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猿山

 


 土日はほとんどと言っていいほど、子分たちと遊ぶすずなんだけどよ。今日はそいつらと近くの動物園へ行くんだとさ。

あそこはなんとな〜く苦手だから、行きたくないんだけどなぁ……


 まあちょっとした公園や広場はあるし、緑も豊か。身を隠す場所なんざわんさかあるからよ──しゃーない、ついて行ってやるとするか。





 あー、やっぱし苦手だわぁ……俺らの仲間である、山のようにでっかいやつらから『お前は自由でいいな』みたいな目でちろ〜んと見られるのは、まだいい。

けどな、野良になった俺からすれば、なんの苦労もなく飯が手に入るお前らのほうが恵まれてるぞ! と言いたいわけよ。


 自由と引き換えに、食べ物と安全な暮らしを約束されるほうがいいのか。

自由に動ける代わりに、自分の力だけで必死に日々の暮らしを守っていくほうがいいのか──


 って、そんなことよりも! 腹が減りまくってるのになかなか飯を貰えなかったりするとだな、ギラギラした目でこっちを見てくるわけよ。手が出せないことはわかっちゃいるけど、怖いものは怖──


 あれ? ありゃコッポじゃねぇか? 

ニケらは…………見当たらないな。一人で来たのか──って、おいおい;



 トコトコと歩くコッポが向かった先は猿山。

そしてあろうことか、猿山をぐるりと囲む柵の上に、ヒョイっと飛び乗ったのだ。

猫一匹が飛び乗ったところでびくともしないし、手すりの幅も十分にあるけれど。



 うわぁぁ……コッポのやろう、猿をからかってやがる──のか?


 コッポのことを少しはわかっているつもりのボスにゃんだが……

手すりの上で猿山に背を向け、柵の内側に垂らした尻尾を右に左にユラユラと揺らしているコッポ。わざとそうしているのか、天然ぶりを発揮しているのか、判断に迷う。


 バカにされているとでも思ったのか。猿たちは入れ替わり立ち替わりものすごいジャンプ力を見せつけながら、尻尾をつかもうと躍起になっている。

そうボスにゃんの目には映ったけれど、肝心のコッポはそのことにまるで気づいていない。



 ハァ……まぁ、届かないとは思うけどよ、万一ってこともあるから──



「コッポ!!」



 猿の魔の手がついに!────ではなかった。


 猿山の前の広場で遊んでいた子供たちの蹴り損なったボールが、コッポへ向かってまっすぐに飛んでいったのだ。


 後先考えず、猿にも負けないほどのジャンプ力を披露したボスにゃんは、タイミングよく広場のほうへポスッと降り立ったコッポを見下ろしながら──猿山の中へと消えいく。

そりゃそうだ。後先を考えなかったのだから。



 猿たちは降って湧いた不法侵入者を威嚇してきたけれど、先ほどのやつとは比べものにならないくらいのガタイのよさを見て、猫違いだと気づいたらしい。

しばらくすると、何事もなかったように散らばっていった。


 臨戦態勢で体中の毛を逆立てていたボスにゃんが、やれやれと息を吐いたそのとき──



「あっれぇ? 箱面兄ちゃんにそっくすのヤンキーがいるッス!」

「なっ!? おま、お前のせいでこんなことになってんのによ、呑気に野球の話なんかしてんじゃねぇ! てか、一体どっちのファンなんだよ!」

「あ、違ったッス! 少々痔のへっぽこ狸ッス!」

「なんだとぉ! 俺様のどこがへっぽこ地狸ってんだよ! 住んでないわ、こんなとこ!」


 通常運転のコッポと、かなりパニクってるボスにゃん。お話にならない。

そこへ割って入る第三者。



「いんや、おらっちはタヌぽんだよん。猿山のアイドルのタヌぽんだよん」

「ああ゙! 部外者は引っ込んで────えっ……狸?」

「そだね。化けられないけど狸だよん。ついでに痔じゃないぽん!」

「ウッヒャッヒャ! 化け猫の狸ッス! おもろいッス!」

「……」



 ここでようやく冷静になったボスにゃん。

状況を整理し、家? へと誘うタヌぽんに待ってもらい、コッポに声を掛ける。

頼りにならないことは百も千も承知だが、残念ながらここには彼しかいない。



「コッポ! 俺がここにいるって、ニケか、じー──おやっさんに伝えてくれ!」

「よ〜そろ〜りッス! 箱面舵いっぱいいっぱいッス!」


 ……ダメだ……これっぽっちも助かる気がしねぇ……


「えっとぉ……ここも住めば都だよん?」



 当然、なんの慰めにもならなかった。

がっくりと肩を落としたまま案内されたタヌぽんの家は、猿山に作られた数あるトンネルのうちのひとつにある小さな穴。子猿ならともかく、大人の猿は入ってこれないだろう。という程度のもので。


