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【書籍&コミカライズ進行中】わかっていますよ旦那さま。 どうせ「愛する人ができた」と言うんでしょ?  作者: キムラましゅろう


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30/30

刊行御礼SS クロード、サブーロフ、浮気疑惑?

なんてこったい!

予約投稿の日にちを間違えてました!

お待ち頂いていた方、申し訳ないです!

今回の番外編は、10月10日に発売となりましたノベル版一巻の続きとなるお話です。


新キャラであるサブーロフ卿の奥様が出てきますよ(。・ω<。)⌒♡バチーン




────────────────────◇





よく晴れた日の昼下がり。


ジゼルとクロードが新しく住まいを移したタウンハウスにアドリアン・サブーロフ卿の妻、ミコラ夫人が訪っていた。


先日は夫婦で食事に来てくれたが、今日はミコラ夫人一人である。


ミコラが手土産に持参してくれた、近頃王都で人気の“ましゅろーおじさんのチーズケーキ”をお持たせにいただきながら、二人で会話に花を咲かせていた。


(このチーズケーキを売り出した人も絶対転生者やろ。しかも大阪人……まさか、ツーテンタワーを建てたビリー・ケーン氏!?って、そんなわけないか)


と思いながら美味しくチーズケーキを食すジゼルにミコラが言う。


「それでね、ここからが今日伺った本題なのだけど……」


と前置きを置いてから眉根を寄せてミコラは話し出した。


「近頃、旦那様(うちの人)の帰りが遅いのよ……」


「ん?ブラックな職場である騎士団ではいつもの事とちゃいます?」


「でも、今は大きな任務は抱えていないと、旦那様自身が言ったのよ?それなのに頻繁に帰りが遅いなんて……ねぇ、クロード様はどうなの?いつも通りにご帰宅される?」


ミコラにそう尋ねられ、ジゼルは「そういえば……」と思い至る。


「言われてみれば、ウチの旦那様もここんところ帰りが遅いですわ」


「やっぱり?その他に変わった事はない?何かいい香りがするとか」


「いい香り?」


「そう。うちの人が遅く帰宅した時は必ずいつもと違う香りがするの。そしてこざっぱりした顔で帰ってくるのよ」


「それは騎士団で鍛錬の後にシャワーを浴びて帰ってくるからとちゃいます?それで、シャワールームの石鹸が変わったとか……でも、ウチの旦那様もこの頃知らん香りを身にまとって帰ってくるな……」


「やっぱり……」


そこまでぽんぽんと会話をし、やがて互いにシンキングタイムに入った。

そしてジゼルがミコラに言う。


「……それって、……どーいうことです?」


考えてもさっぱりわからないジゼルがそう尋ねるとミコラは険しい表情で答えた。


「私は旦那様が《《騎士団御用達の店》》に出入りしているのでは……と怪しんでいるの」


「騎士団御用達の店?そんなんあるんですか?」


ジゼルがそう尋ねるも、ミコラは今自身が発言した言葉を狼狽えながら否定する。


「いえいえまさかそんな!うちの人もクロード様も《《そこ》》には用はないはずよっ……でも騎士は力が有り余ってる時は《《そういう所》》で発散するというし……!?」


ぶつくさとほぼ独り言のようにつぶやき、自問自答するミコラにジゼルが尚も尋ねる。


「そういう所ってどんなとこです?その騎士団御用達の店と同じとこですか?それって、何の店です?」


ミコラはわなわなと震えながらジゼルの方に顔を向け、そして答えた。


「……娼館よ……」


「ショウカン……はぁ……しょうかん、ショウカン、娼館っ!?」


ミコラの口から出た単語を、ジゼルは頭の中で何度か反芻して噛み砕くも、理解したくない答えに辿り着き、思わず大きな声を出した。

そんなジゼルを尻目にミコラが言う。


「考えたくないけどっ……だって、週に何度か帰りが遅くてっ……肌がツヤツヤしてっ……いい感じに上腕二頭筋と大臀筋がパンプアップされててっ……石鹸なような香水なようないい香りをまとって帰ってくるなんてっ……それしかないじゃないっ……?」


