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10 人類の精鋭、勇者ソリア。

「本当にすいませんすいませんすいませんすいません!」


「分かりましたから、もういいですよ。カーミラ」


 紫の長髪を揺らめかせるほどに強く、揺れる木陰の(もと)、地べたに顔面を(こす)り付けながら、寄声に近い声を上げて謝り続ける少女カーミラ。


 そして、その頭上で困ったように苦笑いを浮かべながら、近くの岩場に腰掛(こしか)けている黒の短髪の少女。


「すいませんすいませんすいません!本当にすいません!勇者様!」


 人族最強の名を冠する勇者一族の末裔(まつえい)、ソリア。


 魔界においても、その名は地平線の遥か彼方まで知れ渡っている。


「起きたらいなくなってたんです!人間の死体から生まれた高性能アンデッド!あれを奪ったのは、おそらく魔王の手先だと思います。あんなのが奴らの手に渡れば人類の、勝利の栄光はめっちゃ遠のく...私のせいだうわあああああああん!」


「いいえ。そんなことはありませんよ、カーミラ」


 その穏やかな声音(こわね)とは裏腹に、瞳の奥で揺らめく覇気は冷徹で、全てを飲み込むような底の知れない気迫がある。


「私と戦って平気でいられるのは魔王くらいです。有象無象が幾らいても、何も変わりません。ただ、そのアンデッドが人間だった頃、彼が所属していたパーティの頭首、エミリー・グライア。彼女には少し、興味があります」


「興味、ですか?」


「はい。彼女には、他の者には無いものが見えました。彼女なら、私の後継にふさわしいかもしれない。まあ、それを決めるのは私では無いのでしょうけどね」


 見上げたカーミラの瞳を、ソリアの重い視線が刺し貫く。


「ただ、あなたの失態は看過できません。次の勇者になりたいのなら、私に全てを捧げなさい。二度と、私の手を(わずらわ)わせること無く、私の命令に(じゅん)じて成し遂げてみなさい」


「仰せのままに」


 ソリアの表情は、優しそうで、恐ろしい笑顔だった。


「勇者として命じます。人間の死体から生まれしアンデッドを、肉片一つ残さず、徹底的に始末しなさい」




「こいつらが、コブリン?なんというか、大人しいな」


 ゴブリンの大男に連れられて、アルフは木の実の採集を手伝いに来ていた。


 集落のゴブリンも大勢きているが、彼らは予想よりも体躯が細く、魔物っぽさというべき風貌は無く、どちらかというと肌が緑色なだけの普通の人間のように見える。


「ゴブリンは知能が低い代わりに肉体の成長が早くて、魔王軍に徴兵される集落もあるんだけど、うちは違うからね。兵士になるための訓練とかはさせてないから、みんな体が細いんだよ。大きな集落とか行くとみんな筋肉がムキムキだから、なんというかほんとに怖いんだよなあ」


 ゴブリンの大男が枝葉から赤い実を摘まみ取り、かごの中に放り投げる。


「魔界も案外、のどかだなあ...」


 背伸びをして、人間界と同じ陽光に照らされた青い空を見上げて、一人、小声で呟くアルフ。


「今朝の話の続きになるけどさ、君は魔王様に会ったことが無いのかい?」


「魔界王アイリ。名前しか知らないよ」


 ある日、大軍勢を引き連れて突然に現れ、人間界に宣戦布告をした張本人。


 知らないはずが無かった。


「君は魔王様に会うべきだ。そうすれば、きっと導いてくれるはずだよ」


 アルフはどうしたものかと悩みながら、木の実を摘み取るのだった。

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