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第七話

 夕刻。

 虎市が一階の飲食スペースに降りると、そこには冒険者ギルド職員兼宿屋の主人であるロビンの姿があった。



 「あれ、ロビンさん。もしや……」

 「そうだよ、ここの酒場も俺が切り盛りしてるんだ。つまり冒険者ギルド職員兼宿屋の主人兼酒場のオヤジってワケさ」

 「マルチだ……」



 虎市の感嘆にロビンは笑いながら手を降ると、手近の椅子を引いてテーブルへと導いた。



 「何度も聞かされて耳がタコだろうけど、この村は王都から程遠い田舎でね。最辺境領とまでは行かないが大分辺境寄りの場所だから、施設も小さいし兼業のものが多いんだ」

 「成程……でも一応施設はあるんですね」

 「そこはそれ、実はこの村は街道沿いの宿場町という側面があってね。ちょくちょく商隊や旅人が此処を訪れるんだよ。彼女、ケイトリンも本来は偶々この村に立ち寄った旅人だね」



 言われてみれば、と虎市は思い返す。

 最初に村を訪れた際にみた全体の規模は現代日本人である虎市の認識からしてもそこそこの大きさであったし、そこから伸びる街道はある程度整備されたものであった。

 宿場町として機能しているという話も嘘ではないのだろう。



 「だから宿や酒場の需要は他の村に比べて多いくらいだし、住民も結構多いほうだよ。ここもそのうち農作業を終えた常連のおっさんらが飲みに来て賑やかになる筈さ」

 「成程……」



 ロビンの言葉を聞く限り、村は平和そのものという印象を受ける。

 恐らく魔物とやらが出現するまでは本当に平和だったのだろう。

 それだけに、ケイトリンが行う魔物やダンジョンの調査というのは重要な仕事という事になる。



 「……ああ、そうだ。ロビンさん、魔物の件もあるので自分も自衛の為に武器がほしいんですが、扱ってませんか?」



 虎市は思い出したかのように装って話題を切り出す。自衛という名目を述べてはいるが、実際には自室でスキル等のデータを読み込んでいる際、当たり前であるが一部の戦闘クラス技能は武器がないと行使できない事に気がついたのである。

 これでは技能を試してみることも出来ない。何とか武器類を入手する必要があった。

 だが、虎市の言葉を聞いたロビンの反応は芳しいものではなかった。



 「武器? あー武器、武器ね……あるよ、あるにはあるけど」

 「な、何でそんなに歯切れが悪い言い方なんです?」

 「あーいや、ここも一応れっきとした冒険者ギルドだからね、武器を扱ってはいるよ。というかこの村に武具を扱う店は無いからここでしか手に入らないね」

 「ならあるんですか?」


 虎市の言及にロビンはバツが悪そうに頬を掻くと、カウンターの方に歩いて行く。

 そこには大分かすれた文字で冒険者ギルド受付、と書かれた板のぶら下がる区画がある。



 「見ての通り基本閑古鳥だからね。在庫がね……もう随分と補充していなくて」



 言いながらロビンはカウンター裏をごそごそと漁ると、そこから一本の長い棒を取り出した。



 「剣とか槍とか、そういうちゃんとした武具は無いんだよねー。これとか唯一の白兵武器だよ、知ってる?」



よいしょ、と。ロビンが取り出したのは、長い柄にU字状の金属が取り付けられた道具。


 「刺股(サスマタ)

 「さすまた」

 「あれ、反応悪いね。知らない? 捕具だよ、この先のU字をヤーッと相手に押し付けて取り押さえるんだよ。偶に酒場の酔っぱらいおっさんとか相手に猛威を振るうよ」

 「ええと……武具です?」

 「武具だよ、但し人間大の生き物にしか使えないし、ソレ以外の魔物には単なる打撃棒だけど」

 「あーファンタジー世界だとそうなりますよね……」

 「ごめんねぇ、昔はアフリカ式投げナイフとかあったんだけどね。アレだよ例の四方八方に刃がグニャグニャ伸びてる邪悪な形状の」

 「そんなご存知アレだよみたいに言われましても」



 虎市は困惑して呻く。

 刺股もそうだがアフリカ式の辺りが現地名称ではなく自分に分かるワードとして翻訳されて聞こえた辺り、どうも虎市の世界にも存在してそれがアフリカ式投げナイフという呼ばれ方をしているらしいことがわかり二度呻く。なんといらない情報だろうか。

 当惑する虎市を他所にロビンはごそごそと更なる武具を取り出す。



 「まぁ実際刺股は俺としてもオススメしかねるね。あとマトモそうな武器というと投石器付き棒(スタッフスリング)くらいかなぁ」

 「あー……」



 ロビンの言葉に虎市は曖昧な表情を浮かべる。

 投石器付き棒(スタッフスリング)とはスリングと呼ばれる石を遠くへ投げるための紐状の道具を長い棒の先に取り付けた道具であり、棒を振ることでより遠心力を高めた投石を行う武器である。

 勿論、これ自体は強力な遠隔攻撃用の武器だ。投石は虎市の世界でも長らく……或いは現代に至っても使用され続けている単純にして効果的な攻撃手段である。だが、今この場面に関しては虎市が欲する類の武器ではなかった。虎市はスキル使用のテストを行いたいので武器を手にしたいのであって、投石器付き棒(スタッフスリング)は用途が限定されすぎた武器であるため、残念ながら適さない。

 そして当然、この武器は護身用としては些か特殊なものであるため、ロビンとしても最初の方便である自衛用という用途ではあまり進められるものではなかった。



 「何らかの理由でこの村に冒険者が来るにしても、大体は自前で準備してから来るからね。この村で武具を用意する必要は薄いし、自然この村のギルドでは武具は扱わなくなっていくわけで……」



 成程、と虎市は頷く。

 とりあえず技能の試用に使う武器は木の棒等で代用するしかなさそうだった。

 強いて言うのであれば斧やナイフ程度なら手に入るかもしれないが、今の所そう急ぐところもない。



 「事情は理解しました、無理言って申し訳ありません」

 「いやいや、記憶喪失ってことだし、身を守るものが欲しくなるのは分かるよ。心細いだろうしね。こっちでももう少し何か探しておくよ」

 「────あれ、お話中ですか? 何かご相談です?」



 その時、背後から声が放たれた。

 振り返ればそこには、二階から降りてきたケイトリンの姿があった。

 その格好は先程までのものとは違い武装したものではなく、恐らくインナーとして来ていただろう軽装の衣服となっている。

 虎市は挨拶すべく手を上げて答える。



 「でっか……!?(どうも、ケイトリンさん)」

 「えっ、何です急に!? 何がです!?」

 「────失礼、本音と内心が反転を。何でもありませんし何かを対象とした大きさの評価でもありません、強いて言えば鳴き声でしょうか。モー」

 「牛さん……?」



 これ以上言及されると社会的な何かに抵触するため虎市は話題を右から左へジェスチャーで移動させる。鎧着てたから上からだと分からなかったんだな……そんな感想とともに。



 「夕食の時間までまだありますけど、何かロビンさんに御用とか?」

 「ああいえ、実は一階からお二人の話し声が聞こえたのでなにしてるのかなーって。あと今日はがんばったのでお腹が減るのが早くてですねー」

 「ああ、成程……じゃあロビンさんがよろしければさっさと夕食にしてしまいますか」


 虎市の言葉にケイトリンはヤッターと跳ねて歓声を上げる。

 ロビンがはいはい、と片手を上げて厨房へ向かうのを確認し、二人はテーブルへと向かった。

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