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変わらぬ想い

「ジゼル……」



クロードの上官であるサブーロフ卿に連れてこられた王城で、三ヶ月ぶりに夫と再会したジゼル。


てっきり別れを告げられるのだと思いきや、突然腕の中に閉じ込められたのだ。


そして少しの隙間も許さないといわんばかりにぎゅうっと力強く抱きしめられる。

だけど瞼や頬、こめかみや首すじに受けるキスは優しくて。


まるでまだクロードの一番は自分であるかのように錯覚してしまいそうになる。

ジゼルは身動(みじろ)いでクロードの硬い胸を押した。


「ちょっ……クロードっ……お城でこんなことっ……王女様に見られたらどないするんっ?」


「どうするって、どうもしない。それになぜアイリス殿下が?」


「だって……」


‘’彼女のことを好きになったんやろ?”


なぜかその言葉が口から出てこない。

とうに諦めたつもりだったが、心がまだそれを認めたくないのだ。


そんなことを思い俯くジゼルの額にクロードがまた口づけを落とした。


「ちょっと!」


「無理だ、やめられない。ようやくジゼルに会えたというのに、触れることもできずにただ行儀よく話をするだけなんて無理だ」


「なにサラっと恥ずかしいこと言ぅてんの!」


「ジゼル、会いたかった」


そう言ってクロードはまたジゼルを抱き寄せた。


「ちょ、まっ、クロードっ……


しかし抗議するジゼルの声はクロードからの口づけで封じられてしまう。


ここが王城であるにも関わらず、クロードは深く、熱の篭った口づけでジゼルを翻弄する。


寂しさと悲しさとそこから生じた怒りでぐちゃぐちゃになり、そしてちょっと疲れてしまっていたジゼルの心は情けなくも簡単に解され溶かされてしまった。


足に力が入らずぐったりとしたジゼルを膝に抱えたままクロードはソファーに座る。


そしてこの三ヶ月間で起きたことを話せる部分だけ掻い摘んで話してくれた。


話を聞き終わったジゼルは慌てて夫の顔を覗き込み、異常がないかを確かめた。


「もう大丈夫なのっ?低魔力障害なんて命を落としかねない危険な症状じゃないのっ……どうりで少し痩せて目の下に隈があると思ったのよっ、食事はちゃんと食べれてるのっ?」


ジゼルの方が魔力障害を起こしたかのような顔色をしてそう訊ねると、クロードは小さく笑って答えた。


「俺はもう大丈夫だよ。こうしてジゼルが側にいてくれるなら何も不安に感じることはない。それよりもこの三ヶ月間、キミに会えない方がどれだけ辛かったか……家に帰れなくてごめん、連絡も取れなくてごめん、こんな夫で……ホントごめん」


辛そうに謝るクロードを見て、ジゼルは思った。


任務で家庭を顧みない状態になっているのを心苦しく感じているらしい。

結婚当初に加えて今回で二度目だから当たり前といえば当たり前だが……。


そんなクロードを見て、ジゼルは責めるよりも伝えたい言葉を口にした。


「ぬいぐるみ……ありがとう。嬉しかった」


週一で届けられたあの羊のぬいぐるみが唯一、クロードとの繋がりであった。

あれがなければもっと不安で辛い日々を過ごしていたと思う。


「夜眠るときに寂しくなければいいと思ったんだ……羊を数えるキミに、俺の代わりに寄り添ってくれればいいと」


最初はぬいぐるみには必ず手書きのカードが添えられていた。

クロードはずっと昏睡状態にあったという。


「……途中からカードが添えられなくなったのは意識を失っていたから?」


ジゼルがそう訊ねるとクロードは頷いた。


「だがサブーロフ卿の配慮でぬいぐるみだけは届けて貰っていたと聞いたよ。ごめんなジゼル」


ジゼルは小さくため息を吐いた。

カードが添えられなくなったのはクロードの心変わりのせいだと思っていたから。

原作通りにアイリスに惹かれたクロードから、ジゼルに伝えたい言葉が失われたのだと……。


でもそうではなかったと知って、体と心の強ばりが解けてゆく。


……それなら、


ジゼルはクロードの両頬に手を当て、真っ直ぐにその瞳を見た。



「クロード、怒らんから正直に答えて。アイリス王女殿下に惹かれた?警護で側にいるうちに好きになってしもうた?そのためにウチと別れたいと思ってる?」


ジゼルの言葉をぽかんとして聞いていたクロードだが、やがてその言葉の意味を理解して慌てて首を振った。


「なっ?そんなわけないだろっ?俺がキミ以外の女性に?しかもアイリス殿下に?ありえないっ」


「ありえない……」


「そう、ありえない。はっきり言って俺はジゼル以外はどうでもいいとさえ思っている」


「どうでもいい……」


一心にジゼルを見つめるクロードの目には迷いも後ろめたさも何も感じられなかった。


嘘を吐いていないと。

アイリスではなく今でもジゼルを愛してくれているのだとわかる、信じられる、そんな眼差しをしていた。


「でも……」


でもどうしても、ジゼルの中で引っかかりが残っている。


あの中庭の東屋でアイリス王女に向けていたあの優しげな眼差し。


あれはただの臣下としての敬愛だけのものではなかったと思う。


ここで蟠りを残したくなかった。

ジゼルが正直にそれを訊ねると、クロードは少し気不味そうに、いや照れくさそうに答えてくれた。


「あの時は……東屋では終始、キミのことを両殿下に訊ねられていたんだ。とくにアイリス殿下がジゼルのことを聞きたがって……」


「それって……」


「俺の表情が柔らかなものだったのなら、それはジゼルのことを思い浮かべながら話していたからだと思う」


「っ………!」


思っていた以上に嬉しい、そして恥ずかしい答えが返ってきて、ジゼルは思わず赤面して俯いてしまった。



すごい、なぜここまで原作と展開が変わった?


クロードはアイリスに惹かれなかった。

変わらず妻を、ジゼルを愛してくれていた。


ジゼルがもしやと望んだ結末だが、あまりにもストーリーが変わったことへの驚きが大きい。



───やはりクロード自身の性格が原作と全然違うから……?



ふいにクロードがジゼルをソファーの上に下ろした。

そしていつもクロードが持ち歩いている手帳を取り出す。


「クロード?」


「今のやり取りでなぜか思い出したよ、危うくまた忘れてしまうところだった。じつは生前の母から将来のお嫁さんに宛てた手紙を預かっているんだ。それをちゃんと渡さないと、また母さんに叱られる」


「えぇ?手紙……?」


「もう十年以上前に渡されて、失くしてはいけないと手帳に挟んで持ち歩いていたんだ。保護魔法を掛けてあるから手紙は当時と変わらず綺麗なままだよ」


そう言ってクロードは一通の手紙をジゼルに手渡した。


ジゼルは手紙を受け取り、封筒の宛先に目を落とす。


そこには、


『クロードのお嫁さんへ』


と美しい流暢な大陸公用語でそう書かれていた。





───────────────────────




次回、手紙の内容とクロード母の正体が明らかに。


そしてアイリスには大どんでん返しが?

(あ、それは次話以降です☆)



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