12 求める答えは、その肉体に宿る本能が覚えている。
「え?は?あ、俺たち部屋間違えました?隣だったっけ?あ、すいませんすいません!」
「いや、君たちの部屋はここだとも!なにしろ、私が君の先回りをしたのだからね!」
アルフはそそくさと玄関から退出しようとしたが、魔界王アイリを名乗る少女の声がそれを遮る。
「はあああ!?じゃあなんでわざわざ部屋の中に入ってんの!?待ち伏せすんなら部屋の外で待てば!?」
「やれやれ、君はその程度のことも理解できないのかい?サプライズだよ!それに部屋の外で話すよりここで話す方が気楽にできるんじゃないかなってさ」
「待って!違う違う!鍵も無いのにどうやって入ったわけ!?なんなの!?空き巣に侵入するプロですかあなた!?」
「無論そんなことお茶の子さいさいだよ。なんたって私は魔王と恐れられし美少女だからね!ところで、そこの廊下でガタガタ震えてらっしゃるゴブリンのお連れさんはどちら様かな?」
振り返ると、部屋の外でゴブリンの大男が物凄く怖がっている。
魔界王アイリを名乗る少女に対し、強い恐怖を抱いている。
ゴブリンとしての本能が、何かを感じ取っているのかもしれない。
「わ、わたくし、ゴブリン族の集落を率いております、ゴズラと申します!」
ゴズラという名前を少女に明かす時も、緊張と戸惑いに上手く呂律が回っていなかった。
「ふーん。まあ、どうでもいいけどね。それよりもアンデッドにしては立派な身体つきの君ですよ。君のお名前は?」
「アルフ、だけど」
ゴズラの意外なまでの怯え様に、アルフも若干、困惑気味に名前を明かした。
「アルフ。うん、いい名前だ。彼女の報告からだと生前の名前は不明だと聞いていたから、本当は私が直々にイカした名前を授けたかったところだけどね。まあ、シンプルな名前も呼び易くていいかもなあ。あ、そうそう、それでねアルフ、君はいつからその姿になっていたの?」
「いつから、って言われてもなあ、今朝に目が覚めてからずっととしか言えないよなあ。それより前に身体が変化していたとしても、その時、たぶん気絶してたからなあ」
「なるほどね。つまり君は、記憶を抹消されたわけだ」
「は?」
アルフは数秒、理解出来ずに瞬きを繰り返していた。
「こうして君を保護できたことに関して言えば、本当に幸運だった。ただ、記憶の消去は免れなかった、ということ。でもまあ、それもじきに思い出せるようになるよ。きっと、私が知っているのは君の知りたいことじゃない。君の知りたいこと全てが、君のもう一つの記憶、肉体に刻まれた本能に残っているはずだよ」
それだけを残して、少女はこの部屋を去ろうと歩き始め、アルフとすれ違う。
それでも咄嗟に、アルフは少女の肩を掴んで、引き止める。
「お、おい!何、意味深なことばかり言ってはぐらかしてんだ!もしも本当にこの世界を統べる者なら、この世界のことは誰よりもとは言わずとも、それなりに知っているはずだろ!最低限、俺がこの先どうしたらいいか、まず何をしたらいいのか、少しでもいいから答えをくれよ!」
「じゃあ、これがヒントその一。その二があるかはどうか私のきまぐれだけどね。君はまず、そのいかつい魔物形態を仕舞おうか」
認識する間も無く、アルフの額に触れる少女の掌と、そこから送り込まれる熱に近い魔力の感触。
「あれ?」
気が付くと、アルフの姿は人間だった時の姿に戻っていた。
同時に、アンデッドという魔物には生殖器官が存在しないため、服を着用する必要も無い。
即ち、今この瞬間、アルフの全身は素っ裸の状態でさらされていた。
「ちょわああああああああああ!」
悲鳴を響き渡らせるアルフを一瞥し、少女は満足気に笑いながら部屋を出ていってしまった。
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うっかり5時に投稿するのを忘れてすこし遅れてしまいました。すみません。




