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TOKYO INVERSE -東京反転世界-(EP3)  作者: 高山 理図
1章 巨人の肩にのって
5/20

4話 東京異界の出現

【ご注意】

本作は2027年の話ですが、医療統計、治療法等は2021年時点ものを使用します。

現実世界で2027年になったらその時に改稿して記載を更新します。

「薬谷さん。入りますよ」


 ビニール傘を手にした藤堂医師は、小児科病棟の個室をノックし、中のファルマ少年に声をかける。

 また氷を浮かべていたらどうしよう、と思いながらそろそろと病室に入る。

 私たちには心を開かないのに、藤堂先生のいうことならば彼は素直に聞き入れるんですよ、と看護師の報告を受けたばかりだ。

 少しでも信頼を得ているのだろうか、と藤堂医師は嬉しくなるが、彼は小児科で診るべきで、藤堂医師は内科医。診療科が違うので、あまり関わることもできない。

 ファルマ少年はベッドに腰かけて病院のパンフレットをじっと見ていた。


「院内の散歩に行きませんか。30分ほど時間ができたので」

「はい、院内の案内図をみていたところです。ぜひ行ってみたいです。散歩のあとは院内図書館に行きますね。まだまだ読みたい本がたくさんあります」


 墨西病院は、市中病院としては珍しく患者図書館を持っている。それがファルマ少年にとってはよい環境となった。

 ちょうど、病棟では昼食が終わったところだ。ナースステーションには散歩に行くと伝えておいた。


「そうしましょう。食事はとれてますか? 一応、きちんと食べているとは聞いていますが」

「全部いただいています。この国の食事は、おいしいと感じるものもありますが、今まで食べていたものと異なるので、少し慣れるまで時間がかかりそうです。納豆という食品がいまいちでした」

「納豆は苦手な人も多いですね。無理のない範囲で、食べていただいていいですよ」


 栄養不良などはなさそうなので、本人に任せる。

 藤堂医師は持ってきたストラップつきの傘をファルマ少年に見せる。


「これ、倒れていた時に持っていた所持品です。記憶にありますか?」

「これは雨傘ですか? 辞書で読んだものと形状が一致します」


 ファルマ少年は藤堂医師が持っている傘を注視する。

 ああ、まず傘が何かというところからか。と藤堂医師は了解するが、顔には出さない。


「そうですね、雨傘です。この傘自体はどこでも売っているものですが、このストラップに見覚えはありませんか?」

「どちらも記憶になくて。私の持ち物ではないと思います」


 藤堂医師は否定もせず、にこやかに「そうですか」と頷く。


「すみません。やっぱり私のだと思います。ではせっかくですので雨が降ったら使います」


 ファルマ少年はいらないという顔をしたが、藤堂医師に気を使って言い直した。


「院内の散歩、連れていっていただけますか? この世界の医療にとても興味があります」

「医療に興味があるのですね」


 ド・メディシスなどという設定を名乗るわけだ、と藤堂医師は内心感心する。

 二人は病室を出て、連れ立って歩く。


「あれから、神術は」

「使っていません。ここでは使うべきでないと判断しました。部屋に鍵がかかっておらず、突然人が入ってくると困ります」


 雹を浮かべていた光景も半信半疑ではあるので、もう一度見たいと藤堂は内心思うが、「それがいいでしょうね」、と流す。

 病棟を歩く途中、ファルマ少年は突き当りで鏡を見て立ち止まる。


「これが私の今の姿なのですね。お手洗いという場所でもみましたが、やはり戸惑います」

「違和感がありますか」


 藤堂医師からすると、薬谷 完治は目鼻立ちの整った、さわやかな少年だという印象を受ける。

 栄養状態も良好、成長障害や肥満などもなく、筋力もほどよくついて健康的だ。


「私のいた国には、このように髪の毛や瞳が黒い人間というのはいませんでした。あと、体格も異なっているような気がします」

「なるほど」

「この国は何なのでしょう。私の夢の中の世界なのでしょうか。夢なのであればいつか帰れるかもしれませんね、帰る方法を模索しつつ、この国で学びたいと思います」

「やはり、元の世界に帰りたいと思いますか?」


 今後の治療については小児科か精神科が主科になると思うが、どう思っているかは聞いておく。


「積極的にではありませんが……ここには、知り合いも誰もいないので」

「私のことは、知り合いだと思ってもらっていいです。担当医じゃなくなりますが、この世界で困ったことがあれば、相談に乗ります。それにほら、ここには悪霊というものもいませんし、悪霊と戦う必要もありません。いいでしょ?」

