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13 狩られる側の記憶

「俺は、狩られる側であってはならない」


 身体がふわふわと浮いているような感覚。


 緩やかな眠りの中に、意識が閉じこもっている。


 アルフは、夢を見ていた。


 その夢は、誰かの記憶を映している。


「俺を狩り殺した、あの人間の女が憎い」


 薄暗い地に横たわった視点から、真っ白い髪を伸ばした少女、エミリー・グライアの後ろ姿を見ている。


「人間は、異種族の縄張りに見境無く踏み入り、純粋な力で張り合うでもなく詰まらん知略で蹂躙していく。俺はその身勝手な行為が看過できない」


 エミリーを映した記憶が霧散した途端、目の前に何かの気配を感じる。


 邪念に満ちた魂のような、何か。


「アルフ、お前は元は人間だが、今は違う。そして、お互いにあの女に殺された身だ。共に、復讐を果たそう」


 差し伸べられた、(もや)のような形の手。


「ああ。確かに俺はもう人間ではいられない。それくらい分かってた。仲間を見殺しにした無力な俺が、もう一度、同じ人間として生きる資格なんて無い。だからもう、身も心も怪物になることしか道は無いと思うんだ。お前の記憶を見て思い出した。俺という存在全てを否定された屈辱、四肢を斬り落とされた激痛。だから俺は、人間を辞めるつもりだ」


 しかし、アルフはその手を、掻き消すように振り払った。


「そして、復讐なんて死んでもしない。これは全て、俺が勝手に始めたことだ。勝手にエミリーの期待を裏切って、勝手に仲間を見捨てて、ずっと勝手だったんだ。全ての責任が俺にある。この身体に宿る本能が、俺という理性を喰い殺すのならそれでもいい。でも、あいつを殺させはしない!」


 同時に、漆黒に塗りつぶされた視界が光を帯びた。




「あれ?」


 アルフは窓から差す陽光に(まぶた)を開けて、身体に圧し掛かる粗悪な掛け布団を引き剥がすと、周りを見回す。


 数秒前に見た光景は跡形も無く、視界から消えている。


 間違いなく、あれは夢だった。


「そうか。魔王が俺の身体を人間の姿に戻して、それでゴブリンのゴズラに服を急いで買わせたのか」


 アルフが寝間着代わりに纏っていた魔導士のローブは、思いのほか心地よい肌触りがする。


「あの時みた夢が、この身体に宿る記憶の欠片、なのか?俺の求める答えが、本当にあの夢の中にあったのか?」


 (つぶや)きながら、寝返りを打った。


「なんか起きるのめんどくさくなってきた。よし、二度寝するか!」

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