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思い出した!…ほなさいなら

大変です。

お伝えし忘れていましたが、作者は元サヤハピエン作家です。

何がなんでも元サヤに持っていきますので、元サヤはちょっと…という方はこのまま回れ右をお勧めいたします。






虐げられていた下男に足を引っ掛けられ転倒した際に頭を打ったジゼル。


その瞬間に様々な記憶が頭の中に流れ込んでくる。

いや、記憶の蓋が開いて中から飛び出してきた、という方が正しいのかもしれない。


そびえ立つ通○閣、鉄板の上で香ばしく焼き上げられるお好み焼き、二度漬け禁止という張り紙を見ながらじっくりソースの海に沈める串カツ、「ヒョウ柄ちゃうで!これはレオパ柄って言うんや!」と全身ピンクのヒョウ柄の服を着てそう豪語する近所のおばぁちゃん、近所のモータープールの看板、冷コーにフレッシュ、茶ァしばきに行こか~………


それら全てがジゼルの頭の中で溢れ、そしてジゼルは思い出す。

かつての自分が生きていた世界を。

今生きている世界とは異なる世界の日本という国の大阪という街で暮らしていた自分を。


そして四十代という若さで病によりその人生に別れを告げ、今はこうしてかつて異世界と呼んだ世界に生まれ変わっている事を理解する。


───ちょい待ち?これはよくラノベで読んだ憑依した、とかとはちゃうよな?

どっちか言うたら今のジゼルとしての記憶の方が生々しいし……という事はこれって生まれ変わり?異世界転生って奴!?

大阪のオバチャンやったウチが今世は異世界で生まれ変わったっちゅー事!?


などとジゼルがすぐにこの考えに至るのには訳があった。


前世のジゼル、本名浪速花子は大のラノベ好きで数多の異世界転生ものの物語を網羅し尽くすほどのラノベオタクだったのである。


今、ジゼルが陥っている事態こそ、前世の浪速花子時代に散々読み散らかした異世界転生もののシチュ、そのものなのだ。


───え?え?マジ?え?ホンマ?ホンマにウチって転生したん?

え?でも転生ゆーたら普通は公爵令嬢とか男爵令嬢とか聖女サマとかそこら辺やんな?

なんでまたこんな騎士の妻なんて超モブポジションに転生したん?

ん……?ちょい待ち?騎士を夫に持つ超モブの妻?なんか記憶にあるな、かつて読んだ、というか天に召される前、最期に読んだラノベの中でそんな奴おらんかったか?確かえっと……


「奥様?下手な芝居はやめてくださいよっ」


転倒してそのまま蹲り動かなくなったジゼルに下男が声を掛けてきた。


───うるさいなぁ。今大事なコト思い出そうとしてるねん、ちょっと黙ってて!

