5.これがホントの褒め殺し!
ムスコと命の危機だったけど、なんとか乗り切ったよ。いや、ある意味、尊い犠牲は払ったけど・・・。
あれから僕は、あれというのは文字通りアレのことだけど、賢者の如く精神が落ち着いたので、なんとかパンティに異世界から来たことを納得させ、
それならやっぱりお城に来てくださいね、ということになり、パンティのお城に向かうことにした。
パンティのお城と言ってもあれだからね、パンティでできたお城じゃないよ。
……いや、その可能性もないことはないのか。
正直この世界の文明レベルよくわからないし。
とにかくパンティのお城に行くことに不安がないわけでもなかったけど、英雄というからには、それなりに厚く待遇してくれるだろうし、
文字通り西も東もわからない世界で一人でいられるほど僕の精神は孤独や孤高を望んでいるわけでもない。
だから当然の帰結というか、安定を求めた結果の冒険の放棄というか、僕はパンティのお城に行くことにしたのだ。
「お父様にプチプチで連絡したところ、連れてこいって許可を得ましたので」
パンティがそんな、まるでつき合っている彼氏を親に紹介するみたいに言う。
どきっとするよりも、これって怒られるパターンじゃないかと、心配のほうが上回る。
何かとこの子の言動、不安なんだよね。
ちなみに『プチプチ』ってのは、僕の世界でいうLINEみたいなもので、なんで知っているかというとたった今、見せてもらったからだ。
この世界の言語は、何故かひらがなで、僕が言葉に不自由することはないみたいだ。
漫画やラノベとかだったら、魔法で翻訳されているとかそんな設定があるけど、もしかしたら僕は知らない間に、翻訳機能を植えつけられたのだろうか?
ちょっとあんまりいい気持ちはしないな。
しばらくすると、僕に倒された女騎士たちが漸く目を覚ましはじめて、僕を見て臨戦態勢をとる人も多かった。
けれど、すぐにパンティが説得してくれて、ウルザさんが特別だったのか、あっさりと英雄だという話を信じてくれた。
「私のお城は、ここから十分くらいの場所にあります」
パンティが元気よく答える。
そうして先陣を切って歩くパンティに続くようにして、僕と女騎士たちが続く。
四人くらいで担ぐ輿のような乗り物が一つあったけど、これはパンティ専用の乗り物らしく、僕が歩くということもあり、「良平様が歩くならば私も」とパンティが言い出したことで、無人のまま僕の後ろをついてきていた。
それ自体は普通の行進だったのだけど、僕はその行進の中に、途轍もない違和感っていうか、凄く気になるモノを見つける。
気絶したままのウルザさん。
女騎士たちは、ウルザさんの両手と両足をそれぞれ紐で縛ると、人喰い族に拉致される外国人というか、焚き木で丸焼きにされる豚のように、紐の部分に木の棒を通し、前後二人ずつに分かれて、担いで移動していたのだ。
この集団の中にあると仲間を運んでいるというよりは、戦利品を運んでいるような気がして、妙な気分になる。もっと普通に運べないの?
「ねえ、お姫様」
「なんですか良平様パンティとお呼びください!」
パンティが勢いよく自己主張してくる。
なんとしてもパンティと呼ばせたいらしいが、僕はガンとしてそれを良しとしなかった。
だって恥ずかしいんだもん。
「キミたちは仲間を運ぶとき、いつもあんなふうに運んでいるの?」
「あんなふう?」
パンティがきょとんとした表情(もの凄く可愛い)をしたあと、僕の視線を追ってウルザさんのほうを見る。
「はい。いつもあんな感じですけど、それが何か?」
やっぱりというか、いつもあんな感じなんだ。
僕にはわからないけど、途中で目を覚ましたときって、どんな気持ちなんだろう?
僕だったら嫌だなぁ。
「あの乗り物に乗せてあげることはできないのかな?」
僕は、無人の座席を晒してついてくる神輿のような乗り物を右手で示した。
「え~と」
パンティが考えるような仕草をする。
と、そのときだ。
「そんな大それたこと!? これは王族専用の御輿です。たとえ姫様がお許しになられたとしても、承諾するわけにはいきません!」
輿を担いでいた女騎士が飛んでもないと言ったふうに抗議の声をあげた。
やっぱりというか、失礼なことだったのか。
ここの文化がよくわからないうちに余計なことを言うべきじゃないな、と反省しつつも、ほかのアイデアを提案してみる。
「普通におぶって帰ったら駄目なの?」
「おぶってですって!?」
パンティが目を丸くする。
そればかりか、周囲の女騎士たちが
「おぶって!?」
「今おぶって、と言ったのか!?」
とざわめき立つ。
なに?
