トンビにメロンパン
フッフッフ〜ン♪ いいもん見っけたなぁ〜。
チビザルに見つからないうちに塀の向こうへ──
「わっ!!」
フギャッ! ああぁ、落としちまった!
「フッフッフッ。びっくりしたでしょ?」
……おっ前、ほんっといい性格してんな! どこに隠れてたんだよ!
まったく……いいか? そこから一歩も動くなよ?
急いで拾って逃げ──
「ねえ、ボスにゃ〜ん、何食べてるの〜?」
まだ食べてねぇーよ! つーか、動くなっつってんだろ? こっち来んな!
あー、チキショー、焦って拾えねぇ!!
「何なに? それなぁ〜にぃ?」
だぁーから! あーもう、一旦逃げるしかねぇな。
いくらチビザルでも、道に落ちてるもんを拾って食ったりしねぇだろうし……
えっ? しねぇよな? やめとけよ、腹壊すぞ!
「んー? パンかぁ。これは……メロンパン、みたいだね? うん、よし。分かったからもう食べていいよ」
ハイハイ、確認が済んだならあっちへ行ってくださいね。
「ほら、もう何もしないから食べていいよ?」
……いや、だから、もっとあっち!
そうそう、動くなよ、動くなよ、絶対に──
ギュウーーン パクッ! バサバサバサッ サァーー
ちょっ、まっ! それ俺、ノォォーー!!
「ウッヒャ〜! びっくりしたぁ!……何あれ、トンビ? ねぇ、あっ……
アハハハハ──ダ、ダメだよねぇ、ひとのもの盗っちゃあ。それ油揚げじゃないよーって、ねえ?」
何が……何が『ねえ』だよ!! 俺が、俺の!──
てな事があってよ ボリボリ
フ〜ン。そりゃ災難じゃったな カリカリ
災難ってもんじゃねーよ! チビ──すずがあんな意地悪をしなければだな、俺はふわっふわのメロンパンを食べることができたのによぉ ボリボリ
じゃがのぉ カリポリ お前さんがボサッとしとったからトンビなんぞに横取りされたんじゃろう? カリッ
いやいや、大体よ──
それにしても旨い《いりこ》じゃな。上物じゃぞ? どこで手に入れた?
これはだから……その、すずがな? メロンパンのお詫びだっつって──
ハァ〜、メロンパンの小さな切れっ端のお詫びに、上物のいりこを三本も!
やっぱりすずはいい子じゃなぁ カリッポリッ なっ?
……ま、まあ……だけどよっ! ふわっふわの──
一欠片のふわっふわのメロンパンをギューッと握りしめたら、ビー玉一個分くらいにしかならん。じゃが、この立派ないりこ三本は三個分くらいにはなるぞ?
……りょ、量の問題じゃねーんだよ! たまには甘いもんも──
何が甘いもんじゃ。わしらに人間の食べ物はなぁ、毒になるもんもあるんじゃぞ?
菓子パンとか、お菓子には手を出さんほうが身のためじゃ。
その点、すずはよー分かっとる。まあ、食べすぎてはいかんがな、いりこは栄養たっぷりじゃからの、たまに食べるおやつとしては文句なしじゃわ ポリッ
〈あ〜あ。じーさんには何を言ってもダメだな。差し入れしたから少しはこっちの味方をしてくれると思ったのによぉ。つまんねーの!〉
いや〜、美味かった。おすそ分け、ありがとよ。
〈えっ? あっ……〉お、おう。
〈何だよ……礼なんか言われたら調子狂うじゃねーか……参ったな。ヘヘッ〉
タッタ トッテ タッタ トッテ タタン トテテテテッ
〈ん?……なんじゃ、今日はツレがおるの? しかも、あのなんとなく怖いねーちゃんか……。そいじゃあ出るのはやめにして、あとはこいつに任せるか〉
今日は一段と男前の兄さんよい、そろそろ、
仕事の時間だろう? 分かってるって! じゃあ、またな!
まったくよう……ヘヘッ、今日はやけにすな──気持ち悪かったなぁ。
『ありがとよ』なんて、あのじーさんが俺に礼を言うとはな。それに、なんだよ『一段と男前』って、なあ? 今頃気づいたのか? って話だよ。ハハ…………
はっ!……やられた。浮かれてまんまと乗っかっちまったじゃねぇか。
仕事の時間だろう? って、自分で言ってんじゃん……ハァァ。
でもまあ仕方ねぇか。帰る方向が同じだからよ。
ついでだ、ついで。それ以外の何ものでもねーからな? 勘違いすんなよ!
おい、きーてんのかチビザル──いや、おたくに言ったんじゃありませんよ?
てか……誰? チビザルの友ザ──ご友人様でいらっしゃいますでしょうか?
わたくし、怪しいものではございませんよ? すず様のボディガー……。
おい、今『ストーカー』つっただろ? アッ? 猫耳なめんな──さい。
ちょっ! 俺、ごめんなさいって言ったんですけど、聞こえませんでした!?
な、なんだよコイツ、こえーよ! じーさーーん! 助けてくれーー!!