雨の日の遊び
「とっくん! 今日は何の日だ?」
「はい、隊長! 今日は雨の日です!」
「その通り! では、雨の日に我々がしなければならない事は何だ?」
「はい、アリさんの救出です!」
「よろしい! それでは、しゅっぱーつ!」
「おー!」
フニャ〜ニャァ。よく降るなぁ。縁の下はビショビショで寝られねーけど、ここなら……まあ、屋根が近いからちょいとうるせーけど、そんくらいは我慢……ん?
何だぁ、あいつら。こんな雨の日になにしに庭に出てきてんだよ。
「おおっ! 大変だ、すごい滝が出来ている! とっくん隊員、急いで船を用意するんだ! 湖に流されたアリさんたちを救出するぞ!」
「はい、隊長!」
はあぁ? 滝ってお前、段差に雨水が流れてるだけじゃねぇか。
船はなんだ? おもちゃの船でも持ってきた──おいおい、葉っぱの船なんかすぐに沈んじまうぞ。雨の勢いでな。
湖ってのもなぁ、ただの水たまりだし……チビザルの考えることは分かんねー。
まっ、俺には関係ないけどな。
「ほら、こうやって小枝に掴まらせてから船に……こら! こっちじゃない! そっちの船に、ちょっ、ダメ! そっち! 葉っぱの方に行きなさいってば!」
……船じゃねーのかよ。
「そうそう。ふー、危なかった。じゃ、とっくん隊員もやってみて!」
「はい、隊長! アリさん、これに掴まって!」
「おっ、いい感じ。そのまま船に乗せてあげてーって! 船よ、船! ふねー!!」
「イィーーッ! 手に登ってキタァーー!」
「なっ、ダ、ダメって! 振り回したらこっちに、飛ん、でイィャァァァー!!」
バッタバッタバッサバッサバッシバッシ!
「はぁはぁ……落ちた? とれた? ついてない!?」
「う、うん」……たぶん。
……もう、やめとけ。お前たちに救助隊は向いてねぇと思うぞ?
「ああもう……うぅ〜う。分かった。我々にはまだ修行が足りないのだ! よし、次は滝で修行だぁー!」
「えっ?……」
「どうした! とっくん隊員。修行に行くぞー!」
「ぉ、ぉぉー……」
おい、チビザル。弟の顔を見てみろよ。今日の空の色よりどんよりしてるぞ。
えっ? こっちに来た……滝ってまさかこのぶっ壊れた雨どいから滝の──
うん。まあ、ほっそい滝に見えなくもないけどな。って……えぇー、また昼寝の邪魔をする気かよぉ。下からは見えねぇだろうけど迷惑だな、おい。
「まずは私が手本を見せよう。フードをしっかり被ったらこの滝の真下に入って」
ボタボタボタァー バタタタタァー ボタバタボタバタタタァー
…………。
「よし! 次はとっくん隊員の番だ!」
「……はぁーい……」
ボタボタボタァー バタタタタァー ボタバタボタバタタタァー
だあぁーーもう! うるせーんだよ! さっさっと家ん中に入れ!
庭だからって油断してっとなぁ、今日のように風も強い日には何か飛んできて怪我するかも知んねぇんだぞ!
「こらぁーー! あんたたちはこんな日に庭に出て何してんの! 早く家に入りなさい!!」
ほ、ほらな?……雷も落ちたりするんだぞ?
「は〜い♪」「えぇー」
「えぇー、じゃない! あんたも早く入りなさい!!」
ふぅ。やっと静か──じゃないけど、あいつらの修行の音に比べたらこのうるさい雨音も子守唄に──は、さすがに聞こえねぇか。
しっかしまぁ、とっくん? こんな日まで遊びにつきあわされて可哀想によぉ。
あいつの弟に生まれなくて心底良かったぜ。
いや待てよ? あいつの兄ちゃんだったらいいかもな?
おいチビザル、あれを持って来い。お前のおやつも俺に寄越せとか言ったりして、
バッゴーン!! バガン、バリン、バタッ、バタタタタッ!
フッギャァァー!! なななななんだぁー!?
ひひ、昼寝を襲うとは卑怯な! 今のは冗談──なんだ、波板か……。
ウオッホン。
ほらな? こうやって飛んでくんだよ、いろんなもんが。
だからな? 今もまだここにいたらよぉ、その可愛い顔に傷がついてたかも──
いーや? 何も言ってないぞ?
あー、波板がバタバタうるせーから移動しよっと。