上腕二頭筋と大臀筋がパンプアップしてるかどうかはジゼルにはわからないが、確かに遅く帰宅したクロードにもその条件が当てはまるのだ。


「そんな、ま、まさかぁ~……」


サブーロフもそうだし、まさかクロードに限ってそんな。

あんなにわかりやすく、そして恥ずかしいくらいに妻Loveの二人が……。


「いやでもしかし、騎士はゼツリ○が多いと聞くし……生命の危機を感じるような危険な任務の後はドーパミンがブシャブシャ出て、セイリ○クが高まるって聞くし……」


今度はジゼルがブツクサと独り言のようにつぶやく。

それを聞き、ミコラはテーブルの上に突っ伏した。


「そうよねっ……やっぱり娼館通いを始めたんだわっ……!私があまりにも筋肉筋肉、筋トレ筋トレと言うからっ……!」


形よく結われたミコラの後ろ髪を眺めながら、ジゼルが宥める。


「で、でもまだそうと決まったわけではっ……」


自分自身にも言い聞かせるように、ジゼルは言葉を重ねる。


「そうや。これはまだ机上の空論、憶測でしかない。ちゃんと本人たちに確かめるしかないですよ……!」


「でも、娼館通いだなんて、本人たちが素直に認めるかしら……?」


「そこはもう、証拠を抑えるしかしゃあないですね」


「証拠?どうやって抑えるの……?」


「尾行や!仕事を終えて騎士団の詰め所から出てきた旦那たちを尾行するんです!」


「なるほど!娼館に入ろうとするところをとっ捕まえて余罪も白状させるのね!」


「白状させるだけでは気が済みません……あんなにネチネチネチネチと次の朝ベッドから起きられへん状態になるまで激重な愛をぶつけられて、それで満足でけんと外で盛るならいっそのこと去勢したるわ!!」


ジゼルが拳を高らかに突き上げてそう宣言すると、それに勢い付けられたミコラも立ち上がる。


「そうね!もうチョン切ってやりましょう!」


「去勢後は“クロ子”と“サブ子”って呼んでやりましょう!」


「ピンクのネグリジェを着せてやるわ!」


半ばヤケクソ感が半端ないジゼルとミコラ。


どこかの庭で飼われている犬が「キャイーン」と情けない声で遠吠えするのを聞きながら、二人は善は急げと馬車に乗り込み、夕刻の街をひた走る。


そしてちょうど、夜番のない騎士たちの仕事が終わる時間帯に騎士団の詰め所前へと到着した。


ジゼルとミコラは茂みの影に身を潜め、クロードとサブーロフが出て来るのを見張る。


(読者諸君、二人が一緒に出てくる可能性は低いのでは?などと考えてはいけない)


すると奇しくもクロードとサブーロフが仲良く連れ立って詰め所から出て来たではないか。


「「……!」」(ジゼル&ミコラ)


そして夫たちはそのまま一緒に歩き去って行く。

サブーロフ家の屋敷はともかく、ジゼルの家からは正反対の方角へと向かっているのだ。


(……これは、限りなく《《黒》》に近いんとちゃうか……《《クロ》》ードなだけに……って、アホくさっ)


