おかしなトリオがやって来た
「よぉ〜、箱入り兄ちゃん。お外に出るのはキケンでちゅよ〜」
「プッ──ちょ、アニキィ。笑かさないでくださいよぉ」
「そーッス! キケンッス! アニキは箱ん中で──メシまだッスか?」
なんだこいつら? 勝手にヒトのシマに入ってきやがって!
「ふ〜ん。面構えはいいけどよ、あんな簡単に罠にかかってるようじゃあ、どーだかねぇ」
「ちょ、アニキがそれいいます? あとでヤバくないですか」
「そーッス! かかったらヤバいッス──へっ? アニキ、熱あるんスか!」
ハァ、何だこりゃ? 相手したくねー。こっちは疲れてんのによ!
「なんだぁ、お前ら。ここは俺のシマだぞ。断りもなしに入ってくんじゃねぇ!」
「おお、こっわ。オレたちはちょっと」「道に迷っただけとか通用しねぇからな?それとも何か? ここを奪うにもひとりじゃ怖いから、仲良しこよしで乗り込んできたってか? 臆病な卑怯者集団め!」
「おっとぉ、怒らせちまったかな?」
「アニキのせいですからね」
「ひきょー者じゃないッス! おいらの名前は……なんスか?」
はぁ? こいつだけなんか毛色が違うんだよなぁ。調子狂うからやめてくれ。
「まあまあ、そうカッカッすんなよ。オレらはちょいと挨拶に来ただけだからさ」
「そう仕向けたのはお前らだろうが!」
「悪かったって。ついよぉ……すずのいたずらにまんまと引っかかってるお前を見てたらさ」「アニキは引っかかりまくりだったッス!」「うるせー、コッポ! 余計なことを言うんじゃねぇ!」
ん? すずのことを知ってんのか?
「こいつ変なことだけは覚えてんですよねぇ。あっ、うちらオヤジさんに言われて挨拶に来たんですよ。遅ればせながら」
「そうッス! アニキのトラウマが」「黙れ、コッポ!!」「おいらはネコッス!」
「違うよ? 本当はコッポはシマウマなんだよ〜」「ネコッス!」
……頭イテー。ほんとに、ナンダコイツラ? 『オヤジ』って誰だよ。
「あー、もうお前らはちょっと黙ってろ。オレが説明するからよ。つまりな?……なんか質問あるか?」
はぁぁ!? マジで勘弁してくれ……。
▷▷▷
……なるほど『オヤジ』ってのはあのじーさんのことで、こいつらは以前ここに住んでたってわけか。なら、すずを知ってて当たり前だな。
「箱面兄ちゃん!」「誰が『箱面』だ! 俺には……ボ、ボスにゃんって、ちゃんとした名前があんだよ!」
「へぇ〜『ボスにゃん』ねぇ。すずがつけてくれたのか」
「ま、まあな。パッとしねー名前だけどよ、仕方ねぇだろ? じーさんの孫がつけたんだからよ。文句は言えねぇわな」
それに、昔の名前──斑だから《ブッチーニ》とか、ぜってーからかわれるに決まってるしよ。
「ニケランジェロ! ッス」「ばっ、コッポ!! それ以上はシィィだぞ? いいな?」「了解ッス!」
ん?『ニケランジェロ』?……アニキとコッポだろ──残るは、
「あっ、うちは、タリーです」「そうッス! ニケランジェロはアニキッス!」「コォォッポォォォ!!」「フギャー!!」
あんだけ焦ってたからよ、まさかとは思ってたけど……やっぱりそうだったか。
「アニキの名前は元飼い主さんがつけたんですよ。プッ、それがですね、最初は光の加減で三毛に見えたらしくって……ププッ、自称芸術家だった飼い主さんが『おお! ミケ・ランジェロだぁ!』って箱から──あっ、アニキも捨て猫だったんで。で、抱き上げたら斑だったってことで二毛、ニケランジェロになったそうです。オスの三毛とか滅多にいませんもんね」
ハハ……そういやぁ、俺の元飼い主の親もアマチュア芸術家を気取ってたな。
「ふ〜ん。で『アニキも』って?」
「あー、うちもそうだったんで──ゴミ置き場に捨てられてたのをアニキが見つけてくれて、飼い主さんが助けてくれたんです」
なっ! ゴミ置き場!? チキショー、ひでぇ事しやがるな! 信じらんねぇ!
