第十三話
《割り振った能力値をリセット》
「……あるな」
呟き、確信する。
虎市が持つリビルド特性。これは自身のステータスに付与された項目なのではなく、虎市自身にリビルド権限が与えられた状態であったのだ。
(まぁ、態々ステータスのリセット項目のある仕様を特別にあしらえるよりは、元から全てリセット出来る仕様にしておいて権限で機能開放のオンオフをするほうが楽だろうからな)
ともあれ、これは朗報だった。
ケイトリンをリビルド出来るのであれば、状況は劇的に好転する。
残る問題は、このリビルドという行為──これを虎市が行えるという事をケイトリンに話すかどうか、という一点だ。
このリビルド権限は要するにチート能力であり、イレギュラーな特性である。
簡単に触れて回って良いものではない事は想像に難くない。
出来れば隠匿したい所ではある。
虎市は顔を上げ、ケイトリンを見た。
「? なんです?」
ケイトリンは自分に視線を送ってきた虎市に対して疑問符を浮かべる。
その顔にはふんわりとした微笑が浮かんでおり、よく言えば温和そうな雰囲気を常に纏っている。誠実そうな少女だ。
今までも二心を抱くようなそぶりはなかったし、それによって虎市は出会ってから此方助けられる一方だ。
とはいえ、かなり疑う心を持たないのが心配になる所でもあるが。
「まぁ大丈夫か……何も考えてなさそうだし」
「え、何で急に罵倒されたんですか私?」
「あ、ああいや……信用できそうだって話ですよ」
うっかり率直な感想を漏らした虎市は慌てて言い繕うと、表情を改めて言葉を紡ぐ。
「実は自分には特殊な力があるらしくて……自分や他人の能力を再構築させる能力があるんです。それでお願いがあるんですが……」
固唾を呑んで言葉を続ける。
リビルド能力があるという事を信じられるかというのもそうだが、他人に能力を弄られるというのはかなり抵抗のある話である。
これを受け入れてもらえるか……ここが今後の明暗を分けるだろうと、虎市は脂汗を浮かべる。
「ケイトリンさんの習得している技能、自分の方で弄らせて貰っていいですか?」
「え、そんな事が出来るんですか!? スゴイですねトライチさん! よく分からないけれどよろしくおねがいします!!」
「ちょっと流石に話が早過ぎて心配になるなこの娘……」
拍手喝采せんばかりの少女を見ながら虎市は呻く。
先程から杞憂をいなされてばかりで間抜けを晒している自分に苦笑するしかない。
とはいえこれで後顧の憂いなくケイトリンを弄れるというものだ。
虎市はよし、と気持ちを切り替えると彼女のステータスウィンドウと再び対面した。
「とりあえずリビルドするのは技能だけにしておこう。ステータスや特徴を弄るのは流石にな……パーソナルで先天的な要素が強いし……」
言いながらデータを上からチェックしていく。
まず能力値。これは戦士型の数値……に見えるが、筋力や耐久に対して魔力が同程度に高い事に虎市は気づく。
そして能力値の端数の量から、どうも能力値というのは本来レベルアップ等で上がっていく、所謂成長率があるタイプであり、虎市のような数値を自由に割り振るというのは正真正銘イレギュラーだという事が分かった。
ケイトリンは筋力、耐久、魔力……この辺りにかなりの適正、才能を持つようだと判断する。
「でも何で筋力や魔力が高いんだ……?」
「あ、それは多分私の生まれつきの特徴のせいですかね」
呟きにケイトリンが応答する。言われて特徴欄を見てみれば、そこには下記の能力が記されていた。
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▼特徴:
『エルフの炉』:エルフの魔力の源である身体特徴を持つ。
『ドワーフの理』:ドワーフの強靭な肉体と同様の体格を持つ。
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「『エルフの炉』に『ドワーフの理』……?」
「あ、トライチさん特徴まで見えるんですねー流石です!」
「ああ、普通は見れないものなのか。成程」
「私、種族は人間なんですけど、ご先祖様にエルフとドワーフの方が居たみたいで」
