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4.上下責め!

女の子の名前がパンティだとわかったよ。あと、この子がアホの子だともわかったよ。

「ううっ」


 不意に地面からくぐもった声が聞こえた。

 すっかり存在を忘れてしまっていたけど、隊長と呼ばれた女戦士が目を覚ましたのだ。


 これってもしかして、また一悶着ある感じかな。


「はっ! 私はいったい。はっ! 貴様は先ほどの強姦魔! あの頃は、はっ!」


 なんとも忙しい科白を吐いて女戦士は立ち上がると、慌ただしく地面に落ちていた短刀を拾い上げ、再びそれを構えた。


「姫様、離れてください!」


「待って、ウルザ」


 パンティが制止の声をあげる。

 っていうか、この戦士さんの名前は普通なんだ。


「どうして止めるのです。はっ! まさか、すでに行為を終えてメロメロに!?」


 真面目な顔で、なに言っちゃってるの、この人。


「そんなことはどうでもいいの」


 よくないよ。

 ちゃんと否定してよ。

 今にも斬りかかりそうな顔しているよ、ウルザさん。


「このお方、木村良平様は、伝説の英雄なの」


「「伝説の英雄!?」」


 僕とウルザさんの声が、不本意ながら、というか不本意な表情をしたのは主に向こうのほうだけど、重なった。


「そうです。……細かい部分は忘れちゃったけど、確か異世界からやってきた人は英雄だったはず」


 ざっくりしすぎだよ! 


「バカな!? ではこの男は、わざわざ異世界からやってきて、姫様を押し倒したと?」


 いや、そこにつなげちゃダメでしょ?

 別に僕はわざわざ女の子を襲うために、異世界にやってきたわけじゃないからね。


「はい、そのとおりです」


「否定してよね!」


 僕は思わず叫んでいた。

 本当、疲れるよ、この人たち。


「彼が英雄ならば、客人として我が国に迎えるべきだと思うの」


 パンティが真剣な表情で言った。

 ウルザさんはどこか不満げな様子だ。


「確か予言書にも書いてありましたね。細かい部分は忘れましたけど、何かラッキーなことが起こると」


 だから、ざっくりしすぎだって!


「英雄を拾って帰れば、お父様たちもお喜びになると思うの」


 まるで学校からの帰り道で、捨て犬でも拾ったみたいに言う。


 その表現だと、お父さんに喜ばれるどころか、捨ててこいと怒鳴られるパターンしかイメージできないけど、大丈夫かなぁ。

 あとで増水した川に、段ボールに入ったまま流されたりとかしないよね。


「私は反対です」


 ウルザさんが忌々しげに、吐き捨てるように言う。


「どうして? 何かいいことが起こるかもしれないのよ?」


 パンティなんとも説得力に欠ける説得を行うも、ウルザさんは渋面を作ったままだ。


 そして僕を短剣で指し、やや涙目になってから答える。


「こいつ、嫌いです」


 なんともまぁ、ストレートな科白を口にした。


 いや、なんとなく嫌われているだろうなとは思っていたけど、まさか面と向かって言われるとは思っておらず、晴天の霹靂というか寝耳に水というか、うわっ、これは結構ショックだ。


 だって僕の世界じゃ、嫌いでも面と向かって言うことないしさ。

 これ結構グサってくるよ。


「嫌いなら仕方ないですね」


 いや、確かに仕方ないけど、こう、もうちょいなんとかしてみてよ。


「でも、それはそれ。これはこれ。私は良平様をお城に迎えたいと思っているの」


 パンティが両手を組んで拝むようにして言う。

 彼女が味方になってくれたことに、僕は内心でほっと息をついた。


「ですが、姫様。この者が本当に英雄かどうか怪しいものです。異世界から来たというのは本当なのですか?」


「え?」


 パンティはきょとんとした表情をして、まるでこけしの首を回すように、ぎぎっとそのままの表情で首を回すと、僕の顔をまじまじと見た。


 僕はどういう表情をしたらよいか分からず、かっこつけても似合わないし、苦笑いを浮かべても意味が分からないだろうし、寂しそうな表情をしても、それはそれで惨めな気がして、まるで「この人痴漢です」と電車で手を掴まれたときのような気持ちのまま、パンティを見つめ返す。


 パンティが一歩後ずさった。


「って、なんで後ずさるの!? 僕が異世界から来たのは本当だって。ほら、これスマホ。こっちの世界にはないでしょ?」


 僕は慌てて、ポケットからスマホを取り出した。


「それなら私も持ってますよ」


 パンティがどこからか、スマホを取り出し、


「私も持っている」


 ウルザさんも、あのビキニアーマーのどこに隠し持っていたのか、スマホを取り出してくる。


「うそ!? ファンタジーの世界観ぶちこわしだよ! ジャガトマ警察が黙っていないよ!」


 僕は激しく動揺する。

 っていうか、こんな長閑な風景なのに、電波とか通じるの!?

 文明レベルがわからないよ。


「これで貴様が嘘つきの強姦魔だということが判明したな」


 ウルザさんが勝ち誇ったように言う。

 嬉しそうに短剣をシュッシュッと、手首のスナップだけで振り回して、僕を威圧してくる。

 命令がなくとも、飛びかかってきそうな雰囲気だ。


「だから違うって、ほら、服装。僕の服装って変でしょ?」


「変? どこがですか?」


 パンティが首を傾げて問うてきた。


「だって、そんなほとんど裸に近いような露出はしていないし、生地は厚いし、ほら、見比べて、なんか違うなぁ~とか、思わない?」


「なに!? ほとんど裸だと!? 貴様は、私や姫様をそんな卑猥な目で見ていたのか!」


「やだ、目で犯される! 見ないで!」


 叫んで、パンティが再び、僕の目を隠そうと突っ込んでくる。

 っていうか、この子本当、学習能力がないな。


「目で犯したりしないよ! 事態をややこしくしないで!」


 僕は先ほどと同じように、パンティの両手を掴んで、今度はそのまま持ち上げた。


 パンティの足がバタバタと空中を駆け、まるでオリンピック選手が走り幅跳びをするときのように、前後に大きく動き、

 次の瞬間、そのつま先が僕の股間に突き刺さる。


 ──チ~ン!