「そんなボケかましてる場合やないわっ……ミコラ様、尾行を開始しますよ!」


「ええ!わかったわ!……な、なんだか隠密みたいでドキドキするわね!」


「も~ミコラ様ったら何を可愛いこと言うてはりますのん。さ、行きますよ」


そうしてジゼルとミコラは夫たちにバレないようにコソコソと後を追う。

夫の背中を見つめるミコラがぽつりとつぶやいた。


「それにしてもうちの旦那様、立派な広背筋だと思わない?はぁ……やっぱり彼のキュッと引き締まった大臀筋が好きっ……」


尾行をしながらため息をつくミコラにジゼルはコソコソ声で返した。


「尾行中に夫の後ろ姿でキュンキュンせんといてくださいよ」


「だって……あの雄々しい僧帽筋を見て?それにあの凛々しい頭板状筋っ……!」


「雄々しいとか凛々しいとかさっぱりわかりませんわー」


と、二人でコソコソと話をしながら尾行を続けるも、夫たちが繁華街のとある一角に足を踏み入れた途端に雑談をする気もなくなった。


なぜならその場所は、お姉様が付きっきりでお酌をしてくれる酒場や娼館が立ち並ぶ、王都のウッフン♡エリアであるからだ。


ジゼルとミコラは互いに顔を見合わせる。


やはり、夫たちの娼館通いは間違いないのだろうか。


ジゼルが「やはり真っ黒クロードかっ……」と毒()き、ミコラの瞳からは光が消える。

ミコラはショックのあまりその場にしゃがみ込んだ。

そして手で顔を覆い、大いに嘆く。


「酷いっ……!私という妻がありながらっ……あの屈強な足底筋たちで娼館の床を踏んでいたなんてっ……」


ジゼルはミコラの側にしゃがみ、打ち拉がれるミコラの背を摩りながらぼそりとつぶやいた。


「……ヒロインに惹かれて離婚、やなくてまさかの娼館通い発覚での離婚となるとはなぁ……原作者の岡田笑瑠先生もびっくりやで……」


その時、二人の頭上に大きな影が差す。


そして今は憎たらしくてたまらない、最愛の夫の声も頭上から降りてきた。


「さっきからコソコソと、ウチの可愛い奥さんは何をやっているのかな?」


クロードとサブーロフがジゼルたちの側に来て、二人を見下ろしてた。

可愛さ余って憎さ百倍。ジゼルは夫の顔を見て……


「チ、」


「えっ、いきなり舌打ち!?」


クロードが驚きながらも舌打ちしたジゼルに手を差し伸べる。

ジゼルはぷいっとその手を無視して自分で立ち上がった。

ミコラはサブーロフに手と腰をホールドされてすでに立ち上がっていた。

そしてミコラは泣きを入れながら夫に抗議する。


「酷いわ旦那様、私というものがありながら娼館通いだなんてっ……!」


その言葉にサブーロフは目を見開いて慌てて首を振った。


「娼館通いっ!?ご、誤解だ!」


否定するサブーロフにジゼルの言葉が噛み付く。


「こんな娼館が立ち並ぶ場所に足を運んどいて誤解もクソもあるかいな!でございますわよ!見苦しい言い訳なんか聞きたないわ!でございますよ!」


怒りのあまりに夫の上官にわけのわからない大阪弁と敬語のハイブリッドで捲し立てるジゼルに、クロードがいつもと変わらない調子で言う。


「もしかして俺たちが娼館に入るところを抑えようとチョロチョロしてた?」


「ちょっと!チョロチョロってなによ尾行や尾行!……え?もしかして気付かれてた?え?いつから?」


ジゼルがそう言い返すとクロードが吹き出す。


「ぷっ……もう最初から。ぺちゃくちゃお喋りしながら可愛らしく後ろからついて来て……いつ捕まえてやろうかと思ってたんだよ」


「さすがは騎士!いやそうやのうて!捕まえるって何やの!それはこっちのセリフやわ!浮気現場を抑えたで!現行犯逮捕や!」


「浮気なんかしてないよ」


「はぁ!?まさかっ……娼館通いは浮気には入らんとかクズ発言する気ぃ!?」


「それが誤解だとさっきから言ってるんじゃないか。だって娼館なんて一度も行ってないんだから」


「ウソばっかり!誤魔化されるもんか!」


「ウソじゃないさ。愛する妻がいるのにどうして娼婦(他の女)を抱かなきゃならないんだ」


クロードがそう言うとサブーロフもウンウンと頷く。

だけど当然、ショックを受けて荒んだジゼルの怒りは鎮まらない。


「じゃあ娼館に行くんやないんやったらどこに行く気ぃやってん!?用も無いのにこんな場所に来ぇへんやろ!言っとくけどウチは心の狭い女の子やからオネェチャンのいる酒場に行くだけでもアウトやからな!」


