表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/10

8:追記:ランサの花

〇これは、ラダメスに報告をし、トルト・ガルファが名を変えて外交顧問になってから一年後の出来事である。

 その日、私はいつも通り道化師の恰好で領内の見回りに出かけていた。

 そして、いつも通りに旧アルカデイアに入ると、これまたいつも通りに、夜半過ぎにある場所を訪れた。




 エーデル城跡は今では埋め立てられ、住民の(いこ)いの場である巨大な庭園になっていた。

 私は屋台で買ったウースラのパイを食べながら、歩を進める。

 エーデル城の中庭だった場所は、一面の花畑になっている。季節ごとに変わる花畑は、今はランサであった。


 ランサの花は今が旬で、見渡す限りに淡い桃色が溢れていた。

 あれほど酷い事が起きた場所であるはずなのに、まるで楽園のように見えた。


 私は歩を進めると、優しく甘い香りを胸いっぱいに吸い込み、その色に見惚れた。

 どこにでもあるけども、たくましくて、けなげで勇気が湧いてきて、涙が流れる。

 そう言った彼女を、恐らく私は手にかけた。

 あの大キメラの、頭はきっと彼女だったのだろう。


 風が吹いた。


 はっとして顔を向けると、ランサの花畑の中に、それは立っていた。


 それは、ただ孤独にその中に立っていた。


 あの日と同じく、深くフードを被ったそれ。

 月光が、フードの奥を照らす。


 奇妙に捻じれていたが、それでいてある美しさがあった。

 風が吹き、ランサの花が一斉にそよぐと、それはこちらを見た。

 ああ、と私はため息をついた。

 ようやく面と向かえた。

 かつて、その花の名前と同じ少女の名前を、それはどんな思いで、あの時口にしたのか。

 そして父と秘かに(した)ったトルト・ガルファを、追撃しようとした暗殺者を(ほふ)りながらも死地に導いた、その思いは――


「あの時はすまなかった」

 私は、そう言った。

 殺されても仕方がない事を私はした。

『まあ、あんたはよくやったよ』

『こいつも感謝してるのさ』

 老人と女の声がそう言った。

「私を殺さないのか」

 私がそう言うと、勇者はこう言った。

『彼女を救ってくれたあなたには、感謝しかありません』


 そうして、再び風が吹くと、揺れるランサの花の陰に隠れ、それは永遠に私の前から姿を消した。

 あとには、月明かりに照らされたランサの花があるだけだった。


 私は、道化師にして、国の要職に就くものとしてあるまじき行為をした。


 さめざめと泣いたのである。


 了

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