「まあ、うちはラッキーだったんですよ。飼い主さんがすぐに病院に連れて行ってくれたり、アニキが母親のように寄り添って一晩中あたためてくれたそうで。一年近く、うちらは幸せに暮らしていましたよ」
あー、ヤバい。目ん玉が海水浴に行っちまったぜ。
「そっか……。で、今はなんで野良やってんだ?」
「飼い主さんが結婚したからですよ」
「はっ!? 結婚って──結婚したから追い出されたのか!?」
「違いますよ〜。奥さんになる人が猫アレルギーだったんです。仕方ないですよね。あっ、すずちゃんもそうですよ。うちらのこと大好きなのに触れないとか……かわいそうですよね」
えっ? すずは猫アレルギーなのか!? 嘘だろ? あんなにちょっかいかけてくるのは俺たちに触れない腹いせとか──ではないな。うん、ぜってー違う。
あいつはそんな奴じゃない!
「あっ、話がそれました。それで、優しい飼い主さんはちゃんと次の飼い主さんを見つけてくれて、その人もいい人だったんですけど……先輩ネコの中に意地の悪いのがいましてね」
「それで家出したのか」
「いえ、その時はまだ。アニキも負けてなかったですから」
……意地の悪さがか? なんつって。
「コッポを拾ってからですね、家出たのは。そいつがコッポをひどくいじめるからアニキが怒って──いや、ほんとに最低な奴で、飼い主さんがいないときや見てないときにやるんですよ。うちはまだ体が出来上がってなかったから役に立たなくて、悔しかったです」
ハァ、聞いてみないと分からないもんだな。意地が悪いとか、思っただけでも悪かったな。
「あー、コッポを拾ったってのはちょっと違ったかな? 散歩に出たときうちが車に轢かれそうになったのをアニキが体当たりで助けてくれたんですけど、アニキが転がった先に今度は自転車が走ってきて──そこに突っ込んできたのがコッポなんです。それでアニキは助かったんですよ。だけどコッポは……打ちどころが悪かったんでしょうね、すぐに物を忘れるようになってしまったんです」
んー? つまりコッポは初めから野良で……二人とは顔見知りだったってことか?
「そうなんです」
「えっ?」
「アハッ、なんか疑問系の顔してたから。うちらの関係かなぁと思って」
……当たってるだけにこえーよ!
「コッポはうちらの家の近くの公園に住んでたんで、たまに」「トイレは禁止ッス!」
はっ? なんだ急に。アニキはどうした?
「トイレをすると間抜けな新入りが来ないッス!」
ん? 間抜けな新入り?
「コッポ〜、間抜けなんて言っちゃダメだよ。ボスにゃんさんは立派なボディーガードなんだから」
「了解ッス! ボスにゃんさんはスリッパッス! 新入りは……まんまとひっかかったッスか?」
「コッポォ〜、アニキを探してきてくれないかな?」
「了解ッス! アニキー、やっとすずから開放されるッスよー!」
う〜ん? すずから開放?
……『間抜けな』はさておき『新入り』ってのは俺のこと、だよな?
だって、こいつ──タリーがさり気なく役に立たないフォローに入ったもんな。
「ボ、ボスにゃんさん? えっと、あの、うちらの関係なんですけど!」
『トイレをすると新入りが来ない』……ハァ〜、なるほどね?
ここを見つけたとき、なかなかいい物件だから既に誰かのシマかと思ったけど、なんの匂いもしなかったのはそういうわけだったのか。
思ったとおり、すずも結構どころかマジで面倒くさい奴だったもんな。
んで、こいつらは、
「ごめんなさい! あの、うちら家出たあとオヤジさんに世話になってて、それですずちゃんのボディーガードを任されてたんです。けど、あの……うちとコッポは続けてもよかったんですけど、アニキがもう限界で」「おい。誰と誰が続けてもよかったって?」「ア、アニキ! お、おかえりなさ〜い。アハハ〜」
ハァァ……。こいつらすずより面倒くせーな。
大体わかったから、そろそろお帰り願おうか。
「あっ、すずだ」
……はっや! ありゃ、リニアを超えたな。てか、コッポはど──
「箱ボス兄ちゃん! これはほんの《ちかづきのおしる》ッス! アニキもタリーもだめッスよねー、す〜ぐ忘れるんスから。だから──トイレは禁止ッス! じゃあ、えっと……あかさたな……かようならッス!」
……コッポはただの物忘れじゃねぇな。思考回路が絡まりまくってんじゃねーか。
なんだよ『近月のお汁』って、お近づきのしるしだろ?
『かようなら』は《さようなら》の間違いだよな? あかさたな……って、五十音順で思い出したつもりだろうが、一行はえーんだよ。
まさか、火曜日にまた来るってことじゃねーよな?
こっちとしては近づきたくもねぇしよぉ、塩でもまいとくか。
でも、そっか。すずは猫アレルギー、か……。
いつかあいつが頭を撫でてくれ──えーっと、お近づきのしるしはなんだろな〜?
《銘菓:近乃月のおしるこ》
…………こ、こんなもん……どーやって食べろってんだよ! 高価なもんならいいってもんでもねぇんだぞ!
つーか──ほぼほぼ合ってんじゃねーか!
なんなんだよもー! お前ら二度と来んじゃねーぞ!!