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挿話 クロード=ギルマンの妻

おはようございます。

「へ~、キミがクロード=ギルマンの妻かぁ。ラッキーだったよね。一介の平民騎士と結婚したはずが今や騎士爵様だ!……なのにどうしてキミは下町の食堂で働いてるの?」


「……ご注文は?」




「うわっ実在したのかクロード=ギルマンの妻!!奴は長いこと地方にいたし、てっきりデマかと思っていたぞ!!」


「声がデカい。他のお客様の迷惑になりますから食事せぇへんのやったらとっとと帰らんかゴラでございます」





「クロードの奴が結婚したというのは本当だったんだな……道理でこの頃呑みに誘ってもさっさと帰るわけだ」


「……王宮騎士って暇なんですか?毎日毎日取っかえ引っかえやって来てはクロード=ギルマンの妻やと物珍しそうに見物して……」





ここ数日、食堂で働くジゼルの元にクロード=ギルマンの妻が食堂で働いていると聞きつけた騎士団関係者たちが続々と訪れていた。


クロードは一番位の低い騎士爵を得ただけあってかなり注目を集めているらしく、既知の者から全く面識のない者までジゼルを見てはあーだこーだと言いながら食事をして帰ってゆくのであった。

(食堂の売上には貢献しているが)



中には明らかにクロードに懸想している女性もいて、


「どうせ真面目で硬派なギルマン卿を色仕掛けで落としたんでしょ!卑怯よ!」だとか、「私は彼の同期でずっと彼を見てきた。ぽっと出の女なんかに彼の素晴らしさが分かるわけない」とか絡んでくる女性騎士もいた。

が、口から生まれたと称された浪速花子の記憶を持つジゼルの敵ではない。


「クロードはウチの前では飄々とした食えん男やけどねぇ?あの人が真面目で硬派って、それは表面的な付き合いしかしてもうてへんからとちゃいます?」


「クロードの素晴らしさ?ごめんやけど興味ないわ。どーしても聞いて欲しいんやったら聞いたげるけど、その代わり営業妨害になるから食堂のメニュー全部注文してな?」


などと適当に言って蹴散らす。

そんな事、浪速花子にとっては朝メシ前も同然であった。


───もっと早うに前世の記憶を取り戻しとったら叔父の家でも違う暮らしをしとったんかな……。




そしてそんな事を考えるジゼルの元に、またまた騎士団から珍客が訪れた。


どうやらその人物が食堂を訪れた理由は、他の物見遊山な者たちとは違うようだ。


食堂に入るなりその(いわお)のような男はジゼルに頭を下げ、そして謝罪の言葉を告げてきた。


クロードよりも上背があり体格も更にゴツい男の後頭部を眺めさせられて、ジゼルは嫌というほどの既視感を感じながらその人物に言う。


「もう謝罪はようわかりましたから頭を上げてくださいサブーロフ卿……!」


ジゼルにそう言われ、ゆっくりと頭を上げたその人物、彼の名はアドリアン=サブーロフ子爵。


夫クロードの直属の上官で、結婚式直後の第二王子の護衛、そしてその後極秘任務と計七ヶ月間帰ってこなかった任務の命を下した人である。

まぁ極秘任務の方は第二王子ジェラルミンの直命だそうだが。


そのサブーロフ卿がわざわざ部下の妻であるジゼルに直接詫びを入れに来たのである。



「次の玉座を賭けた、いわば国の存亡に関わる状況となり、ギルマンには無理を言って働いて貰った。そのおかげで事態は早々に収束、火種を元から鎮火する事も出来たのだがそれにより貴女には婚家を飛び出すほど辛い思いをさせてしまったと聞いた……本当に申し訳なかったっ!」


婚家を飛び出したのは前世の記憶が蘇ったからですぅ~とは言えないジゼル。

とりあえずこれ以上食堂で騒ぎ立てて欲しくないのでジゼルはサブーロフに告げた。


「確かに結婚式を挙げて早々に夫に放置されたような状況のせいで色々ありましたがもう過ぎた事です。ほんまに気にせんといてください」


「いや、使用人に虐められたせいで言葉も性格も変わったと聞いた!あんなにおどおど怯えてばかりいたウサギであったというのに……」


「また出たよウサギ」


「は?」


「いえ、なんでも。それよりもうホントにええですから」


「いや、女性の“もういい”は本当はちっとも良くないのだと身に染みてわかった……!私は自業自得だが、この上ギルマンまで新婚早々妻に見捨てられるなど寝覚めが悪くて堪らんのだ!頼む!どうかこの通りだ、奴を許してやってくれ!どうかずっとクロード=ギルマンの妻でいてやってくれ!」


そう言ってサブーロフ卿はまた頭を下げた。

その際に軽く風圧を感じるほどに勢いよく。


「ちょっ…もう……」


食堂の中でこんな騒ぎとなれば当然皆の注目の的になる。

店主や常連客から例のごとく野次が飛んできた。


「なんだいジゼルちゃん!今度は騎士団のお偉いさんに頭下げさせてんのかいっ?いよっ、さすがは下町の女豹!」


「王国最恐の女!!」


「………も~ほんま勘弁して」


ジゼルは白目になってそう呟いた。







夜、仕事から帰ったクロードにサブーロフ卿に謝罪された旨を伝える。

するとクロードは肩を竦めた。


「やっぱりジゼルの所にも来たか……」


「やはり?」



アドリアン=サブーロフ卿。

彼は騎士団随一の生真面目仕事人間で、長年家族よりも仕事を優先してきたためにとうとう奥方に家から追い出されたそうな。


家に帰れる条件はただ一つ。


今回の任務で無理させた部下たちの家族への謝罪行脚をする事らしい………。




───────────────────────



サブーロフことサブちゃん、奥さんに許して貰えたのかしら……


誤字脱字報告、いつもありがとうございます!

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