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第四話

 実に三度目の閃光による衝撃を受けた虎市。

 彼が次に目を開けると、そこは鬱蒼とした森の中だった。



 「ど、どこだ此処……今度は……」

 「ここはダンジョンの外の森ですねー」



 放たれた声にはっとして振り向くと、そこにはダンジョンでモンスターから助けてくれた冒険者の少女の姿があった。

 彼女もまた突然の転移に驚いたのか、目を丸くして辺りを見渡している。



 「スゴイですね! 一瞬でダンジョンから脱出できちゃいました!」

 「ああ……確かに」



 元の世界から転移してこの方スゴくない事柄など無かったが、と虎市はぼんやり考えつつ、改めて周囲を確認する。

 と、その時。



 《この奇跡は役に立ちましたか?》

 《信仰しちゃう/♡》



 「は?」



 突如として謎のメッセージウィンドウが眼前にポップアップして来る。

 見れば、それは少女の方にも出現していた。



 「な、ナニコレ?」

 「え、いや……私も初見ですね……未知で無知です」



 困惑した様子で少女が答える。

 虎市は戸惑いを隠せず、回らない思考でもう一度つぶやいた。



 「ナニコレ」

 『────願いは叶えた────のでよろしければ信仰しちゃうボタンをお願いします────』

 「アッハイ」



 虎市は言われるがままにウィンドウのボタンを押した。



 《この奇跡は役に立ちましたか?》

 《信仰しちゃう/♥》



 『信仰ありがとうございました────』



 それっきり声もメッセージウィンドウも消え失せ、辺りは沈黙に包まれる。



 「……何だったんだ一体……」



 虎市は率直にそう述べると、横でやはり棒立ちになっていた少女に声をかけた。



 「とりあえず、ありがとう。お陰で助かったよ」

 「え? ああいえ、別にそんな!」



 少女はハッと我に返ると、アワアワと両手を振りながら虎市に答える。



 「あのままダンジョンに留まっていたらアナタの件がなくてもゴブリン達に多勢に無勢でピンチだった可能性が高いですし、私も助かりました! お互い様!」

 「あれゴブリンだったのか……」



 虎市は呻く。全くそういう風体ではなかった気がするが、まぁ何かファンシーなモブがザコ敵として出現するゲームもあるしそういうものか……と思い直す。

 そう、ゲーム。ゲームのような世界だ、と虎市は改めて思った。

 知った味ではあるが、実際体験してみるととにかく奇妙で困惑しか無い。

 とりあえず当面の危機は去ったようだが、これからどうしたものか……。



 「にゃーん」



 と、不意に。足元から獣の声が放たれた。

 視線を下げると、そこには猫が座し、鳴いている。



 「なんだ猫か……いや本当に!? 猫型の未知のモンスターだったりしない!?」

 「いやこれは普通にネコちゃんですねーカワイイカワイイ」

 「にゃーん」



 飛び跳ねて距離を取る虎市に対し少女は笑顔を浮かべて猫を抱え上げ撫で始めた。

 病気とか大丈夫なんだろうか……と心配する虎市を他所に、妙に人馴れしており無抵抗で少女の愛撫を受け入れている猫は気持ちよさそうに鳴いている。

 まぁ異世界なので大丈夫なのかもしれない。



 「この子毛並みが白いんですねー、白いネコさん始めてみました。希少ですね!」

 「まぁそうか……ネコカフェの動画とかでちょくちょく見かけたから個人的にはそんなにレア感は無いが」

 「ネコカフェ? なんでしょうその魅惑のワード」



 俄に話題に食いついてきた少女に虎市は慌てて話題を変えた。

 今、迂闊な話をして自分の素性を詮索されるのは得策ではない。



 「と、とりあえずここから移動しないか? 正直もうへとへとで……」

 「あ、そうですね確かに確かに。 そろそろ日も暮れそうですし、村へ戻りますか」

 「村?」



 少女は白い猫を抱き上げると、虎市の問いに答えた。



 「はい、近くに村がありまして……私はそこから依頼でダンジョンに潜入したんです」





 ◆





 「私はケイトリン、冒険者です。村には旅の途中で立ち寄った所モンスターの出現が確認されたので調査して欲しいという依頼を受けまして、森へ来ていたんです。そうしたらダンジョンがあったので、中へ」



 森の中を歩きながら、虎市は少女と情報交換を行った。

 少女は大げさに身振り手振りを交えながら自己紹介と経緯説明を行う。



 「調査程度のつもりだったんですけど、まぁ私前衛職なので探索は苦手だったのを完全に忘れてまして、気づいたら迷いに迷い行くも引くも出来ない状態で困ってた所アナタに遭遇した次第でして。助かりました!」



 ぺかーと輝き出しそうな勢いで笑顔の謝辞を述べる少女──ケイトリンに、虎市は手を振りながら応じる。



 「い、いや……どう見てもあの場で困ってたのは俺の方なんで……此方こそ助けていただいてありがとうございました」



 場が落ち着いた事もあり、思わず敬語になりながら虎市は答えた。

 実際、あの場にケイトリンが現れなければ虎市はあの白いナニカの口から放たれる鋭い舌めいた何かによってズタズタにされていたことは想像に難くない。

 改めて見た目に反してえげつない攻撃手段である。



 「いえいえ此方こそ! ところでアナタは何故あのダンジョンに?」

 「う」



 虎市は言い淀む。当然というかお約束というか、ここで異世界から転移してきたとは言いづらい。

 そも、本当に異世界転移したかどうかというのも多分に主観的な推測であり、実際の所確たる証拠があるわけではないのだ。

 全く皆目何も分からないというのが正しいところであった。

 だが話さないわけにも行かない。虎市は苦し紛れに言い訳する。



 「えーと……実は俺、記憶喪失みたいで……何であの場所に居たのか自分でも」

 「記憶喪失! それはお辛いですね……わかりました皆まで聞きません! 一緒に段階を踏んでゆっくり思い出していきましょうね!!」

 「はなしがはやい」



 一切の疑念無く虎市の言葉に鼻息荒く頷くケイトリンに虎市は若干不安なものを覚えつつ、とりあえずこの言い訳で通すことを暫定的に決定する。



 「もっとも、この言い訳ケイトリン以外に通用するのか甚だ疑問だが……」

 「え、なんです? 何か難しい顔をされているようですがお腹すきました? 奇遇ですね私もですがもうすぐ村に付きますので安心ですよ!」

 「にゃーん」



 心なしか抱えられたネコも大丈夫かこの子みたいな鳴き声を発しているように虎市が感じる中、木々に覆われていた視界がやがて開け、平原へと出る。

 そこには村と言うには比較的大きめの集落が存在していた。

 建物も多く、人口も三桁には達していそうな雰囲気のある村である。



 「とりあえず冒険者ギルドへ向かいましょう。経過報告を行わないといけませんから!」



 ケイトリンはそう言うと村へと足をすすめる。



 「さて……初の異世界の人里だが、一体どうなることやら……」



 緊張に汗をにじませつつ、虎市はケイトリンの後を追って村へと足を踏み入れた。

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