はじめまして
あー、完全に方角を間違えた。車に人に……ビルばっかりじゃねーか。
新天地を求めて旅に出たのはいいけど、こんなとこには住めねぇな。民家が一つも──あっ、あった。
一軒だけか……でもまあ折角だから、ちょっと休憩だけさせてもらうかな。
ほぉ〜、広くはないけど庭付きか。小さな池や手頃な木も色々あって──って、マズいな。こりゃ既に誰かの──ん? 何の匂いも、しない?
てことは……ここいらを縄張りにしてる奴はいないってことか!
よしよし、どれどれ、ふむふむ、いいんじゃないの?
ブロック塀に囲まれて周りからは見えないし、瓦の屋根というのも悪くない。
むしろ、いい。おっ! 隣の建物には床下まであるじゃねーか! はい、決めた。
ほんじゃ早速──マーキング……っと。
よし、ちょっくら辺りを散策して──
「ああぁー!!」
みっ!?
「見かけない顔だね! どこの子? わたしはねぇ、すずっていうの。あっ、その前にはじめましてだね」
あー、びっくりした。何がはじめましてだ、お前なんかと──あっ、そういうことか。こいつは結構面倒くさい奴なんだな? だから、他のやつの匂いがしないんだ。まあ、俺は別にいいけどね。ここは逃げ場がたくさんあるし、男のガキに比べたら女のガキなんてかわいいもんだぜ。
「ねえ、名前はあるの?」
ハイハイ、俺は忙しいんでね、さよう──
「ないのね? じゃあ、わたしが付けてあげる」
なっ!? 付いてくるんじゃねぇぇ! ほら、やっぱり面倒なやつだった。
でも大丈夫。こういうのを振り切るには、床下に逃──
「あっ、待ってよー!」
ゲゲッ!? おい! 嘘だろ!? 床下まで……は、やっぱこれねーよな。
……つっても、体を半分も入れてくるやつは初めてみたぜ……。
「あなた、大きくてカッコいいから《ボスにゃん》ね! うん、いい名前! じゃあ、またね、ボスにゃん、バイバ〜イ。……ギャー! クモの巣ついたぁぁ!」
…………。ま、まあ、かわいくないやつもいる、な?