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夜のひととき

夜、寝る前にテーブルで家計簿をつけているジゼルの前にことりとマグカップが置かれた。

マグカップからはほわほわと温かそうな湯気が上がっている。


ジゼルはマグカップを置いた相手、クロードの方へ顔を向け訊ねた。


「これはなに?なんかええ香りがする」


クロードは自分もマグカップを持って、寝床にしているソファーに腰掛けながら答えた。


「ホットミルクにラムを入れたものだよ。体が温まってよく眠れる」


それを聞き、ジゼルはマグカップを手に取りラム入りのホットミルクを口に含んだ。


ほんのりと香るラム酒がミルクの風味と相まってなんともまろやかな味わいだ。


「美味しい……ありがとう」


「どういたしまして」


「…………」



───誰かに温かい飲み物を作ってもろたなんて初めてや……。


うんと幼い頃、両親が生きていた頃ならあったのかもしれない。

だけど叔父の家に引き取られてからは絶対になかった。


体の内側からじんわりと温まるこの感じは、単にホットミルクを飲んだからだと思いたい。


その感情を誤魔化すかのようにジゼルはクロードに訊ねた。


「クロードも同じもの飲んでるん?」


彼はマグカップを軽く掲げ、含み笑いをする。


「俺のはラム酒入りホットミルクというよりはミルク入りラムかな」


「さよか」


酒に強いクロードならそうだろうなと、ジゼルは家計簿に目を通しながらホットミルクをゆっくりと飲んだ。

その様子をクロードが優しい眼差しで見ていた事にジゼルは気づかない。


やがてホットミルクも飲み終わり、いつものようにソファーで横になるクロードにジゼルは言った。


「……毎日ソファーで寝てしんどないん?向こうの家で寝たらええのに……」


「俺の体調を心配してくれてる?」


「そりゃあ、まぁ。こんなん続けとったら……」


「言っただろ?俺はどこでも寝られると。それにジゼルと一緒でないならあの家に帰るつもりはない」


「そんな意固地にならんでも……体が資本の仕事やろ?」


「そんなに心配してくれるなら、寝室に入れてくれてもいいんだぞ?」


「なっ……それとこれとは話が別!っおやすみ!」


頬が熱を帯びるのを感じ取ったジゼルはくるりと背を向け寝室へと向かった。


「はは、おやすみジゼル」


というクロードの声を背中で受けながら。



「おはようございます」


「おやすみなさい」



叔父の家に住んでいた頃はジゼルからその挨拶をするのは当たり前で、だけどそれと同じ言葉がジゼルにかけられる事はなかった。


ジゼルが「おはよう」「おやすみ」と言えばクロードは当たり前にその言葉を返してくれる。



───ホントもうやめてほしい。


早く、早くアイリスと出会えばいいのに。


その気持ちが本心なのかどうか、自分の心なのによく分からないジゼルは頭から布団を被ってぎゅっと目を閉じた。




◇◇◇




明くる朝、ジゼルは食堂の店主のお使いで王宮近くの荒物屋に来ていた。

この店は調理器具の販売だけでなく修理も請け負っている。

修理に出していた鍋を受け取り、代金を払った。

そしてその鍋を抱えて食堂へと戻るべく城門の外壁に沿って歩いてゆく。


───鍋の取っ手が取れて()()()()大変!その()()()()()()()なんちゃって。



我ながら今日も冴えてると思いながら歩くジゼルの目の前に、ちょうど王宮の使用人勝手口から人が出て来た。



なんの気なしにその人物に目をやったジゼルが思わず息を呑む。


自分でも驚くほど体が硬直するのを感じた。


王宮から出てきた人物もジゼルに気付き、ニヤリと笑う。


「ようジゼル、久しぶりだな」


「………ゲランさん……」



ジゼルにとってはもう会いたくない人間の一人、叔父の家で十年以上虐められ続けた従兄のゲランがジゼルの行く手を遮るように立っていた。





───────────────────────



次回、ジゼルのトラウマ発動?


明日の朝も更新あります。




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