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【書籍&コミカライズ進行中】わかっていますよ旦那さま。 どうせ「愛する人ができた」と言うんでしょ?  作者: キムラましゅろう


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瞼の母

『クロード、クロード起きなさい』



───なんだ?……すごく眠たいんだ……

もう少し寝かせてくれ



『それは低魔力障害を起こしているからよ。でもここはあなたの心理の中、起きられるはずよ』



───一体誰だよ……心理の中?何を言ってる……?

頭がおかしい奴なのか……?



『誰が頭がおかしいですって!?この親不孝ものっ!』


───()っ!!頭を殴るなよっ!……っえっ?母さん!?


『やっとわかったのね。久しぶりねクロード』


───母さんっ……どうして?十年前に死んだはずじゃ……


『ええ、死んだわよ。だから言ってるじゃない、ここは心理の中だって』


───心理の中なら死者と話ができるのか……?


『うーん、死者と話をしているのではなくて、今あなたは生前私があなたの中に残した魔力残滓と会話をしてる、という方がわかりやすいかしら?』


───魔力残滓?マーキングか?いつのまに?


『いやね、あなたたち助平と一緒にしないで。それにマーキングとは少し違うわね。なんというか私は母親よ。最も魔力を込めたものをあなたに与え続けることができたわ』


───母乳か


『正解。魔力残滓どころかあなたの身体を作ったそのものとして、私は今もなお息子の中で生き続けているようなものね。魔力だけだけど』


───母さん………


『あ、ずっと一緒に居てくれたのかと胸アツになった?母の愛の偉大さを感じた?』


───はは。そういうところもホント変わらないな。


『ふふ。当たり前よ。私はあなたの母になった瞬間から、あなたのために人生を生きたのだから』


───それなら、もっと長生きして欲しかったよ。まだ何の恩返しもできていなかったのに……。


『恩返しはあなたが幸せな人生を全うしてくれる、それでいいわ』


───母さん………


『クロード。死ぬ直前に託した、あなたのお嫁さんに渡して欲しいという手紙はもう渡してくれた?』


───ごめん、まだなんだ。忙しくてつい……っ(いて)ぇなっ、頭ばっかり殴るなよっ


『殴りたくもなるわよっ!さっさと渡して頂戴よ!』


───でも母さん、なんで将来の嫁に手紙を?俺が結婚するなんて、そんなのわからなかっただろう?


『わかっていたわ。あなたが結婚することは』


───え?


『若くて可愛い、健気なお嫁さんをもらう。それがわかっていたから、そのお嫁さんと離婚することなく死がふたりを分かつまで幸せに添い遂げて欲しいと願ったの。そしてそのために私は、あなたの人格形成に心血をそそいだのよ?』


───そんな、なんのために?


『それがあなたの幸せだと思ったからよ。逆ハーの一人で終わる人生より、たった一人の伴侶と生きていく。そんな人生を送ってほしかったから……どう?クロード、あなたは今、幸せ?』


───母さんが何を言いたいのかさっぱりわからないけど……ああ、とても幸せだよ。ジゼルという可愛い妻と幸せに暮らしてる。母さんにも会ってもらいたかった……


『ふふふ。ね?今のあなたの幸せは、あなたの性格が()()とは違ったからよ』


───ん?それはどういう意味?


『表情筋が仕事しない、無口で無骨で生真面目すぎる男……あなたの場合はそれでは幸せになれない。あなたの母になったとわかった時から、性格の改変は私の至上命題になったの』


───?ごめん、ますますわからない。


『あなたはわからなくていいの。だから手紙をお嫁さんに渡してって言ったのよ。さぁ、さっさと起きて早く渡して頂戴!』


───いやでもごめん母さん、俺は魔力をほとんど失ってしまったんだろ?輸力か魔力回復を待つしかないじゃないか。


『それなら今、それを同時に行えばいいわ』


───それってどういう意味だ?


『あなたは今、(なに)と話していると言ったかしら?』


───それは俺の中に残っている母さんの魔力と……まさか。


『そう、そのまさかよ。あなたの中に眠っている私の魔力を全部使いなさい。そうすれば簡単に魔力は回復するわ』


───でもそれじゃあ()()母さんが消えてしまうんじゃ……


『魔力としての私はあなたに取り込まれて消えるけどゼロになるわけじゃないし、それに記憶の中の私は消えないわ。ずっと忘れずにいてくれるのでしょう?』


───当たり前だよっ……


『じゃあいいじゃない。さっさと目を覚まして可愛い奥さんに会いに行かなきゃ』


───母さん……


『……愛してるわクロード。あなたの母親になったのは青天の霹靂だったけど、本当に幸せだったわ』


───母さんっ……


『ジゼルさんと仲良くね。そして可愛い孫の二、三人引き連れてお墓参りに来て頂戴』


───わかった、必ず行くよ。


『可愛い子供を抱ける人生を歩めるのも私のおかげなんだからね?墓前に花束くらい持って来なさいよ?』


───わかってるよ。


『ふふ、ならいいわ。大好きよクロード。幸せに、幸せになってね』


───母さんっ……!


『お嫁さんへの手紙にも書いたけど、最初の子供には“エミル”という名を付けたら素敵じゃないかしら?』


───え?エミル………?


『ふふ。ジゼルさんならそれでわかるわ。それじゃあねクロード』


───あ、待って、待ってくれ母さんっ


『………ね、』


───母さんっ!母さんっ!




「母さんっ!!」




消えてゆく母を追いかけて手を伸ばし叫んだクロードが、

自ら発した声に驚き目を覚ました。



「ギルマンっ!?」



丁度側にいた上官のサブーロフ卿が目を見開いてクロードの名を読んだ。


「ゆ、夢っ……!?い、いや、……いや?」


十年ぶりに会えた母親。

あれは夢だったのかそれとも心理の中で起きた現実だったのか……

まさに瞼の母との再会に、クロードの心に温かさが灯る。


体の奥底から馴染みのある魔力が泉のように溢れ出してくるのがわかる。


「ありがとう、母さん……」



こうしてクロードは魔力欠乏症の危機を脱し、

意識を取り戻すことが出来たのであった。





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