<2> 迷子
わたしは3年前あの世界にやってきた。
これは冗談でも例えでもなく、ある日気づいたらあの世界にいたのだ。
あの前日は、屋敷で久しぶりに夜会が開かれていたのを覚えている。
また父が私の縁談を進めようとしているのを感じて、私は頭痛を装って自室に籠っていた。
貴族として親の決めた相手と結婚する未来に対する、ささやかな精一杯の我儘だった。
結局いつかは政略結婚を受け入れて、貴族の娘らしい一生を過ごすのだろうと冷めた目で予想しながら。
部屋の窓から広間の明かりを見る。
薄暗く静かな部屋にいるわたしと、大勢の人々で盛り上がる広間。
対照的な状況がそうさせるのか、どうしても彼らのにぎやかさを遠く感じてしまう。
彼らの中に馴染もうともせず、貴族という身分を捨てて自由になるわけでもない。
そんな自分は何になるのだろうかと曖昧な頭で考えていた。
そして、急に強い眩暈に襲われたのだ。
気づくと、そこはすでに知らない世界だった。
科学の発達した不思議な世界。
彷徨っていたところを麻里の家族に助けられ、私はあの世界で生きている。
やっとあの世界で生きることに違和感を感じなくなってきたのに。
もっと大学で勉強したいことがたくさんあるのに。
――この眩暈の先には、きっと私の世界がある。
意識の途切れる瞬間、そんな予感がした。