「それはとても魅力的です。ご迷惑だとは思いますが、数日間だけ先生の家に身を寄せてもよいでしょうか」

 

 おおっと、と藤堂医師はのけぞる。

 ストレートな希望が飛んできて、まずいことになってしまった。


「ええと、それがこの国では難しくて。勤務が不規則で帰宅も遅いですし、もう少し入院が必要です」

「すみません、知っています。刑法224条、未成年者略取という法律にふれますね。未成年者とは満二十歳未満の者で、三月以上七年以下の懲役に処されると書いてありました。目的の如何にかかわらず、未成年者本人の承諾があったとしても、違法性は阻却されないと」


 やはり、この記憶力は本物だ、と藤堂医師は恐れいる。

 予め覚えていたとは思えない。 

 昨日の一夜で身につけた記憶なのだろう。


「昨日、あなたのお父さんは宮廷薬師で、あなた自身は薬神を守護神にもつ、と言っていましたか。宮廷薬師とは、王侯貴族に仕えている薬剤師という理解でいいですか?」

「その、薬剤師というのが何なのか、私にはよくわかりません。この世界には、医療にまつわる職業が多すぎます。医師、歯科医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師、臨床工学士などでしたか……辞書を読む限り、サン・フルーヴ帝国における薬師は医師と薬剤師を折衷したものに相当すると考えます。さらに、貴族の薬師は神術を用い、その処方薬は平民薬師の作ったそれとは一線を画します」


 中世から近世にかけて、地球ヨーロッパ世界における薬剤師は、内科医のような役割を果たしていた。というのは藤堂医師も知るところだ。

 なるほど、薬剤師が独立処方権を持っているばかりでなく、調剤にくわえ診療もやる、そこに神術が絡んでくる。そんな世界設定なのか、と藤堂医師は彼の脳内の設定を整理する。

 余計なことを言って彼が口を閉ざしてしまわないよう、彼の設定を尊重しなくてはならない。

 と、藤堂医師は心得る。


「この病院は、私のいた国より進んだ医療技術を持っているように見うけられます。また、未知の薬剤を多数使用しています。神術のない世界ならではの、平民社会にも工夫が必要なのでしょうね。私がこの国に滞在している間に、平民たちの医学や薬学を学ぶべきだと愚考しました。藤堂先生、本日より、私も見習いという形でかまいませんので診療や調剤に参加することはできますか?」


 10歳が診療に参加、などと言い出すので、藤堂医師はぎょっとしてしまう。

 お医者さんごっこはプレイルームでね、などとは言えない職員らが対応に苦慮するに決まっている。


「気持ちはわかるのですが、まずは医師免許か薬剤師免許が必要になるでしょうね」

「そうなのですか、その二つの資格をとるのは難しいのですか? 年齢制限はありますか?」

「ええと……二つともとるんですか? 調剤に加え診療もということだったら、医師免許だけでも良さそうです」


 まあ、医師兼薬剤師が世の中にいないわけではないのだが。


「はい、では医師免許でもいいので」

「一般的には難しいとされていますね。18歳になったら大学に入れますので、そこから6年間勉強して国家試験に合格すると医師か薬剤師にはなれます。医師として診療する場合には、そこからさらに二年の研修が必要で、最短だと26歳になりますね。ちなみに、薬剤師は診療はできません」

「そうですか。ではあと16年近くもかかるのですね。いつまでこの国にいられるかわかりませんが、頑張ります。平民の皆さんにできることなら、貴族である私ができないということは許されません」