 金的。


 それは男性に生まれたことを悔やむほどの、壮絶なる痛みを伴った、レゾンデートルをも揺るがす哲学的な激痛である。


 うん。

 なんか難しい言葉を使ったけど、結局は痛いしか言っていない。


 でも、この金的の激痛。

 とある記事によれば、出産のときに女性が感じる痛みの、およそ一六〇倍に達するらしい。


 一六〇倍だよ、一六〇倍。


 そこまで痛くする必要ないんじゃない!?

 悶絶って言葉は、金的のためにあるようなものだよ。


 と僕は一瞬の間にそこまで思考を走らせて、

 次の瞬間、「ポア!」と某宗教で殺害を意味する不吉な叫びをあげると、両手を股間に埋めるようにして、文字通り悶絶した。


 しかし、悲劇はそれだけでは終わらなかった。


 僕の両手から解放されたパンティは先ほどの続きとばかりに再び突進してきて、前屈みになった僕の両目に、その可憐な指先を突き刺してきたのだ!


「ホゲラ!」


 僕はどっかのアニメのタイトルの略称みたいな悲鳴をあげると、股間と両目という、離れた位置にある部位を片手ずつで押さえながら、もんどりうった。


 そしてどんな偶然があったか分からないけど、バタバタと動かしていたパンティの足と僕の足とが絶妙に絡み合い、プロレス技である四の字固めを決めてきた。


 「ちょ、チョーク! チョーク!」


 僕は必死に地面を叩くが、パンティは「あれ? これどうやったら取れるの?」と絶望的な声を漏らしていた。


 やばいよ!

 このままじゃ、足が折れちゃうよ!


 僕が必死に悶絶するほどの激痛から抜け出そうと体を捩らせていると、傍らに立つウルザさんと目が合った。


「殺すチャ~ンス」


 何か物騒なことをおっしゃいましたよ、この人!? 


 ウルザさんは、目の前に餌を差し出された蛙がさも当然とばかりに舌を伸ばすように、ある意味不気味な無表情を顔に張り付かせたまま、手に持った短刀を振り下ろしてきた。


「うわ! あぶなっ!」


 僕は必死に体を回転させた。

 僕の頭があった場所に、ウルザさんの短刀が突き刺さる。


 この人マジだ。


「ぎゃあああ!」


 僕は思わず悲鳴を上げてしまった。

 

 四の字固めを決められている状態で、回避行動をとったため、やばい感じで足がぎしぎし悲鳴を上げている。


「隙あり!」


 激痛に悶える僕の隙を見逃すはずもなく、ウルザさんの短刀が、僕の頭上から猛烈な勢いで押し迫ってきた。


「ふぐっ!」


 僕はまたもや情けない声をあげると、真剣白刃取りの要領で彼女の一撃を止める。


 たぶん、通常の僕であれば、ウルザさんをそのまま短刀ごと投げ飛ばせるだろうけど、パンティに四の字固めを決められている僕は、力を存分に奮うことができずに、上下からの攻撃に耐えるだけで精一杯だった。


「ええと、こうかなぁ」


 足を外そうとしたパンティが、なぜかブリッジを決めた。

 

 猛烈な痛みが襲い来る。


 これってあれじゃね?

 伝説の技フィギュア・エイトじゃね?


 死ぬがな! 死んでしまうがな!


 僕は「ひぃ」とか「くぎゅ」とか、あとで聞いたら恥ずかしくて死にそうになるような、情けのない声をあげながら、なんとか危機を脱しようと思考を巡らせる。


「死ね死ね死ね死ね!」


「こ、こうかな~」


 無理じゃー!!


 この状況で頭なんて回んないよ。

 上では殺されかけていて、下でも死にかけているなんて、どんなベルセルクだよ!?


 この環境下で、危機から逃れる方法なんて思いつくはずないよ!


 そんな僕の心の悲鳴を無視して、ウルザさんが短剣を突き立てようと、体重を乗せてくる。


 無理。

 ムリムリムリ!

 無理だから


 と、そのときだ。


 なんとか足を外そうと奮闘していたパンティが、ついに脱出に成功する。

 

 足の激痛が遠のき、僕の思考が一瞬にしてクリアになる。


 林修先生の顔が思い出され、あのフレーズが思い出される。


「反撃するなら──」


 今でしょう!!


 僕は捻るようにして、短剣を横にずらし、近づいてきたウルザさんの顔に頭突きを食らわせた。


「うっ!」


 短い声をあげて、ウルザさんが気絶する。

 やっぱりこの人、打たれ弱いよ。


 僕は再び地面に転がるウルザさんを見下ろしながら、ほっと息を吐く。


 これで当面の危機を脱した。

 戦いは終わったのだ。

お読みくださりありがとうございます。


次回は、おんぶしただけ、怪力と崇められるお話です。

ほめ殺しから、-を引くと、はめ殺しになるよね?


楽しんでいただけましたら、ブックマークと、下にスクロールして☆を押していただけるとすごく嬉しいです。どうぞよろしくお願いします!

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