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9 ゴブリンの集落で目覚めた身体は、人間のものでは無かった。

「ここは...どこだ?」


 薄暗い暗闇。


 何も無い視界が緩やかに色を帯び始め、アルフは今、自分が生きていることを理解する。


「お~い、起きたか?お~い」


 目の前にいたのは、緑色の肌を持った怪物、ゴブリンの大男だった。


「まっ、魔物!?」


「えっ?魔物って、人間みたいな呼び方するなあ。面白いヤツだね、君」


「は?人間みたいって、俺は人間...」


 そこでアルフは、(わら)の寝床に置かれた自分の身体へと視線を落とした。


 増強された青色の筋肉と、そこから針のようにいくつも突き出る黒色の骨格が全身を埋め尽くしていて、どこを見回しても自分の身体に皮膚は無かった。


「ええええええ?なにこれ!?俺、思いっきり化け物じゃん!なんで!?なんで俺、いきなり人外になったの!?え!?」


「ちょいちょいちょい、近所迷惑だからさ。まだ朝早いしさ。あ、えーと、お水飲む?」


 混乱状態のアルフをゴブリンの大男は穏やかに宥めた。


 運ばれたコップも、そこに注がれた水も小汚いが、確かに喉は乾いている。


 背に腹は代えられぬ、という心境をくれぐれも顔に出さないように、水をなるべく喉の奥の方へ落とし込む。


 そして、ひとまずは落ち着きを取り戻したアルフは一つ、咳ばらいをしながら尋ねることにした。


「そ、そうだな。そういや、ここってどこなの?」


「ここは俺たちゴブリンの集落。とはいえ、ここは小規模の集落だから知能持ちも俺一人。君は異種族だから看病してる時、不安だったけど、君も俺と同じ知能持ちで本当に良かった。話せる友達つくれたの、いつぶりだろう」


「え、っと。知能持ちって確か...人族と同じ言語を話せる優等種族を差す魔族用語。あれ?でもゴブリンって劣等種族だよな?お前、どうやって知能持ちに?」


「知能持ちになる条件は、優等種族に産まれることか、食べた者を血に関わりなく優等種族へと肉体を変化させる、進化の果実を喰らうこと。父さんにそう聞かされた記憶が、まだおぼろげに残ってる。けど、君はおそらく前者かな。生まれ持った血に違いない」


 そう呟いて、ゴブリンの大男は窓から外を眺める。


 雲一つ無い晴天の空の下、草木が風に揺れているのが遠目ながらに分かる。

 

「森で君が倒れ込んでいたのを見つけた時、俺は助けることを躊躇(ためら)った。身体は弱っていても、そこから滲み出る気迫が凄くて、本能的に近寄れなくてね。でも背を向けて...このままで本当に良かったのかって。妥協して、今のままでいいやって、そうしてまた、誰とも話すことのできない日々を過ごすのかって、思って」


 そこまで聞いて、アルフは自分を情けなく思った。


 このゴブリンの大男は、大男の癖に弱気だが、芯の真っ直ぐ通った意志の強さを持っている。


 そして、自分と近しいものを感じていた。


「ところで君は、魔王様に会ったこと、ある?」


 アルフは、目を見開いた。

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