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VR&RW Online  作者: 田島 康裕
35/60

第35話 戦術予想

 「終わりましたね」


 アルテミスは、構えを解くと、満足そうに笑顔になる。


 「僕はガス欠だよ、はは」


 ヘルメスは、カナンに発動した、詠唱によって、自身のタオを全消費すると、思わず、苦笑いする。


 「随分な仕事振りですね、ヘルメス」

 「仕事は大切でしょ?リアルでも、コッチでも、ね」

 「そうですね」


 アルテミスは、ノルン達の戦いを見ながら、これまでの戦いのデータを、ニル・ヴァーナの、ネットワーク上にある、クラウドサービスに転送する。


 「僕も、処理しないとね」


 ヘルメスも、アルテミスに倣うように、コンソールを開くと、機械的な手続きをする。


 その光景を、観客達に悟られないように、ゴーストプログラムを、起動することも忘れない。


 端からは、二人のプレイヤーの行動には、何も不自然さを感じさせず、勝利のポーズを取るアクションを、ゴーストのアバターが演じている。


 「これで、よしっと」


 戦闘データを、転送し終わると、ヘルメスはアルテミスに、


 「そっちは、終わりそう?」

 「ふふ、貴方のような、高度な情報技術は、持ち合わせていませんよ」


 そうは言っても、アルテミスの情報処理は、一般のプログラマーの、プログラミングとは、比較にならないくらい、高速で、正確なタイピングであった。


 「手伝おっか?」

 「大丈夫ですよ、いま終わりました」


 エンターキーを押して、プログラムを終了すると、ゴーストを解除した。


 「いいデータが取れたね。流石、現状、トップクラスのクランだよ」


 戦いを振り返って、ヘルメスは、感心したように、興奮気味に語っている。


 「ええ、此処まで楽しませてくれるとは、正直、想像が出来ませんでした」


 アルテミスも、満ち足りた表情で、ヘルメスの言葉に頷く。


 アルテミスは、ノルン達がいる方向に、視線を向けると、


 「彼方も、けりが付きそうですね」

 「……そうだけど、炎龍を秒殺なんて、容赦ないよね。ノルン、ちょっと、のめり込み過ぎじゃないかな?」

 「リアルでは、冷静沈着な方ですが。この世界では、水を得た魚のように、伸び伸びと、自分を出されていますね」

 「まぁ、仕事が仕事だからねぇ」

 「私も、ストレス発散になりましたよ」

 「それは何よりだね」


 二人は暫く談笑し、その和んだ空気は、先程までの、緊張感に満ちた戦いを、感じさせない、いや、あの、息詰まる戦場があったが故に、今の、穏やかな時間が流れているのだろう。


 一頻り、会話を済ませると、ヘルメスが、


 「これから、どうする?ノルンの援護に回る気かい?」

 「そうですね……」

 「僕は、もうタオがゼロで、お役御免だけど、アルテミスは、まだ余力があるよね」

 「いえ、後は、お二人にお任せします」


 今の状況で、シューターの助力があれば、ノルン達にとってのアドバンテージは、圧倒的な物になるが、アルテミスは敢えて、その一手を下すことを固辞した。


 「二人の楽しみを、取って置こうなんて、流石だね♪」


 ヘルメスは、楽しそうに身を躍らせる。


 その目は、子供のようにキラキラしていて、子犬のような、無邪気な笑みを浮かべる、ヘルメスを見ると、思わず、アルテミスは、クスッと笑い、愛おしいものを見るような、温かい視線を向けた。


 「ええ。では、私達は、彼らの戦いの行く末を、見守りましょう」

 「うん、そうだね!」


 ヘルメスは、右手の親指を、元気よく立て、グッドサインを、高らかに掲げた。


 久遠は、心身共に疲弊していた。


 先程まで、有利に進んでいたと思われた攻防は、ノルンの思わぬ一手に、脆くも砕かれ、もう打つ手など、ないに等しかった。


 あるとすれば、銀翼の魔術師の由縁の一つでもある、飛行スキルを使用しての、戦術プランしかなかった。


 ニル・ヴァーナの世界では、プレイヤーは、地面から、ジャンプするアクションは出来るが、浮遊することは、基本的に出来ない仕様になっていた。


 筋力を鍛えることで、ビルの高さまで、飛翔することは可能であるが、自由に空を飛ぶことは不可能であった。


 久遠の持つスキル『銀翼』は、ニル・ヴァーナの世界に於いて、誰もが、喉から、手が出るほど欲しい、極めて特殊なスキル。


 その保有スキル確率も、ニル・ヴァーナの世界の仕様に抗うこともあり、何年とゲームをプレイしても、確実に手に入る保証がない、激レアなスキルであった。

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