そう言うとケイトリンは自分の胸元をポンポンと叩いてみせる。
「私、エルフの特徴が隔世遺伝してて魔力が結構高いらしくて。だから胸も大きいんですねー」
「む、胸が大きことと魔力に何の関係が??」
「あ、トライチさん記憶喪失ですからご存知ないんですねそういえば。人類種の魔力を生成する器官は胸の辺りにあるので、魔力の高い女性は胸が大きくなる傾向があるんですよ。勿論胸が大きくなくて魔力は高い人もいらっしゃいますから傾向という程度の話ですけど、まぁ大体大きいですね皆さん」
「え、それだと男も胸が大きくなりません……?」
「男性は魔力器官が女性より体の内側にあるのでそうはならないみたいです。生命の神秘ですよね!」
「いや性差で内臓器官の位置が若干違うというのは分かるが……うーむ」
「あと私はそれに加えてドワーフの特徴も受け継いでいるので、小柄でも頑健頑丈なんです。おかげで実年齢より若く見られちゃうんですが」
「若く見られる……え、見た目通りではない!?」
「あー! トライチさんも私のこと子供だと思ってたんですかもしかして!!」
虎市の驚愕にケイトリンはぷりぷり怒ると、ステータスウィンドウを弄り新たに項目を表示させた。
「ほら、17歳ですよ! ちゃんと成人してます!!」
「ああ15で成人とかなんですね……把握把握、エルフとかドワーフとか言ってるから滅茶苦茶年取ってるのかと」
「そういう虎市さんはお幾つなんですか!?」
「え、えーと……28?」
虎市は一瞬自分の正確な年齢が出てこず、若干げんなりと肩を落とす。
社会に出てからこの方自分の詳細な年齢を意識するときなど確定申告の書類を社に提出するときか定期健康診断の時かという塩梅であった。
会社が正真正銘ブラックであった事もあり、働いていた期間が体感として曖昧になっているのが自分の置かれていた環境のクソさを思い出させ虎市は気が滅入る。
だが虎市のテンションと反比例するようにケイトリンが叫ぶ。
「えっ、虎市さん……そんなに年上だったんですか!?」
「そんなにって……いやそうかそんなにか……11離れてるからな……」
急に年齢に対して若い子から打撃を受けて虎市は呻き、我知らず姿勢が傾く。
だがそれにケイトリンは気づくこと無く言葉を続けた。
「だったらトライチさんは敬語じゃなくてもいいじゃないですか。砕けた感じで大丈夫ですよ!」
「え、いや……そこは初対面でしたし、大分助けてもらってましたし……それにケイトリンさんも敬語じゃないですか」
「私は年下だからいいんです! では今からトライチさんは敬語禁止ですよ。さん、ハイ!」
「え、急に言われても何を言えば」
「『分かったよケイトリン、これからもよろしくな。頼りにしてるぜ!』みたいな」
「誰なんですその熱血漢」
げんなりとした虎市のつっこみにケイトリンはブーブーと難色を示す。
意外と体育会系だったな等と胸中でボヤきつつ、虎市はコレ以上は話が進まないと渋々要求を受け入れる。
「分かった、分かった。じゃあ今後は敬語無しでいく。これでいいんだろ?」
「はい、ソッチのほうが据わりが良いですね。パパとママも礼節コレ大切って言ってましたし」
成程教育……等と頷きながらも、虎市は再びステータスウィンドウを眺める。
とりあえず能力値と特徴のあらましは──大分遠回りしたが──大体理解できた。あとはクラス技能である。
「【戦士】6、【魔術:神聖】1、【★勇気】1……ん、ユニーク技能?」
虎市は疑念に声を上げる。
見慣れない【★勇気】という技能。単語の頭に★があるということは即ちユニーク技能という事になる。
「ケイトリンさ……ケイトリン、ユニーク技能持ってたのか」
敬語が漏れケイトリンにジト目で睨まれ言い直す虎市に少女は回答する。
「【★勇気】ですよね。それは私が15の時に村の成人の儀式で鑑定して頂いた時に判明した適性技能でして。それもあって冒険者の道を選んだんですが……成長させるのにコストが高すぎて。効果もよくわからないので1レベルだけ振ってそのまま放置していたんですよね」
成程、と虎市は頷く。
ユニーク技能は高性能であるがその分成長に必要なポイントも高額である。
