、上空に飛び立つと、ノルン目掛けて、強烈な突きを放った。
「……」
その神速とも呼べる、攻撃を紙一重で躱し、後方に、バックステップする。
久遠の放った剣撃は、地面に到達すると、衝撃波となって、周囲の木々を揺らした。
「なんて速さでしょう」
ノルンは、土埃で汚れた服を払うと、抜刀の構えを取る。
目を閉じ、僅かな隙を見逃さないように、全神経を集中させた。
再び、上空に飛び立ち、攻撃を繰り出す、久遠の予備モーションの、僅かなタイミングを狙って、ノルンは、脚力にタオを集中させると、上空に飛翔して、反撃の一打を放った。
「!」
突然の攻撃に、僅かに反応が遅れながらも、ノルンの放った攻撃を避けると、剣を上段に構え、ノルンの頭部目掛けて振り下ろし、反撃をする。
「甘いですよ、久遠さん」
大振りになった剣撃を喰らうほど、ノルンは甘くなかった。
剣先で、撫でるように払い除けると、ガラ空きの胴に、剣を突き上げた。
「……」
翼の駆動力を、最大限に活かし、通常なら避けられない、致命傷の攻撃をずらすと、腹斜筋の側面を、掠る程度で済ませた、反射神経に、ノルンは驚く。
「はあっ!」
攻撃に転じた久遠は、避けた勢いを利用して、回し蹴りを放つ。
当たる直前に、ノルンは、左腕を上段に構えて、直撃を回避するが、その威力は凄まじく、ノルンを、地面へと叩き付けた。
その攻撃に、ノルンの表情からは、余裕が消えていた。
「まさか、これ程までとは……」
自身の、オーバースキルを使用した状況下でも、その力と同様、いや、それ以上の力量を持つ、久遠の実力に、ノルンは、純粋に、憧れすら抱いていた。
しかし、すぐに、自分に与えられた役目を思い出すと、意識を戦闘に戻すと、剣を構えた。
その戦闘を見ていたロイは、アイギスと対峙した状態で、二人の攻防を目の当たりにすると、心の奥に、熱い感情が込み上げる。
「……すげー」
感嘆の声を上げるロイを、アイギスは、
「素晴らしい戦いですね」
同調するように、ロイの言葉に賛同する。
「へへっ、アンタも、黙ってられない質なんだな」
ロイは、嬉しそうに構えを取ると、
「あれだけ、熱い戦いを見せられちゃ、疼かないわけねぇ、そうだろ?」
「ええ、まったくです」
アイギスは、口を緩めると、ロイの目を見て笑った。
ロイは、地面に刺さった、アイギスの小剣を拾って渡すと、
「では、始めましょうか、クラウド殿」
「ああ、掛かってきな!」
お互いの呼吸が、シンクロするように、徐々に重なっていく。
ロイは、先程までの出来事を忘れるかのように、怒りの感情とは異なる、ただ、目の前の相手を、全力を持って挑まんとする、純粋な闘争心で、戦闘に臨んでいた。
その構えは、古武術を現実の世界で、免許皆伝まで鍛え上げた、南雲英一郎、その人を映し出すかのように、威風堂々、その姿は、充溢した覇気を纏っていた。
「素晴らしい覇気です」
アイギスは、その圧倒的なプレッシャーを感じ、思わず武者震いをする。
現実では、決して、叶うことのない一戦に、アイギスの闘争心は、熱く滾っていた。
両者は、距離をギリギリまで、自分の間合いに縮めると、あと一歩という場面で、ロイが、おもむろに語り出した。
その声は、非常に小さく、上空を飛んでいた、カメラの集音マイクに届かないよう配慮されていた。
「……この戦い、差し詰め、サンプルデータを収集して、今後実施する、ニル・ヴァーナ・アトラスの、ランク解放のアップデートを兼ねた、試験運用テストってところだろ、ええ?」
「……」
表情は変わらないが、アイギスは、首を横に振らなかった。
ロイは、それだけで十分だった。
「やっぱりな。クラックじゃなけりゃ、お前さんらの実力を説明するとなると、答えは一つしかねぇよな」
「……」
「黒幕はサムスだろ、ええ?」
確信を突いた一言に、アイギスは、口を開き答えた。
「その通りです、『南雲首相』」
アイギスは、導き出された答えを、否定することなく、ロイの推理を肯定した。