そうや……確か、ドアマットヒロインが最後は逆ハーでウハウハする話の中で、そのヒロインに恋した夫に別れてくれと捨てられる妻がおったな……


「奥様、どうせ大して痛くないんでしょう?」



───そう、名前すら出てけぇへん超モブの妻。そして確か、騎士である旦那の名前は……



「そうやっ!クロード=ギルマン!騎士の名前はクロードやっ!っていうかウチはその超モブ妻に転生してもーたんかっ!?」


いきなりガバリと立ち上がってそう叫んだジゼルを、下男は目を丸くして見た。

そして当然の如くジゼルを責めるように言う。


「ちょっと!……何なんですっ?頭をぶつけたようですがおかしくなったんですかっ?そんな、大袈裟なんですよっ!」


突然蘇った前世の記憶でいっぱいいっぱいになっているジゼルに足を引っ掛けた当の本人の下男が言った。


「……は?大袈裟……?」


下男の言葉に瞬きを繰り返すジゼルを見て、大した怪我はしていないとわかった下男が安堵しながら再び不遜な態度で言った。


()()()()()()()()()()()怪我でもされちゃあ、私どもが迷惑するんですよ。ったくのろまな上に鈍くさいなどと、ホント使えない奥様ですねぇ」


嫌味たっぷりにそう口にした下男。

そして黙って聞いていたジゼルを嘲笑し、「気をつけてくださいよ」と言い残しその場を去ろうとした。


しかしその時、背を向けた下男に向かってジゼルがぽつりと告げる。


「…………ちょい待ち、」


「はぁ?」


これまた使用人にあるまじき不遜極まりない態度で振り向いた下男目掛けて、ジゼルは洗濯カゴを投げつけた。


「ぶへっ」


カゴは見事に顔面に当たり、下男は顔を押さえて後ずさる。

それを許さないとばかりにジゼルは下男の胸ぐらを掴み上げた。

ジゼルよりも背の低い小柄な下男が引き上げられる形になる。


そして下男の眼前には眉間に深い皺を寄せ、目の据わったジゼルの顔があった。


「お、奥…様……?」


「なに人が勝手に転んだみたいにゆーとるねん。あんたが足を引っ掛けたから転んだんやろ?」


今までジゼルから聞いた事もないようなドスの利いた低い声で言われ、下男は理解が追いつかないようだ。


「へ?……は?わ、私が?い、言いがかりなんてやめてもらえませんか…っぐえっ」


尚もしらを切る下男の胸ぐらをジゼルは更に締め上げた。


「何が言いがかりやねん。あんたに足を引っ掛けられて転んだんは間違いないんや」


「お、奥様っ?き、急にど、どうされたんですっ?とにかく私は何もしてませんよっ、ただ奥様の横を通りかかっただけですっ……」


「そんなら何か?あんたの足が長ぉてウチの足元まで伸びてきたんか?んなわけないやろっ!盆飾りの茄子の牛みたいな体型しよってからに!そんな申し訳なさそう程度の足の長さで届くかボケっ!」


「ヒ、ヒィッ……!?」


「お、奥様っ!?なにしてるんですっ?」


ギリギリと胸ぐらを締め上げるジゼルに慄く下男の様子を見て、下男の妻であるキッチンメイドが金切り声をあげた。


ジゼルは下男の妻に射殺さんとばかりの目線を向け、言い放つ。


「やかましいわこの性悪女がっ!今までよくもネチネチと虐め倒してくれよったなっ!しかもウチよりもええもん作って勝手に食いよって!食べ物の恨みの分、あんたはこのカスよりも重罪じゃタコっ!!」


ジゼルはそう言うと、下男を妻の方へと力いっぱい押し出した。

下男はバランスを崩し、妻にぶつかり二人一緒に倒れ込む。


「きゃあっ」「うわっ」


そんな二人にジゼルは(にじ)り寄る。

そのただならぬ雰囲気と、今まで気弱でおどおどしていたジゼルの変貌ぶりに下男夫婦はたじろぐばかりであった。


「お、奥様っ……?性格がっ…それにその話し方っ、ま、まるで別人だっ……」


「せやなぁ……誰かさんのおかげで頭しこたまぶつけてええ事思い出せたわ、ホンマおおきになぁ?そうか~……ウチは超モブ妻かいな……そら旦那さまが帰って来ぇへんのも納得やな~……ん?ちょい待ち?どうせこのまま待ってても捨てられるだけなんやろ?せやったらもうこんなクソカス共と一緒に暮らすよりもさっさと出て行った方がええんとちゃう?」


「え?出、出て行くっ……?」


「そうやん!なんでウチが大人しぃ待ってなあかんの?捨てられる前にこっちから捨てたったらええねん!そうやそうや!出て行こ!そうしよっ!」


「は?ええっ?奥様っ?」


繰り返される不穏な発言に狼狽える下男夫婦を、ジゼルは()めつけた。


「“奥様”なんてゴマ粒ほども思ってへんくせによぉ言うわ。良かったな?平凡で教養のない、のろまで鈍くさい嫁は出て行ったるわ。そんでもって任地から旦那さまが戻って来たら三人で祝杯でもあげたらええわ」


「な、何をっ……で、出ていくなんていけません!」


主人の留守中に曲りなりにも妻という人間を出て行かせるなどと余程体裁が悪いのだろう。

狼狽え続ける下男夫婦にジゼルはしたり顔で微笑んだ。


「あ、そうそう。転ばされた礼がまだやったなぁ?」


「え?な、何を……一体何をするつもりですっ……?」


ジゼルは笑みを浮かべたまま、引っ掛けられた方の足を引き………


「さぁ?ナニをするつもりやろ…なっ!」


そして下男の股間を思いっきり蹴りあげた。

(それでも本人いわく手加減したらしい)


「オゴアッ……!」


「キャーーっ!あ、あんたーーっ!」


泡を吹いて蹲る下男を見て妻が悲鳴をあげた。


「あースッキリした!ほな、さいなら」



ジゼルは二人にそう告げると自室に戻り、


婚約の記念として夫クロードから贈られた指輪やネックレス、

そしてクロードに用意して貰っていたワンピースドレスなど、トランクに詰め込めるだけ詰め込んだ。


そして結婚後、初夜でしか一緒にすごさなかった家を飛び出したのであった。










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