基本的に技能の振り直しができない訳であるからして、何だか分からん技能を伸ばすというのは勇気のいる行為だろう。しかも名前からしてこれ一本でやっていく事ができない技能であろうから、現実問題として放置も已む無しという所だ。
「しかし実際どういう技能なんだ……?」
案ずるより産むが易し。虎市が技能を軽く叩くと、【★勇気】の職能技能が表示される。
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《不屈》:あらゆる精神的悪影響に対する耐性を向上。
《耐性崩し》:状態異常攻撃の耐性貫通力を強化。
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「……なんか地味に強い感じの効果だな」
派手さは欠けるが広く効果のある技能説明に虎市は唸る。
特に《耐性崩し》は意図してかせずか、《咆哮》とシナジーのある組み合わせとなっており、恐らく今までのケイトリンの戦功はこの組み合わせによるところが大きいのではないか、と虎市は予想した。
「まぁでもユニーク技能にしては地味だな……その分成長コストが安いみたいだが。【★剣聖】とかと違ってサブカテゴリだからか?」
確認のため、【★勇気】を伸ばす……前に、虎市はリセットした技能欄から習得可能技能をチェックする。
仮に【★剣聖】等の上位戦闘技能が習得できるのであれば極論それを一本伸ばしするのが話が早いからである。
だが、ケイトリンの習得可能技能リストに存在するのは、【★勇気】を除けば一部の基礎技能のみだ。その数は虎市のものより圧倒的に少ない。
「『取れる奴しか取れない』って感じか……? まぁそれが普通なんだろうが」
どうも本来はクラス技能には習得条件のようなものがあり、それを満たしていない場合はリストに表示すらされないというのが正しいところのようだ。
如何に虎市の初期キャラ作成状態が異常……というか、ザルな状態であるか改めて分かる。
「まぁとりあえず【★勇気】の確認をするか」
呟き、ウィンドウを弄る。
【★勇気】は【★叡智】と同じくユニーク技能の中では成長コストが軽い方ではあるが、それでも膨大な数を要求される。伸ばすとしても2が限界だろう。まずはそこで習得出来る職能技能を確認する。
「────」
「あ、あの……トライチさん?」
固唾を呑んで作業を眺めていたケイトリンは、黙して動かなくなった虎市へ不安げに声をかける。
だが虎市はケイトリンのステータスウィンドウを睨んだまま微動だにしない。
俄に唸りながら顎を撫でる虎市だったが、暫くの後指を動かし始め……そして数分が経過した。
「────これだな」
「もがっ?」
奇妙なうめき声に虎市が顔を上げると、そこには荷物を広げてパンを齧っている少女の姿があった。
彼女はモゴモゴと口を動かしてパンを咀嚼すると、急ぎ革の水筒を咥え水と共に胃に流し込む。
合掌。
「ごちそうさまでした!」
「……あー悪い、放置されて暇だったか。集中してて、つい」
「いえいえ、此方こそ先に頂いてしまいすいません。で、終わりましたか? あんまり技能が変更されたという実感が無いんですが」
「まぁ最終的にはそんなに変化がないような感じだが、職能技能の方を大分弄った感じだ。とりあえずこれを見てくれ」
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▼クラス技能:
【戦士】5、【★勇気】2
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「わー何かすごいシンプルになりましたね」
「【戦士】が下がったんで基礎的な戦闘力が下がった感じだが、そこは【★勇気】の職能技能が補って余りあるはずだ。詳しくはこれから説明するが────」
ステータスウィンドウをケイトリンに投げ返しながら、虎市はちらりと背後へと視線を向ける。
黙して鎮座する隠し扉。その先には未だ魔物の群れがひしめいている頃だろう。
だが、最早問題にはならない。
虎市は告げた。
「これでゴブリン共は一掃出来る」
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