 その言い方は、いつか平民の皆さんに怒られます。

 と藤堂医師は伝えたいが、今、口をさしはさむべきではないとも思いなおす。


「ご自分に厳しいのですね」

「できないことが許されない家で育ちましたから……、その方針に合わせるだけです。藤堂先生は、やはりお父上が医師の家柄で厳しく育てられたのですか?」

「父は何だろうな……厳しいというか、何というか。変わった会社の経営者でした。あ、でも母は田舎で小料理店をやっています。結構美味しいんですよ」


 藤堂医師の家庭環境は込み入っているので、一言では話せない。


「ご両親が医師でないのに、あなたは医師なのですか。どうして、家業を継げと言われなかったのです?」

「この世界には、家業というものがありませんのでね。その人の考え方が尊重される自由な世界です。この世界は平民の世界なのでどんな仕事にも就けますし、何だってできますよ」

「この国には、職業選択の自由があるのですよね。日本国憲法の項目で学びました」


 ファルマ少年はしゃがみこんでいた鏡の前から立ち去り、今の姿を受け入れるかのように顔をあげた。


「薬神様の加護を持つ私に、職業選択の自由はありません。だからこの世界の人たちは少し、羨ましいと思いました」


 そんなファルマ少年に、藤堂医師はなんだ、と笑いかける。


「では、この世界にきたあなたは、やっとその薬神様の束縛から自由になれたのではないですか?」


 あっ、とファルマ少年から小さな声が漏れて出た。



 藤堂医師は、ファルマ少年を連れて約束通り院内ツアーを敢行する。

 患者が立ち入りしてよい部分だけ見せて、各診療科やスタッフルームなどには入れないが、遠くから社会見学をする程度で十分だ。

 ファルマ少年は、病室で借りた筆記用具を持ってきて熱心にメモをとりはじめた。


「この病院は地域医療の中核を担う、総合病院といったところです。730床の入院患者に対応し、外来では1500名が訪れます。提供している医療は、まず救急救命医療、24時間いつでも、ほかの施設と連携をとりながら、救急患者の受け入れを行っています。ファルマさんも救急患者の一人としてここに来たのでしたね」

「24時間も病院があいているのですか。いつ寝るのですか」


 ファルマ少年は子供らしい勘違いをしている。


「スタッフが順番に交代して寝ていますよ」

「この、総合周産期母子医療センターとは」


 ファルマ少年は通りがかった施設の入口の看板を見ながら、藤堂医師に尋ねる。


「周産期医療、これは出産、新生児関連の医療ですね。超未熟児などにも対応していますよ」

「中に入ってもいいですか、何をしているか見たいです」

「それはできません。HPに紹介動画があるので、中がどうなっているのか、あとで見せましょう」


 部外者は立ち入り禁止です、と藤堂医師はきっぱり一線をひく。


「そうですよね、すみません。私の国では出産で亡くなる母親や、子供も多いのです。子供は特に死産が多くて」

「そうですか。この病院では、通常の赤ちゃんの1/3程度の体重で生まれても9割ぐらいの確率で助かりますよ」

「あ、ありえない……母親はどのくらいの死亡率ですか?」

「妊婦死亡率は出生人数100,000人に対して3ぐらいですね。周産期死亡率は1,000人に対して3くらいです」

「ほとんど死なないのですか」



 どこまで説明をしていいものかな、と考えながら、藤堂医師はファルマ少年の質問に答える。


「私の国では亡くなってしまうような状態の母親も子も、この世界では助かるのですね。ちょっと言葉になりません、父や兄がなんというでしょう。母は一人子供を亡くしています。ここなら助かったのですね」


 ファルマ少年は必死に質問し、メモをとっている。その見慣れない字が、慣れた筆跡で書きつけられてゆくさまを見ながら、藤堂医師にはどうしても、彼が解離性健忘などをわずらっているようには見受けられなかった。