気が昂って声を荒らげるジゼルとは真逆に、至って冷静な声でクロードが答えた。


「経営破綻して潰れた娼館の跡地に出来た“マッスルサウナ”だよ」


「……ふぇ?」

「マッスル……」


思いがけない答えにジゼルは思わず素っ頓狂な声を出し、ミコラはマッスルというワードに反応した。


サブーロフが補足するようにミコラに言う。


「男性会員専用の、トレーニングジム付きのサウナなんだよ。ジムで鍛えてからサウナでさっぱりで、とても調うんだ」


「そ、そうだったのですね……そうですか……ジム付きのサウナ……だから帰宅時にいつもお肌がツヤツヤで筋肉がパンプアップされていたのですね……」


ミコラが言葉を重ねながら納得すると、サブーロフは安堵の表情を浮かべ、頷いた。


「わかってくれたか。そうだ、なかなか良い設備のジムなんだ」


「マッスルサウナ……お店の名前も素敵ですわね」


「キミ好みであることはわかっている。たが男性会員のみの店なのだ。それに立地も良くはない。だからキミが興味を示さないように黙ってたんだよ。ギルマンにも内密にして貰った」


「クロード様からジゼル様に、ジゼル様から私に、筒抜け伝言ゲームですものね」


「その伝言ゲームの途中で変に拗れて伝わるのを危惧して黙っていたのだが……それが帰って仇になったな。不安にさせてすまなかった」


「もういいんです。誤解だったのなら、もう……。そうですか……マッスルサウナ……きっと筋肉メンズがいっぱいいるのでしょうね」


と、ミコラが恍惚とした表情を浮かべた。

和解した途端に予想通りの反応を示すミコラにサブーロフは釘を刺す。


「女性の見学は不可だからな?」


「男装をすれば……筋肉が拝み放題」


「ダメだぞ?だから黙ってたんだからな?」


「そうですか……筋肉たちが集まるサウナですか……」


「ミコラ?本当にダメだからな?」


そんなサブーロフ夫妻の会話を尻目に、クロードがジゼルに言う。


「ジゼルの誤解も解けたかな?」


「……まぁ、理由はわかったけど……」


「最初はサブーロフ卿に勧められ、興味本位で通っていたんだが、次第にトレーニングの後のサウナの気持ちよさにやみつきになったんだよ」


「……へぇ……日中は騎士として訓練や厳しい仕事をこなし、その後にジムでさらにトレーニング……それやのにまだベッドであんなに……ヒッ……」


ジゼルはクロードの底なしの体力に(おのの)いた。

そして意を決してクロードに言う。


「クロード!これからはもっとジムで沢山トレーニングしてから帰って来てええよ!もうヘトヘトのクタクタに、フォークも持たれへんくらいに疲れるにまで体動かして、サウナで水分も絞り出してカラッカラになってから帰って来て!」


その言葉の真意というか魂胆に気付いたクロードが意地悪げな笑みを浮かべて言う。


「……でもきっと、俺はジゼルの顔を見た途端に疲れなんて吹き飛ぶぞ」


「いやいやいやいや……こんな顔如きでお疲れの旦那様を癒せるわけがございませんわよ」


「ジゼルの存在全てが俺の癒しだよ」


「いやいやいやいや……」


「お前たち、いちゃつくのは帰ってからにしろ」


いつも通り、あまり表情筋を動かすことなくそう言うサブーロフにクロードとジゼルの声が重なった。


「「それはこちらのセリフです」よ」




とにもかくにも、突発的に起こった旦那様たちの浮気疑惑は、なんてことない誤解が解けたという形で幕を閉じたのであった。



そしてその次の日の朝。


昨夜の誰かさんのせいで、やはりジゼルはベッドからなかなか起き上がれなかったのであった。




☆おしまい☆








お読みいただきありがとうございました!



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