発売前記念SS ・ プロテインたこ焼き、だと……?
今回の発売記念SSの時間軸は、
一度目の長期任務を終えてたクロードが一人暮らしするジゼルのアパートに転がり込んだ頃のお話です。
慰謝料をガッポリ踏んだくって離婚したいジゼルとそうはしたくないクロード。
そんな時期のふたりです。
──────────────────────◇
食い意地全開で異世界たこ焼きを完成させたジゼル。
(詳しくは、マッグガーデン様より発売のノベル版一巻参照♡)
長期任務を終えて戻ってきた夫クロードに食べさせたところ、
「なんだこれは?めちゃくちゃ旨いな!この小さな球体の中に入ってる具材はなんだ?シコシコと噛みごたえがあって、それに相反するカリカリトロトロの生地と不思議にマッチしている。それにこの上にかかっているソースはなんだ?甘いと塩っぱい、そしてスパイシーな香りとほのかな酸味がたまらないな」
と、グルメリポーターさながらの食レポ付きで大絶賛された。
ジゼルは「ふっふーーんっ♪」とドヤ顔になりながら得意げたこ焼きの説明をする。
「せやろ?めっちゃ美味しいやろ?たこ焼きはな、小麦粉を玉子と出汁で溶いた生地に蛸やコンニャク、天かすに紅生姜と青ネギ、あれこれ具材を入れて丸型の鉄板で焼くねん。それをこの中濃ソースベースでわざわざ手作りした、たこ焼きソースをかけて食べるんがまたたまらんのよ♡でもな、異世界にも蛸はおるけど食べる習慣がないから漁師も釣らんやろ?だから蛸に似た触感のドン茸を細かく切って入れてるねん。これが異世界たこ焼きの要やで。ドン茸~っ!」
「……お、おう」
「……」
人差し指を振りながら言った、前世に見たオネェ美容タレント渾身のギャグが不発に終わったジゼルは、それを誤魔化すために咳払いをする。
「……コホン、失礼。いつもは無口でお淑やかなウチも、前世からたこ焼きの話しになるとつい饒舌になってまうねん。ごめんな」
「無口……お淑やか……」
「なによ?」
「いや?人格が変わる前のジゼルなら無口でお淑やかというのも頷けたがな?」
「ふん、今はガサツや言いたいんやろ」
「いやいや。以前のキミも今のキミもどちらも魅力的だよ」
「やかましいわっ。さっさと離婚届にサインして慰謝料ガッポリ置いて出てって!」
隙あらば口説こうとするクロードに、ジゼルはそう言いながら肘で彼の腹部を軽く小突いた。
その途端に目をむいてジゼルが言う。
「硬ぁっ!お腹に鉄板でも仕込んでるんちゃうか」
「心外だな、俺は騎士だよ?自前の腹筋に決まってる」
自身の腹部を摩るクロードを、ジゼルはジト目で見遣る。
「騎士……脳筋集団か」
「これまた心外だ。俺は騎士団の中では頭脳派だぞ」
「でもあの上官を見た後じゃなぁ……頭脳派や言われても説得力に欠けるなぁ」
ジゼルは先日食堂に詫びを入れに来たクロードの直属の上官、アドリアン・サブーロフ卿を思い出していた。
身長百八十五センチを優に超える筋骨隆々とした厳のような男。
その部下であるクロードも、サブーロフほどではないにしても騎士らしく鍛え抜かれた鋼のような筋肉を纏っている。
ジゼルはボソリとひとり言ちた。
「やっぱり脳みそも筋肉で出来てるに違いない……」
「ん?何か言った?」
「いいえ?何も?」
ジゼルのつぶやきを聞き取れなかったクロードにそう訊かれるも、ジゼルは知らんぷりを装った。
が、やはり騎士団は脳筋集団であると確信する出来事がこの数日後に起こる。
ジゼルの勤める食堂で(異世界)たこ焼きを食べた騎士団の団員が、その美味しさを仲間たちに語って聞かせた。
すると瞬く間にその話が騎士団中に広まり、上の方の真ん中のところ(適当)のお偉いさん方の耳にも入るところとなったのだ。