 藤堂医師としては院内ツアーも、患者が院内生活で利用できる施設、食堂やカフェ、憩いのスペースなどを中心に案内をしようと思っていたのだが、ファルマ少年はそれには興味を示さず、提供されている医療について聞きたがる。この世界の薬剤師というものや、薬剤部の機能も見たいと言っている。採血室の様子は、部屋の外から見学できた。採血とは瀉血とは違うのですよね、などと言っていた。


「こちらは各種感染症医療の病棟です。各種感染症に感染した患者さんが療養しています。例によって中には入れませんが」

「各種感染症とは?」

「そうですね、結核が多いですが、コレラや赤痢なども来ますかね……エボラ出血熱とか恐ろしい感染症にも対応出来る病室があるんですよ」

「エボラというのは知りませんが、結核とは白死病のことですよね。英語ではWhite deathです」


 ファルマ少年は身を乗り出してくるので、藤堂医師は「白死病?」としばし迷った。


「あぁー、昔はそういう言い方もありましたね」

「どうやって治すのですか……!? 私の国では死病として恐れられていました。黒死病ももしかして治るのですか?」

「黒死病とはペストのことですね。抗菌薬というものを適切に使用すれば、ペストや結核で亡くなる方は殆どいませんよ。さらに、いくつかの感染症については、現代人は生まれてすぐからワクチンを打って予防をしていますのでね」


 藤堂医師は現代では当然のことを述べたまでだが、ファルマ少年の驚愕を置き去りにする。


「どんな調合方法の薬で治るのですか⁉ ワクチンとは何ですか? それがあれば、どれだけ多くの人々を救えたか」

「それを説明するには、少し話が長くなりそうです。ファルマさん、読書は得意なのですよね」

「はい、今、藤堂先生がすすめてくださった学校教科書というものの、国語と英語、数学の教科書は、高校一年生というコーナーのところまで読みました」

「えっ、高校一年生……」

「はい。国語は辞書と重複している部分が大多数で、数学については幾分理解していましたのでざっとしか読んでいませんが。英語というものは英語辞書を読めばわかりましたので、割愛しました」

「ええとね。おかしいな、まだ一日しか経ってないんですよ……もう読んだのですか」

「効率的に勉強をする方法は、父や兄にしごかれて心得ていますし、言語学についてはすでに五か国語を話せますので、どうということはありません」

「こんなにすごい記憶力を持っているのに、しごかれるネタがあるんですか?」


 単なるイビリではないのか、と藤堂医師はファルマ少年の脳内にいる父と兄をなじりたくなる。


「父や兄は常に完璧なので……すごいなんて言ってくださったの、先生がはじめてです。私は一族の落ちこぼれで。褒めてもらったことなんてありません」


 ファルマ少年はぎこちない笑顔で、嬉しそうにほほ笑む。

 何なら本当に過去からタイムスリップしてきた天才なのではないか、とこの時ばかりは藤堂医師も思った。彼は昨日、五十音を覚えたばかりなのだ。


「いや、すごいと思いますけど。そうですね、理科、あるいは生物、化学……とにかく、サイエンスの教科書を読めば、あなたの疑問の答えは得られます。ああ、そうか。その分野の教科書は、別の棚にありました」

「今すぐ読みたい気分です。それを読んだ後、また改めて教えてください。もっとよく理解してからにしたいです」

「それでは、院内ツアーは中止して図書館に行きますか?」


 こういう時は少年のやりたいことを優先する。

 ファルマ少年は図書館に到着すると、化学の教科書をとってデスクで読み始めた。


「では、読書タイムにしましょうか。一時間ほど読みますか?」

「二時間ください。……あっ」

「どうしましたか?」

「私は勘違いをしていました」


 何かまずいことでも起こったのかと藤堂医師が慌ててファルマ少年の顔を覗き込むと、彼はすでに化学のテキストを数ページめくったところだった。


「私は水の神術使いではなく、酸素と水素と水の神術使いだったのですね。H2Oで水なのですね、面白い。ということは、H2もO2も、H2O2やO3だって作れそうです。まるでパズルのようですね、この病院を出たら、また今後訓練で試してみましょう」


