<5> 作戦会議
「それで、ここってミチルのいた場所なんでしょ?」
麻里はイケメン談義を一段落させてから、わたしの表情を窺うように見上げてくる。
少し上目遣いのその視線は、男の人なら間違いなくときめいてしまうのだろうなって思う。さっきまでのイケメン談義が嘘のように真剣な顔。彼女はたまに妙に鋭いことを言う時があって、ドキッとさせられる。
「…うん。ここがわたしの生まれ育った家」
「そっかぁ。大きな家だね!」
明るく笑いながら部屋をうろちょろ物色し始める。高そう!てか、なにこの広さ!なんて言いながら、ベットに転がる麻里。
確かにあちらの世界から見たら、この部屋はかなりメルヘンだろうな。
この世界のことは、あちらでは麻里にさえほとんど話していない。話したのは、まったく違う場所から来たってことと、突然あちらの世界に迷い込んでしまったということだけ。麻里や彼女の家族は、混乱してるわたしにそれ以上深くは聞かなかったし。建前上は記憶喪失っていうことで処理されたから、詳しく話す必要がなかったっていうのもあった。
でも、今の状況では話しておいたほうがいいだろう。それになんだか、麻里に聞いてほしい気もするし。まだお昼過ぎだから、夕食まで時間もあることだし。
「あのね、今まであんまり話したことなかったけど」
「うん?」
「…昔のわたしの話を聞いてほしいの」
「ミチルが話してくれるなら、喜んで聞くよ?」
まるで世間話するくらいの軽さで、麻里は頷いてにっこりと笑った。その笑顔にちょっとほっとしながら話し始める。
「気が付いたら日本にいて、彷徨ってたところを麻里と出会ったって前に話したじゃない?」
「うん。地球じゃない、どこか違う場所から来たって言ってたよね」
「そう。その前はね、ここでずっと過ごしてきたの。母はずっと前に亡くなっていたし、父はあまり帰って来なかったから、この広い屋敷にいつも一人だった。使用人はいたけれど、心を許せるような相手はいなくて。将来は政略結婚して子どもを産んで…そんな親が敷いたレールの上を走って行くような生活しか待っていないんだって諦めてて、無気力な生活をしてた。この屋敷やちょっとした社交界が世界の全てだと思ってたの。貴族の娘として十分恵まれた環境にいたっていうのに気付いたのは、あっちの世界に行ってからよ。本当に、無知で我儘な子どもだった」
ふぅっと息を吐きだすと、それまでじっと聞いていた麻里がからかうように言った。
「だから、料理も洗濯も掃除もできなかったわけね~!どこのお嬢様よって思ってたんだからっ!」
「うっ…。あの時は一から教えてもらい、大変お世話になりました…」
確かに、あちらに行ったばかりの頃は何にもできなくて困らせてたっけ。我慢強く、ひとつずつわたしに教えてくれた麻里たちには、頭が上がらない。
「まぁ?貴族のお姫様だったんなら、そうよねぇ?ふふーん」
「まあ…ね。でも姫って言ったって、ただの引きこもりみたいなものよ?ほとんど部屋で過ごしてたし」
「ということはっ!清楚な美しい姫と、その姫を守るイケメン騎士!?いや~ん、ステキ!」
うーん…。麻里がヒートアップしてきた。わたしの話をまったく聞いてない。間違っても清楚な美女っていう感じではなかったんだけどな。しかも、さっきから出てくるそのイケメンに覚えがまったくないんだけど?
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誘拐犯から逃げ出したわたしを、麻里が偶然見つけてこの屋敷まで送ってくれたと口裏を合わせること。
わたしは気が動転してて、犯人を覚えてないと言い張ること。
客人という扱いで、麻里をしばらく滞在させると使用人たちに説明すること。
麻里はできるだけ一人で行動せず、わたしと一緒にいること。
イケメン騎士(仮)を見つけてお礼を言うこと。
暴走する麻里が落ち着いた後、これからの方針として二人でこの5つを決めた。わたしが消えた理由も、他の世界に行ってました~!なんて言えないから、とりあえず誘拐ということに話を合わせることになった。
最後の項目は麻里がどうしても!と言い張ったんだけど。絶対イケメンがもう一度見たいだけだと思う。まぁ、その彼のおかげで麻里に怪我ひとつないんだから感謝しなきゃね。
全てが決まった頃には結局、もう日はすっかり落ちてしまっていたのだった。
大変、お待たせいたしました!
やっと少しずつ進み始めたところでしょうか。
これからも亀並み更新ですが、よろしくお願いします(。・_・。)