そしてその食堂にジゼルが勤めていることを知る一部の騎士とサブーロフがクロードにたこ焼きの事を尋ねた。
「旨いと評判がいいらしいな。上層部のお歴々も食べてみたいと言っていたぞ。聞けばギルマン、お前の女房が考案者だと?」
「そうなんです。俺も食いましたが、アレは本当に旨いですよ」
「ほほぅ。……しかし主に小麦粉を用いていると聞く。炭水化物過多になるのはなぁ……」
たこ焼きに興味を示し、食べてみたいと思うサブーロフだが、自身のビキビキに割れた腹筋に触れながら困り顔をする。
その様子を見て、諸々を察したクロードが笑いを噛み殺して言った。
「太ったら、愛する奥さんがガッカリしますよね」
「我が妻は筋肉を愛でるのを生き甲斐にしているからなぁ。任務のために留守がちで苦労させてる分、筋肉くらいは満足させてやりたいじゃないか……」
サブーロフの妻は部類の筋肉好きである。
夫の筋肉を守るため、日々食事管理や鍛錬メニューのチェックに余念が無いらしい。
一度任務に当たれば家庭を顧みる暇もなく務めを果たすサブーロフだが、プライベートでは愛妻家だと知られている。
もちろんクロードもそれを承知していて、サブーロフに言う。
「でも確か……妻のジゼルの言うことには、中の具材として入れているドン茸は脂質ゼロでタンパク質が豊富なのだとか」
「何っ!?それは真かっ!?」
「らしいですよ。それに、妻いわく粉もんも食べ過ぎなければ大丈夫なんじゃないですか?」
「確かに……」
と、そんな話しを上官と部下の間でしたらしい。
それはいい、それまではいいのだが……
「は?プロテインたこ焼き……?」
帰宅したクロードが言い出したトンデモ発言にジゼルフリーズした。
「そうなんだ。サブーロフ卿や他の上層部の上官たちがたこ焼きを食べたいらしいんだ。ドン茸が筋肉にいいと聞き尚さら食べたくなっらしい。でもどうせなら、小麦粉をプロテインに置き換えて作ったら更に筋肉に良いのではないか、それならば騎士団の食堂のメニューに採用してもいいんじゃないかという話になって……」
それを聞き、ジゼルは呆れてものも言えなくなってしまうも、
「アホか。アホなんか?いやアホなんやな?いくらたこ焼きが粉もんゆーてもプロテインで代用できるわけないやろ……!」
とガッツリ物申した。
「ダメかぁ……?」
しょぼんとしてジゼルにお伺いをたてるクロードにジゼルの咆哮が飛び出す。
「アカンに決まっとるやろ!たこ焼きを冒涜する気かっ!」
「いいアイデアだと思ったんだけどなぁ……」
「ええわけあるかい!」
と、アイデアが浮かんだ時点で却下したから良かったものの、下手すればトンデモナイたこ焼きを作らされる羽目になったかもしれないと思うと、そら恐ろしくなるジゼルであった。
「恐るべし。やはり騎士団は脳筋集団やわ……」
おしまい
──────────────────────◇
お読み頂きありがとうございました!
10月10日にマッグガーデン様より、
紙、電子それぞれの書籍が発売となります。
投稿していた時と大幅に構想と展開を変え、新たな加筆もてんこ盛りでお届けします。
「合言葉は筋肉!」で担当編集者さん作り上げた渾身の一冊となっておりますよ。
なんといってもイラストと手掛けてくださった花宮かなめ先生のクロードとサブーロフがひたすらカッコイイんです!
推せる…作者だけど推せる…!
表紙に加え、挿絵はもちろん口絵もカラーでいついているというお得仕様ですので、もしよろしければお手にとってみてくださいませ。
ノベル版に加え、コミカライズも進行中です。
発売後にまた、アルファポリスと小説家になろうで記念SSアップしますね。
よろしくお願いいたしマッスルᕙ( ˙꒳˙ )ᕗ