 この時ばかりは、藤堂医師も背筋にぞくりと冷たいものを感じた。


「ええとですね、ちょっと水以外は勘弁してください。加減を間違えると爆発など起こりますので。それは病院の外であってもです」

「そうなのですね。わかりました」


 危ない。都内各所で原因不明のガス爆発が多発、なんてことになりかねない。


(冒頭のみでこの反応……彼がこの世界の知識を吸収してゆくにつれ、彼はこの世界をどのようにとらえるのだろう)


 表面上はただの十歳の少年でしかないのに、得体のしれない怪物を育てているような、そんなイメージすら脳裏によぎる。

 藤堂医師は動揺を隠しながら「では、適当なところで病室に戻ってくださいね」と言って図書室の外に出てきた。

 彼は白衣を脱ぐとそのまま病院を出て、錦糸町駅北口からゆうちょ銀行に立ち寄る。


「ああ。今月も学会費で給金が消えていくか……勉強会もあるし」


 ATMの前でそう嘆きながら各種振込や手続き等をしていた藤堂医師のバッグに、けたたましい振動が入る。

 バックをあけて確認すると、携帯の振動ではない。

 彼はバッグから手のひらサイズの黒い立方体を取り出した。


「これが現れたということは」


 彼はその意味を知り、表情を引き締める。

 ゆうちょ銀行を出て、北斎通りの雑踏の中をいくらか歩調を速めて歩きながら、立方体の通信機能端末を介してハンズフリーで何者かと会話をはじめる。

 彼の額には、緊張のためじっとりと汗がにじんでいた。


『はい、藤堂です。記憶封鎖を限定解除されたのですね』


 藤堂医師は何者かと会話しているが、端末は音声を発していない。

 念による通信だ。


『ファルマ・ド・メディシスと名乗る少年ですね。確かに搬送されてきました。当直中の私のもとによこしたのは、あなたの差配ですか?』


 藤堂医師は目を閉じ、一歩半立ち止まって、痛恨といった表情を見せる。


『やはりそうですか。はい、東京都内全域を暫定封鎖ですね。かの異世界の神力、神術とは、現空間の物理法則に准じますか?』


 藤堂医師は的確な質問を送り、次々と必要な情報を受け取る。


『本件、お預かりしました。記憶を解かれたのは、私だけでしょうか』


 藤堂医師は錦糸公園に入り、雨の降り始めた鈍色の空を見つめた。


中央神階セントラルへ報告。それでは現在時刻より、第四の創世者の勅命により陽階神(Positive Order)へ帰服します』


 彼はこの宣誓の瞬間から第四の創世者へ帰服し、人間であることをやめた。

 宣誓の直後から、彼の肉体は急速な変化を始める。


『東京異界発生につき東京都内に限り、

 神力およびアトモスフィア限定行使を容認との旨、拝承しました。

 私の権限で執行可能な情報量を開示ください』


 藤堂医師は上位存在より自身に委託、付与される権能を確認する。


『陽階神 藤堂 恒より神具管理機構へ申請。

 前述東京異界内に限り、形而立方体(FC2-MetaPhysical Cube)を拝領します』


 彼の手に載っていた黒色端末は、いつの間にか六面異なる色のルービックキューブへと変容していた。彼の記憶の封鎖が解け、この立方体の使用方法を思い出す。


(記憶を解かれたのはたった一人。人間世界で安穏と暮らしてきたブランクは痛い。でも)


 東京異界において彼の視床下部は再活性化され、本来この時空には存在しえない、ダークエネルギーを合成しはじめた。


「あの子が命を脅かされていると知ったら、見捨てるわけがないでしょう」


 この世界がファルマ・ド・メディシスという特異解を受け入れたとき、

 東京の街に、異界が出現しようとしている。


 今度の終末は、ここ東京が起点となる。


【謝辞】

・本項の医療描写部分は医師・医学博士 村尾命先生にご監修いただきました。

・本項の妊婦死亡率、周産期死亡率等について、北極28号様より指摘事項をいただき修正しました。

誠にありがとうございました。

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