「ここがおらっちの家だよん。ほかのトンネルにも穴はあるから、気に入ったところを使えばいいよん。じゃあねん」


 そう言って、穴の奥へと入って行った。

招待されたわけではなかったらしい。





 その後、適当な穴を見つけてそこを仮の宿とし、結構楽しく暮ら────

せるはずもない。



 配られる飯はさつまいも中心の生野菜ばかり。食えるわけないだろこんなもん!

たまにりんごが混ざっているけど、たまになだけあって競争倍率が激しすぎる。

タヌぽんの野郎は、りんごの芯をおこぼれにあずかるときもあるようだが、それをチラッとでも見ようものなら、歯をむき出しにして威嚇してくる有様だ。


 水が飲めるだけでもましだと自分に言い聞かせ、体力温存のため昼も夜もひたすら寝て過ごす日が五日ほどすぎた満月の夜。

「おーい。おーい」と聞き覚えのある声に目覚めて顔を出すと、じーさんとニケが柵の上からのぞいているのが見えた。


 二人はホッとしたように顔を見合わせると、

「二、三日中には必ず助けに来るから、それまで頑張れ!」

そう言い残して去って行った。



 うれし涙なんか流してないぞ! 月の光が目に沁みただけだ!





 遅くてもあと三日待てば……と思っていたら、早くも翌日助けが現れた。

やって来た救世主はなんと、すずとあの怖いねーちゃん!? あっ、あいつ、純粋の純に花と書いて《すみか》っていうらしいぜ。ハハッ、名前負けしてねぇか〜?


 いや嘘です。ごめんなさいませ。助けに来てくださり誠にありがとう存じます!!



 とにかく一刻も早くここから出たかった俺は、大きな体をできるだけ小さく見えるように丸めつつ、弱り果て怖がっている雰囲気を全面に、無理やり押し出し、ヨロヨロブルブルと震えながら、保護しに来た飼育員さんの前に進み出た。


 本当に怖かったんだろう──って!? ばっ、おま、違う違う! 演技だよ。演技!

ネコデミー賞総なめの演技力ってもんだ、うん。


 が、しかし。そんな俺様の上をいくとんでもないやつがいてな……



 すみかは、助け出された俺に猛然と駆け寄ると、飼育員さんから俺を引ったくり、「ああ、よかった。すっごく捜したんだよ! 生きててよかった!」

涙をボロボロ流しながら、空きに空いた俺の腹を力一杯抱きしめてきたんだわ。

いやぁもう……助かったはずなのに死ぬかと思ったぜ。


 でな? ペコペコと頭を下げながら猿山を離れ、飼育員さんが見えなくなったとたん、俺様をぽ〜んと藪の中に放り投げ、近くの水飲み場で入念に手を洗ったあと、バッグから取り出した携帯コロコロで全身を隈無く掃除し始めやがったんだ! 

あのヤローはよ! 


 曰く、猫の毛ならまだ我慢できるが、猿や狸のは嫌なんだとさ。

いわゆる潔癖ってやつだ。鉄壁の鉄仮面の間違いじゃねぇ────


 よかった; 聞こえなかったらしい……


 とにかく、それはわからんでもないが、何も俺を放り投げることはないだろう? まあ、その点についてはすずから怒られてたからいいけどよ。

あー、でもそのすずは、誰かさんと違ってマジで泣いててさ。心配かけて悪かったなぁって。


 すずを泣かせた元凶には、あとできっちり猫パンくらわす!



 見てたかどうかは知らんけど、助けてもらったことは事実だからペコリと頭を下げてから、じーさんたちにお礼を言いに行ったら……


 そこで衝撃的な話を聞かされ────頭が一瞬真っ白になった。



助けが来た経緯

翌日の午前中、すずより勘の鋭いすみかの家へ乗り込んだおやっさんたち。

庭の生け垣から窓辺へ走りより、引き返してはこちらを振り返る。を何度も繰り返す野良猫集団(すみかが苦手なおやっさんも頑張りました!)

その様子に〈何かが起こっている〉そう気づいたすみかは、誘導されるまま猿山までやってきて……

そこでたまたま穴から出てきて水を飲んでいたボスにゃんを目にすると飛んで帰り、すぐさま行動に移した。準備万端整えて。というわけでした。


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