ボスにゃんを捕まえよう!
「ねえねえ、とっくん。ボスにゃんって分かる?」
「うん、ねーちゃんが追い回してる白と黒のぶちネコでしょう?」
「ちっがーう! 追い回してるんじゃなくて遊んであげてるの! じゃなくて、そのボスにゃんをさぁ、捕まえない?」
捕まえるって……うちは動物飼えないのに?
「……捕まえて……今度は、いじめるの?」
「もう! ち、が、う! うちは動物飼えないでしょう?」
あっ、忘れてたわけじゃないんだ。
「だからぁ、ちょこっとだけ捕まえてご飯とかあげてさ、飼ってる気分を味わおうよ〜。楽しいと思うよ?」
んー……楽しいかなぁ……。
「ご飯とかあげて、あとは何するの?」
「……おやつもあげる!」
えー、それ捕まえてまでやること? 餌をあげたいならそこら辺に置いとけばいいじゃん。あいつはちょっとデカいから怖いんだけど……。
「ねぇえ! やろうよぉ〜。ほら! 箱もちゃんと用意したからさぁ」
あっ、なんだ、追いかけて捕まえるんじゃないんだ? ならやってもいいかな。
「箱でどうやるの?」
「箱をひっくり返してね、中に紐を結びつけた木の棒をこうやって入れて支え」
ポキン。
「……棒が細すぎじゃない?」
「だね、じゃあこっちで……あれっ?」
「短いね……」
「……よし分かった。台所から菜箸持ってくるわ。ついでにおびき寄せ用のちりめんもね!」
▷▷▷
「来ないね」
「ねっ。……もうすぐお昼ごはんだからまた後でやろうか? その間、紐はこのいすの脚に結んでおこうね」
んー? あの箱の辺りから旨そうな匂いがするけど……なんか怪しいな。
キョロキョロと──うん、すずはいないからもう少し近くで調べてみるか。
はぁ〜ん、なるほど? 餌に釣られて入ったら……この棒が折れて──
いや、違うな。こっちの紐か? にしてもなげーな。どっから来てんだ?
んーと、家ん中か……。すずは隠れてんのか? ここからじゃ見えねぇなぁ。
よっと。よし、ここならよく見え──何だよ。隣の部屋でメシ食ってんじゃねーか。おっ! ってことは、今なら大丈夫だな?
どれどれ……ちりめんか……。持ち逃げされないようにちいせぇの持ってきたな。
まっ、ササッと食べてずらかるか。
うん。うんうん。ちょっと塩辛いけど旨い──
バッコン!
えっ?
「なんっ、あっ、あぁーもう、なんね? こんなとこに紐なんか結んで、危ないねぇ。すずちゃんたち、片付け忘れたんかねぇ。やれやれ」
ええぇーーっ!! ちょ、誰──って、この声は……すずのばぁさんだな!?
どこ見て歩いてんだ、紐なんかに引っかかってんじゃねーよ!
お陰で閉じ込められちまったじゃねぇか。どうしてくれんだよ!
ドンッ。ズリッ。 ドカッ。ズザッ。 ドカドカドンッ。ズリリリリィー。
……ダメだ。ずいぶんと重い箱を用意したもんだな! チキショーめ!
▷▷▷
「あっ! とっくん見て、箱が閉まってる!」
「ホントだー。ボスにゃんかなぁ?」
「どうだろう? 行ってみようか」
やっと出てきたか。おっせーんだよ! サッサと開けろ!
「お〜い、ボスにゃんですかぁ?」
俺様に決まってんだろうが! あーもう! 早く出さねーとぉ──
「なんかいるけど……分からんね。ちょっと待って、そこの持ち手のとこから見てみる──」
こーだ! ボスッ!!
「わぁぁ!! 手が出てきた!! つっ、爪も!? こっわっ!!」
「危ないね! 箱から出したら飛びかかってくるかもしれんよ!」
「う、うん、そうだね。どうしようか……。そうだ! ネコは夜行性だから、もう少ししたら昼寝をするかも。その頃また来てみよう?」
「うん」
アホかぁーー!! こんなとこに閉じ込められて、眠れるわけねーだろー!
こらぁぁー、戻ってこーい!
チキショー……。腹立ち紛れに爪まで出したのは失敗だったな。
あーあ、どうすんだよこれ。寝たふりしとかなきゃいけねぇのか? ハァ……。
「あれまあ、こんなところに置きっぱなしでぇ。まぁたすずちゃんたちだね?」
……まぁ〜た、ばぁさんか……嫌な予感しかしねぇぞ。
「遊んだらちゃんと片付けんとねぇ。どれ」
よし……箱が浮いたら速攻で逃げるぞ! さん、にぃ、いち!
「よっこいしょ〜おっと──わっ、なんね!? あっ、こら、このドロボー猫ぉ!」
ドスン! ゴロン。
ヒャアァ、あっぶねー……つーか何がドロボー猫だ! 俺は被害者だぞ!
そもそもあんたが紐に引っかからなければだなぁ──っておい、大丈夫か?
あんな重たい箱をぶん投げるから……。
お〜い、すずー。ばぁさんがお前たちのせいで腰やってんぞー。