なんか変なこと言ったかな、僕。
「それは無理です。良平様。おぶってってことは、一人の人間が背中に背負って帰るって意味ですよね?」
改めて説明されると、それでいいのかと一瞬、頭の中で考えてしまったけれど、問題ないみないなので「うん」と答えた。
「小さな子供ならまだしも、大人の体は非常に重いんです。それを一人の力で背負って帰るなどど、夢物語に等しい戯れ言です」
え? なに言ってんの、この子。
大人の体が重いって。
そりゃ、子供と比べたら少しは重いだろうけど、背負えないほどじゃないと思うよ。
っていうか、ウルザさん、そんなに太ってないじゃん。
「もしかして英雄様は、人ひとりを背負って帰ることができると言われるのですか?」
女騎士の一人が畏まった顔つきで尋ねてきた。
栗色の髪をボブカットにした、普通に僕の世界にもいそうな感じの女性だ。
「ラクチェ、頭は大丈夫か? いくら英雄といえども、そんなことができるはずないだろう」
ほかの女騎士が、ラクチェさんを窘める。
それに続くようにして、「やっぱりそうだよな」「人を背負って帰るなんて無理だよ」という、なんか逆に、僕を煽ってんじゃなかろうかと思うような言葉が漏れ聞こえてきた。
なんだろう?
ちょっとむず痒く、おさまりが悪い。
僕は体力があるってわけじゃなく、これまた普通の高校生の体力しかないのだけど、やれそうなことを絶対無理だと言われてはおもしろくない。
僕だって男の子なのだ。
「試してみていいかな?」
僕はそう主張していた。
「何をおっしゃっているのです?」
女騎士が戸惑ったように言う。
「良平様、気を悪くされたのなら謝ります。人を一人で背負うなどという難業をあえて選択する必要はないのですよ。押し潰されたらどうするんですか?」
パンティがおろおろしながら説得を試みる。
いや、なんか凄いことに挑戦するような雰囲気だけど、人を背負うだけだからね。
それも痩せ気味の若い女の人を。
「無理だったら諦めるよ」
僕がウルザさんに近づくと、女騎士たちは戸惑ったように互いの顔を見詰め合ったあと、ウルザさんを地面の上に降ろしてくれた。
なんだろう?
両手両足を縛られたビキニ姿に近い女の人が、無防備な姿をさらしているのを目の当たりにすると、なんかこう、もの凄く悪いことをしているような罪悪感がこみ上げてくる。
「手のほうはそのままでいいから、足のほうを切ってくれないかな」
さすがに足を縛ったままの女性を背負うことはできない。
お姫様抱っこなら可能だろうけど、あれは体力的に無理だろうことは、想像に難くなかった。
「足を切断ですか? 確かにその分軽くなりますが……」
「ちょっと待った!!」
なんて勘違いをしているのよ、この女騎士――確か名前はラクチェさん。
確かに誤解を招くようなことを言った僕にも責任があるかもしれないけど、普通に考えて足をちょん切ったら駄目でしょ!?
「僕の言い方が悪かったよ。僕としては足を縛っている紐を切断してほしいって言ったつもりだった」
「そうですか、残念です」
残念なんだ。ウルザさんになんか恨みでもあるのかな、ラクチェさんって。
とにかく足を切断とか普通に発想が怖いよ。
そうしてラクチェさんがウルザさんの足の紐を切ったあと、僕はしゃがみ込んで、輪となっているウルザさんの腕の中に顔を入れて、彼女を背中に乗せ、立ち上がると一緒に、太腿を持ち上げた。
すべすべとした膝裏の肌の感触が手に吸いつくようで、背中に硬い皮の感触が二つ、位置的にも形的にも、これって絶対おっぱいだよね、という感触を感じ、半分の後悔と半分の幸福感を覚えた。
「す、すごい。たった一人で人間を持ち上げたぞ!」
「なんという怪力だ!」
「これが英雄の力なのか!?」
女騎士たちがどよめきの声をあげる。
いや、褒められて嬉しくないことはないんだけど、なんか誰でもできそうなことをやって褒められるのは、微妙な部分がくすぐったい気がする。
まるでトイレに一人で行けて褒められる、小さな子供の気分だ。
「凄いです。さすがは良平様。これが伝説の英雄の力なんですね!!」
パンティがうっとりした表情で言ってくる。
どきっと心臓が高鳴った。
こんなに可愛い子に褒められるなんて、僕の人生に今までなかったことだ。
これはへへっ、超気持ちいい。
「べ、別に、こんなこと、僕の世界では誰にだってできることだし」
ちょっとツンデレ気味の弁明をする。
さすがに僕の精神が照れすぎてもたない。
これが褒め殺しというやつだろうか。
「な、なんとう謙虚な心!」
「これだけのことをやって、あの余裕!」
「私は到底できないことだわ!」
いや、だから。褒めすぎだって!
お読みくださりありがとうございます。
次は、背中に背負っているウルザさんが目を覚ますよ。「私を倒したあいつはどこだぁああ!」ってすごい剣幕だよ。背負っているのバレたら、やばくね?
ってな感じです。
こう、ご期待!
楽しんでいただけましたら、ブックマークと、下にスクロールして☆を押していただけるとすごく嬉しいです。どうぞよろしくお願いします!